#9
お待たせしました。更新再開します。
【これまでのあらすじ】
異世界に迷い込んだちょいラリ系JKクロカは口煩いガチョウをゲットし人里目指して歩き続けていたところ、進行方向に何やら怪しげな気配を察知した! どうする?
逃げる
▷見に行く
そこには──大きな蚯蚓蛇が、道のど真ん中でとぐろを巻いていた。
【蚯蚓蛇
危険】
ネーミング蚯蚓蛇ドンピシャですか。それでも私のネーミングが優先採用ですか。とか言いたいことはあるわけだが。
危険って。このゆるふわ系ステータスがわざわざ危険って言ってくれてる。
……うん、無理だわー!
撤退しよう。
私が首を振る。
パンセも同感みたいだ。
無言でそろりそろりと後ずさる。
音を立てないように、心臓も止めるくらいの心意気で。
しかし、木の間をすり抜けようとした時、私たちに驚いた小鳥がばさばさと盛大に音を立てながら逃げていった。
蚯蚓蛇がその小鳥の方を見て、ついでのように私たちを見る。
蚯蚓だから目がどこかわからないけど。
あーあ、気付かれた。
今のはどうしようもない……恨むぞ小鳥。
同種見かけたら絶対ヤキトリにしてやるからな。覚えてろよ。クロカちゃんは怖いぞ。絶対にヤキトリを串から外して箸で食べる冒涜をかましてやる。
「逃げるよ!」
「うむ、む!?」
パンセを小脇に抱え上げた。
歩くのはパンセの方が速いけど走るのは私の方が速い。
そして私より蚯蚓蛇の方が、速い!
とぐろを巻いていた分の初動と最初の加速度はそうでもないけれど、少し時間があれば差は歴然になるだろう。こっちはパンセ持ちで荷物持ち。最大加速は叶わない。
大きく舌打ちをして、杖代わりに使っていた棒を投げつける。
見事ベシッと命中。どうだ見たか!
「全然効いてないぞ!」
「そりゃそうだわ!」
ていうかくぱっと花みたいに口を開いて棒を食べてる。うっわぁ……。バリバリってすごい音。
速度はちょっと落ちたみたいだけど、気休め程度だ。
足が、もつれそう。
気合いと根性、気分は熱血スポ根魂、とりあえず肺が破れるまでは走る所存でがむしゃらに足を動かす。
地面を引きずりながらこちらへと迫る音。
頭からバリムシャ死はちょっと、御免被りたい。
情緒に欠ける。まじありえん。
「まずいぞクロカ! この先は行き止まり、崖だ……!」
「…………あっ、そう!!」
ステータスオープン!
【崖
高くない】
「いけるいけるッッ!!」
「何がだ!? おい待つのだクロカッ! ああーっ!?」
そして私は勢いよく、跳んだ。
◇
崖から跳んで。
そして私は、飛んでいた。
パンセが必死で羽ばたいていた。
私はパンセにぶら下がってる状態。
飛べてない。全然飛べてないけど。
ちょっとパラシュート効果は出ているみたいで身投げが降下と言えないこともないこともないくらいには、マイルドになってくれた。
「うぎゃ」
……まあ落ちていることには変わりないので。
墜落中、木の枝をバシバシ折りながら、お尻から地面に着地した。
痛つつ……。
「ああ、もう! 無茶苦茶をしよるわっ! 一言二言相談でもせんか畜生っ! あっ畜生は吾輩だな!? ……こ、この霊長類!」
「斬新な罵倒をどうも」
パンセがあちこちに引っ掛けている枝を取ってやる。
うん、まあお互い結構ズタボロかも?
生足は良くないなー。下にジャージ履いておくべきだった。
靴が脱げていたのを拾って履きなおす。
「蚯蚓は?」
「うまく撒けたみたいであるな」
「やったぜ。身投げた甲斐があったってものよ」
「一言……せめて一言をだな、事前に……」
「言ったじゃん。『いける』って」
「…………もうよい」
パンセはお尻を揺らして後ろを向いてしまった。
機嫌直せよ。お菓子あげるからさ。
あっ全部食べたわ。ないわお菓子。わはは。
あちこちでビシバシ文句を言う身体を放置しつつパンセの後を追う。
森が開けて光が見える。
出口だろうか。
そうちょっと期待したのも束の間のこと。
そこにあったのはまたしても、崖。
ぼんやりとそこからの景色を眺める。
「見えるかクロカ」
「うん、見えてるよ」
「……町である!」
「やーっと見つけたー」
翼と手でハイタッチ。
長かった長かった。
まあ、ここから見えただけで、実際は崖下だいぶ向こうなんですけどね。町は。