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12話 りべんじ

とりにく

 山の入り口には看板が立っていた。そこには、こちらの世界の言葉で力強い赤文字で警告が書いてあった。


『立ち入り禁止』


 一同は沈黙した。


 ギルドからのお達しのようで、看板には、ギルドのトレードマークが書かれていた。この山の向こうには、『魔王城』が存在している。そのため、この山に立ち入るためには、本来許可証が必要なのだった。


 マリーの店前からその足でここまで来たので、誰一人として、ギルドから発行される許可証はもっていない。もっとも、立ち寄ったとしても、パーティのなかに社会的地位の高い人間はいないので、許可をもらえることはないのであるが。


 ビーンズはメンバーの顔色を伺いながら尋ねる。


「あの、どうします?引き返しましょうか」


 常識的な思考をしている彼にとって、標識に従うことなど当たり前であった。しかし、テンネとフランには、そのようなストッパーはなかったようである。二人は、看板の隣をどうどうと通過して、山道に足を踏み入れる。


「なあ、フラン。薬草見つけたら、残った金でまた賭場行こうぜ」


「いいですねえ。今度こそは10倍にしてやりますよ」


「ちょっとちょっと……」


 ビーンズは静止しにかかるが、ふたりは気にせずに進んでいく。ビーンズはちらりとウルミをみた。


「どうする?ウルミ。あとでギルドのひとに怒られないかな」


「…………」


 ウルミは、ぼうとした表情をしていた。標識を見て、固まっている。


「ウルミ?」


 再度話しかけると、ウルミは、はっとし、取り繕うように言った。


「え、ええ。標識は守らねばなりませんね。しかしあの二人を放ってはおけませんし、……やむ負えません。ついていきましょう」


「え、ああうん」


 ウルミは少し躊躇しながら、一歩を踏み出した。


「今回だけ、今回だけです」


 ぶつぶつと呟くウルミを、ビーンズは心配そうに見上げた。ウルミは、そこまで規律を重んじる人間だったのだろうか。


 ビーンズは、ウルミの人間性を、いまだに深くは理解できていないと気づいた。



 しばらく四人は歩き続けた。木々が茂った獣道だったが、先頭に立つテンネが枝を折りながら進んでいったので、後続はなんなく進むことができた。


 とくに、元々都会育ちであったフランは大いに助かった。何度も転びそうになるのを、どうにか周りが支えながら前へ進んでいった。


「すみません、みなさん……」


 申し訳なさそうにするフランを、テンネは笑った。


「気にすんなって、適材適所ってもんだ。マリー言ってたぜ。フランが来てから、家事が楽になったって」


「そういってくれるとありがたいっす……。うわっ泥ふんじゃった」


 しょげるフラン。彼女は注意不足以前に、全体的に運が悪い傾向があるようだった。

 

 フランは、転生時に、『チート能力』と称される特別な力を授けられていた。具体的には、『金運が最大値となる』力である。しかし、いまだに彼女は、その恩恵を受ける機会を得られていなかった。


 最近では、本当にそんな能力が自分に与えられたのか、フランは疑いはじめた。神からの恩恵とはいえ、いったいどうやって、ひとの人生に干渉するような働きが起こるのか。運なんて複合的ないくつもの要因を重ねなければ、変えられないことであろうに。

 

 もしかすると、神というのは、星全体の自然を自由に操るすべを持っているのかもしれない。例えば、神は丸い星を手のひらのうえにおいて、自在に中の様子を覗いているようなことをしていたりして……。



