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14話 りんねてんせい

 テンネとビーンズは周囲を探索していた。ちょうど、目当ての山菜の生えていそうな地形が見つかったので、辺りを探そうということになったのだ。


 わずかに日の差す湿った地面にビーンズが足をつけると、ずぶずぶとからだが沈んでいった。泥状になっていたらしい。


「うわととっと」


「お、ダイジョブか。ビーンズ」


 テンネはビーンズの手を掴み、引っ張り上げる。


「は、はい」


「おう、気をつけろよ」


 にかっと笑うテンネの表情が、かつてのリンの笑顔に重なる。まったく異なる容姿であるはずの彼女にも面影があるというのは、不思議な感覚であった。


「今度は手が届いたぞ。へへっ、前世の無念を晴らせたってもんだ」


 テンネは照れくさそうに頭をかいた。


 彼女は言った。


『私はリンの生まれ変わりだ』


 信じられなかったビーンズは、リンしか知らないであろういくつかの質問をしてみたが、テンネはスラスラとそれに回答した。


『……テンネさんも、転生者ってことですか?』


『ビーンズとは事情が違うけどな。私は前世を覚えている。バグなんだよ、獣人は。本来ひとは転生時に記憶を失う。だが、次に引き継いでしまうのが獣人だ』


 彼女は説明した。


『前世、リンは獣人だった。獣人っていうのは、人間の魂と獣の魂が、混じり合うことなくひとつの肉体に入ってしまった者だ。つまり、ひとつの肉体にふたつの別の魂が入っているってことだな』


『…………』


『獣人は死後、肉体を失うことで、魂は分離する。そして二つに分かれた魂は、そのまま地上に戻り、新たに生まれた赤ん坊のからだに入り込むって仕組みだ』


『なる、ほど』


 ビーンズは頷いた。たしかに、ビーンズやフランとは仕組みが異なるようであった。ビーンズらは、一度女神(天使?)のもとへ行き、別の世界へ転生する。それに対してテンネはそのままこの世界に残るということなのだ。


 ここまで聞いて、ビーンズは気になっていたことを尋ねた。


『テンネさんは、リンの記憶を引き継いでいるんですか?』


『ああ。でも肉体自体は違うし、リンとは違う人生を歩んできた。だから、人格自体は私自身のものだ。見てみろ、リンとは似ても似つかないだろ?』


『たしかに、リンにあった知性は欠片も感じないですね……』


『なんだとこのやろう』


 そんなわけで、ビーンズはテンネをテンネとして見ることにした。いくらリンと魂が同じだとしても、人格が違うというのなら、リンの思い出に引きずられず、テンネを尊重すべきだと考えたのだ。


「それにしても、見つかんねーな、あの草」


「いくつかの薬草と山菜はとれたんで、これでいいんじゃないですか?十分マリーさんも喜びますよ」


「まーそうだな。ふたりともはぐれちまったし、今回は諦めて、あいつらの捜索にあたるか」


 ふたりは太陽を見上げた。



 そのころ、フランは城の中心部、かつて魔王が座っていたであろう玉座に座っていた。

 石でできたそれは、固く、人間の尻にはあまり合わなかった。


「おしりひんやりしたな」


 土汚れを払い、立ち上がるフラン。さて、と腕を組んで考える。


「このまま城の探索をしてもいいけど、日が暮れるまでにみんなと合流しないとやばいよなー。かといって、闇雲に探すのはむりげーだし、麓にひとりで降りるにも方向わかんないし……」


 悩みながら、フランはあたりに放置された宝物を見定める。壺、刀、首飾り、盾……。どれも高価そうだが、まがまがしい装飾が施されており、触ると呪われそうな気がしたフランは遠目から見ていた。


