10話 ふたりめ
フランは、金色の髪を撫でながら、街のほうへ歩いていく。その足取りはどこかおぼつかなく、時折木の根につまずいたりしていた。
「おっとと」
大きめの石を踏んでしまい、地面に倒れてしまうフラン。顔に土がつく。
「うへえ……よごれちった……」
ぺっぺっと口の中に入った砂利を吐き出す。と、その先に水たまりを発見する。
フランは、まだ自分の顔を知らなかった。おそるおそる、水面に顔を近づける。
「……!しゃあ!SSレアじゃね!これ!ひゃっほい!」
ひとり歓声をあげるフラン。その顔貌は、フランが想像していたより美人であったのだ。
「さあて、この美貌でどうやって生きてやるかなあ!うひひ、ワンチャン、男に貢がせ足り……いや、でっかく玉の輿狙おう!この世界なら石油王の妻もありえそう!」
独り言が森にこだまし、はっと我に返る。フランは誰も見ていないことをきょろきょろと見渡し、ほっと胸を撫でおろす。
ひとまず、宿をとってゆっくり休もう。フランは、気が付いたら服のポケットに入っていた財布の中身を数えて、街へ出た。
このフランという少女は、ビーンズと同じく地球の日本で死に、女神によってこの異世界によみがえらせられた転生者であった。彼女は、生前女子校生として日々を謳歌しており、人生これからというところだったが、海水浴に行った際、溺れて死んでしまった。
そのため、死後、三途の川の岸にてスクール水着の幼女が網を持っている姿をみたときは、まだ自分が死んでいないのではないかと勘違いしてしまうなどというひと悶着があった。
『いい?きついこと言うけど、あなたはもう死んだの!もうあなたの友だちとはお別れなの!』
「……あれは堪えたなあ」
フランは、前世での友のことを思いだす。楽しい夏を過ごしていたのに、悪いことをした。両親にも辛い思いをさせているのを考えると、気が晴れなかった。
『そうだ、最後にひとつ。あなたには、ひとつチートスキルをあげといたわ。あなたのいた世界でいえば、超能力とかいわれていた、普通のひとにはできない特別なちからのことだよ』
「……そういえば、あんなことも言ってたけど、この世界魔法もあるんだよね。チートスキルか知らないけど、あんまり特別感なさそうだなあ」
街に着くと、フランはひとまず腹を満たすために露店に寄ることにした。財布を出し、見慣れない通貨で果物を買う。
「……エレッパ?りんごみたいなものかな。おっイケる」
フランは赤い果実をかじりながら、人混みにもまれる。
『あなたのチートスキルは、金運MAX。あなたには常に金に関して困ることはない』
「いまいち実感わかないなー。なんか、イベント起きないかな」
そのとき、フランは尻を触れられる感触に気づく。ここは人通りが多い。少女は溜息をつく。前世でもこういう輩に手を出されたことがあった。意を決して振り向く。
しかし、そこにはすでに犯人らしき者はいなかった。逃げられたらしい。
「ちぇっ。金運あるなら、脅して金とれるかと思ったのに」
フランは尻を撫でる。すると、あることに気が付く。
「……あれ?あれ、あれ!」
周囲の人間が、突然騒ぎ始めたフランをじろじろとみる。フランは目線感じながらも、止められなかった。
「財布がない!……すられたああ!!!!」
フランの絶叫が、街頭に響いた。
酔っ払いとして追っ払われたテンネは、千鳥足で街を歩いていた。道行く人々に次々とぶつかる彼女は、白い目で見られながらも、人波によって前へ運ばれていった。
「うへえ……らくちんだなあ……」
夢見心地のテンネ。しかし、あるところで、前進が止まる。不思議に思い、彼女は重い瞼を開く。
「なんだあ?」
そこには、泣いてうずくまる少女がいた。
「うぐっえぐ……どうすれば……」
「…………あー」
テンネは、頭をかいた。なぜ、この少女は泣いているのだろうか。正常な思考を失っているいま、複雑な事情を放り込まれたら対応できない。なお、彼女はシラフでもまともな相談を受けたことがなかった。
「ってなわけで、連れてきた」
肩に少女を担いで、マリーのカフェにたどり着いたテンネ。飲んでいた茶を噴き出すビーンズとウルミ。
マリーは額に手を当てて、溜息をついた。
「返してきなさい」
「いやだ!うちで飼う!」
駄々をこねる酔っ払い、ことテンネ。担がれた少女は、すでに泣き止んでいるが、下ろしてもらえず、どうすればよいのか困惑していた。
ビーンズは、少女と目があう。
「ど、どうも」
少女、フランも挨拶を返した。
「こんにちは」