「いてっ」


 フランはつまずき、木に頭をぶつけた。妄想に気を取られすぎていた。


「大丈夫ですか?」


 ビーンズに声を掛けられ、フランは照れながらいてて、と笑った。


 それからしばらくし、テンネはぴたりと足を止めた。ビーンズたちを制し、前へ進むのを止めた。


 ウルミが小声でテンネに尋ねる。


「どうしたんですか?」


「……ひとの気配がする。けっこうたくさんいるぞ」


 一行は、敵意を持った集団だった場合を想定し、警戒しながら進んでいった。すると、開けた場所に、鎧を着た集団が野営を組んでいるのを見つけた。


「……うちの国の騎士団だな。なんでこんなところ?」


 テンネは首をひねる。フランはこそこそと彼女に囁く。


「テンネのねえさん、見つかったら厄介なのでは?」


「んーだいじょぶだろ。つーか、飯でも持ってねえかな、あいつら。朝飯喰ってないから鼻減ったぜ。なんか分けてもらおうぜ」


 そう言って、テンネは背中の銃に手を伸ばす。


「よし、いくか」


 茂みから身を乗り出そうとしたテンネを、ビーンズとフランが慌てて止める。


「いくかじゃないですよ!」「いま、姉さんなにしようとしてました!?」


「いや……飯分けてもらおうかと」


 分けてもらう。山賊語で翻訳すれば、奪い取るである。


「せめて武装解除してから……」


「おい、そこにいるのは誰だ!」


 そのとき、騎士団員のひとりが声を上げた。一斉に団員たちの視線が、テンネを中心とした四人に集まる。


 あえなく見つかった。観念して、両手をあげて立ち上がる一同。


 騎士団のなかから、ひときわ風格のある男が、歩み出た。騎士団長リベンジ。この団をまとめる男である。


 厳しい目でビーンズたちを睨むリベンジ。


「ほう?ギルドには、冒険者であろうと誰も立ち入れるなと命令していたはずだが、どうしてここに我々以外の人間がいる?」


「そうなのか」「そうなんですか」「へえ」「えっとごめんなさい」


 ビーンズたちは、示し合わせたようにシラを切った。


騎士団長は、その様子に溜息をつく。威圧感が消え、警戒を解いたことが窺えた。


「本来ならばギルドに報告して、貴様らに処罰を与えるところだが……いまのうちに引き返すというのなら、見逃してやる。さっさとうちに帰れ」



 ウルミはビーンズに耳打ちした。しかし、テンネは空気を読まず、騎士団長に話しかける。


「なあなあ。立ち入り禁止ってなんで?なんかこの山であんのか?」


 四人の中でも最もみずぼらしい恰好のテンネに話しかけられ、人格者らしいリベンジも、さすがに顔がひきつった。


「なんだ、お前は……野犬にでも襲われたのか?あるいは元、山賊か?」


「失礼な!野犬に襲われたほうです!」


 フランがフォローにもならないウソをつく。しかし、じろりとリベンジに見られ、縮こまった。


「……元気のいいことだ。ギルドの通達、本当にみていないのか?だが、魔王が死んだのは知っているだろう。我々は、事実確認の調査したのち、『戦利品』を回収し、城をわが国王に献上するために来たのだ」


 魔王が死んだ知らせは、ビーンズたちも知っていた。騎士団長によると、国王はもぬけの殻になった魔王城を、国有地にするということを決定したらしかった。


「へえ、墓荒らしってか?立派な騎士様もいたもんだ。バチが当たるぜ」


 テンネは挑発する。見た目通り、権力が嫌いなのだ。理由としては、偉そうだからに尽きる浅いものではあった。しかし、騎士団長は、ふん、と鼻を鳴らして取り合わない。


「使命も持たぬ野良犬になにを言われたところで、なにも響かん。貴様らとは覚悟が違うのだ。減らず口を叩いている暇があったら、はやく帰れ」


 これ以上は本格的に面倒なことになると察したウルミは、テンネの肩を叩く。テンネはわかってるよ、と口を尖らせた。


「ちっ。行こうぜ。じゃあな。騎士様。邪魔はしねえよ」


 テンネが、リベンジに背を向ける。ビーンズは胸を撫でおろす。大変なことに発展しなくてよかった。あとは、命令通り下山することをテンネが了承してくれれば万歳なところだったのだが……。


『びゅうううおおお!』


 そのとき、風が吹いた。


 そして、空が真っ暗になる。


「なんだ!?」

 

 騎士の誰かが叫ぶ。ビーンズは頭上を見上げるが、そこにある物体の正体を見極めることは、彼にはできなかった。


 なぜなら、それは一部分を視認しただけでは全体の概要を把握しきれないほどに巨大なモノだったからである。


 結論から言えば、その正体は、怪鳥ラニバであった。だが、ただのラニバではない。それは、ラニバの群れのなかで、最も強い個体が、後天的に変異した上位種。


『ラニバ・ドン』であった。


ラニバ・ドンが翼を大きく羽ばたかせる。途端、いくつもの羽とともに暴風があたりに襲い来る。



 勢いはもはや局地的な災害。その場にいた人間の、誰も抗うことができなかった。



 埃が晴れたとき、そこには、騎士団とウルミだけが残っていた。


 翼をしまい込み、ゆっくりと彼らのまえに降り立つラニバ・ドン。


『ぐげええええええええ!!!』


 大怪鳥が叫びをあげた。

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