#7
夜はパンセを抱きしめて眠った。
獣臭はそこそこだけどパンセが綺麗好きだったおかげで無理無理限界ってほどではない。
そこそこ暖は取れたけど、地面は硬いし寝にくいし、焚き火が消えないように時々目を覚まさなくちゃだから結局うつらうつらしただけだった。
やっぱり変な時間に昼寝したのがよくなかったよね。
眠りは浅かったけどそれなりにしゃきっと目覚めて出発する。
やっぱり森の夜って、寒い。
風邪引いちゃわないうちにおさらばしたいものだ。
風邪なんてとんと引いたことないんですけど。
「それじゃあ準備はいい?」
パンセは咥えてきた何かを地面に置いて答えた。
「うむ、羽繕いは万全だ。『立つ鳥跡を濁さず』も十分に心がけた」
「その地面の、何? コイン?」
硬貨っていうかメダルみたいな、結構な大きさだけど。
「然り。吾輩の宝物だ。暇にあかせて色々と収集したのだが結局ひとつだけを選んで参った]
「私の鞄に入れといてあげるね」
「ありがたい」
よく磨かれた金色のメダルを拾い上げる。
金、というよりはトランペットみたいな輝きだ。真鍮っていうのかな。
描かれているのは何か、紋章みたいなものと鳥……ガチョウ?
文字が書いてある。
多分、数字みたいなものも。
読めないけれど。
そっか、普通に言葉が通じちゃったから考えてなかったけど文字はわからないのか。
残念。
あ。
そうだ、ステータス見ればいいんじゃない?
一晩寝たらそもそも見れることすら忘れかけてたけど。
えーと、どうやるんだっけ。
むむむむ……出ろー。
【──── …… ──】
あれ……?
ノイズみたいのしか出ない。
「ステータス見れない……」
「クロカよ。どうでも良いがなんというか、その、ステータスという言い方がなんとも締まらぬように聞こえるのだが。こう、それっぽい言い方を模索して見ぬか? お主のそれ、おそらく相当にすごいものだぞ?」
「パンセよ。大事なのは貼られたラベルではなく中身であろう?」
「吾輩の真似か。吾輩の真似のつもりか。確かにいかにも吾輩が言いそうなことではあるが」
「私がパンセだ」
「ぐぬぬ」
君は甘いのだよ。
スタンスが。
堅物ならば徹底的に堅物を貫くがよい。
ふわっふわじゃあありませんか。
まあ実際にふわふわなのですが。
「まあ格調って大事ですよねー。鑑定とでも言っておきますかねー。審美眼持ちって言ったらそれっぽくなる? 能力者ぽい?」
「お主の言ってることはわかるはずなのにうまく噛み砕けぬな」
「そりゃ考えて喋ってないからね」
脊髄で会話している。
「そんなことより大変だよ。鑑定不可オブジェクトが早々に出てきちゃったよ」
「まず、何が可能で何が不可なのだ。自分自身は見れぬのか?」
「あ。見てないわ。わっすれてた」
いやだってほら自分のことは自分が一番わかってるやつですし、興味ないからね。
でもそういうの大事だと思う。
敵を知り己を知ればなんだっけ。
なんかあった。
まあつまりちゃんと考えて生きろよってことだと思う。
私には無理そう。
というわけで、すてーたすおーぷん。
「……なーんか呪Lv1って書いてるんですけど。何これ知らないんですけど」
「おおっと。詳細を書いていないのが手痛いな。考える余地があって興味深くはあるが対処がわからぬ」
「体感で呪われてる感じは全然ないからよくない? Lv5なパンセも死んでないし」
「死んでない」
「生きてたらオッケー」
「……まあ。異世界に迷い込むということ自体がそもそも呪いと考えることもできるか」
「それだわ多分」
『この装備は呪われています』的な意味だとすると心当たりはひとつだけ。
この金時計だ。
そういやこれも見てなかった。
というか本当に泉とパンセしか見てない。
発火キノコも見てない。
ゲームの中の進行に関係ないテキストとか全然読まない性格だってことがバレそう。
あの手この手で鑑定しようとしばらく奮闘してみる。
結果は、メダルの時には見えたノイズすらも見えなかった。
うんともすんとも言わない。
「やばいなーこれ。池ポチャしたい」
「池ポチャ」
「池に投げ捨てること」
「やめんか」
まあ勿体無いしとっとこう。
そんな感じで清々しい朝に意気揚々と出発したのでした。