「マリーさんに似合うのは、もっと天使っぽいやつなんだよなー」


 そのとき、がさり、と物音がした。はっとしてフランが振り返るとそこには、小さな幼女がゆびを加えながら立っていた。


「え、無理かわいい……」


 こんなところに、子どもなどいるはずがない。そんな当たり前を忘れるような、可愛らしい容姿の幼女であった。


「こっちおいでー」


 フランが手招きすると、幼女はテトテトと近づいていった。




 ラニバドンに向かって剣を突き刺す騎士。しかし怪鳥は痛みなど感じていないかのように、肌に刺さった彼をくちばしでつまんで飲み込んだ。


 騎士団長リベンジは頭を抱える。


「くそっ!こっちの攻撃が全然聞かない……」


 彼の頭に、全滅の文字がよぎる。自分がまかされた騎士団が、このような事態になるなんて……。


 そのとき、意気消沈としていたウルミが、立ち上がった。


「そうだ……探しに行かないと……」


 もしかしていると、ビーンズが生きているかもしれない。その希望にすがりつくところまで、ようやく彼女は回復したのだ。


 ウルミはけだるげに怪鳥を見る。状況から、取るべき行動を考察する。


「とりあえず、あれを倒さないとこの場は去れなさそうですね……」


 今更動き出したウルミに、怪鳥にかかりっきりな騎士たちは気づかなかった。剣を振るう男たちの隙間を歩くウルミ。


「さあてと」


 ウルミはマイペースにラニバドンの前に到着した。彼女は宇宙服の背中部分をがさごさと探り、ひとつのボタンを押す。それにより、服のなかに内蔵されたボンベから、『ガス』が放出される。


 シュー………。


「……なんだ、これ?うっ……」「おいどうした!……どう、し……た」「ね、ねむい…」


 辺りにガスが充満する。前線にいた騎士たちは、鼻に違和感を感じた瞬間に、気絶し、その場に倒れる。


 彼女が放出したのは、催眠ガスであった。対象の気道に直接流さず、大気中に放出しようとも、吸った生物は即座に倒れるほどの高濃度ガス。しかしラニバドンを眠らせるためには多量のガスが必要であり、巻き込まれる騎士たちにとっては災難でしかなかった。


 騎士たちの突然の失神の原因がウルミにあると気が付いた騎士団長リベンジが、声を上げる。


「おい、お前!なにをしている!俺の部下たちに危害を加えるつもりならお前も敵だぞ!」


 ウルミは面倒くさそうに振り返り、忠告する。


「眠りたくないなら後ろに下がっていてください。風向きに気を付けて立っていれば吸うこともないでしょう」


「なっ……くそ」


 騎士団長は反論したかったが、後方で指揮をとっていた彼をのぞき、ほとんどの団員はもう眠り込んでおり、従うほかなかった。


 ウルミは邪魔がいなくなったことを確認し、ガスを流し続ける。しかし、どうしたことかラニバドンは動きが弱まることもなく、地に伏す騎士たちを意気揚々とついばんで腹におさめていく。


「体重から計算するとこのガス量で十分なはずですが……ふむ。もしかするとこの魔物……生物ではない?」


 ウルミはラニバドンを注視する。血管の脈打ち、心臓の鼓動は確認できるが、角膜の混濁や一部には死斑が浮かんでいる。死体に起こる現象があるのだ。


 ウルミは考える。


「動く死体……ゾンビ?魔物のいる世界ならばあり得るのでしょうか。死体が動く原理は謎ですが、薬物神経作用には作用しない……。血流はあるというのに」


 ウルミは背中をいじってガスを止める。代わりに着脱式となっている宇宙服の腕部分を取り外す。


「考察はつきませんが、損壊させれば、話は終わりです」


 露わになるウルミの腕。


 だが、そこにあったのは、少女の柔肌ではなかった。


 日が差し、黒光りする砲身。


 ウルミの腕は、『回転式銃マシンガン』となっていたのだ。


 後ろに退避していた騎士団長リベンジは目を丸くする。


「なんだそれは……」


「さ、お片付けです。はやくビーンズさんのところへ行かないと」


 ウルミの腕【ウエポンアーム】が『鳴る』。



 連続した銃声が森に響く。

りん→てんねせい

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