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#6

 

 そんなわけで旅は道連れ、私のソロ旅は早くも終わりを告げ新メンバーを加えた。

 ボーカルは私。

 パンセは……ドラムとかいいんじゃないかな。

 足でペシーンッとシンバルを叩いてほしい。

 ろっきゅー。


「ところで空、ずっとこのまま夕方なの?」


 私はさっきから気になっていたことを聞いた。


「いや。そろそろ夜になるはずだ。そうだな。出発は夜が明けてからの方が良いだろう」


 あ、ちゃんと夜は来るんだ。やったぁ。


「やっぱり夜は危ない系?」


「うむ。お化けが出る」


「パンセだって実質お化けみたいなもんじゃない」


「何をいう。クロカよ。お化けはな、嘴で突くことも殴ることもできないのだぞ」


「それは困る」


 切実に。


「夜が来るなら火を起こしておきたいんだけど。どうしようか」


「それなら手がある」


 ついて来い、みたいな動作をした。

 泉から少し離れた木のうろにパンセは入り、何かを加えて帰ってきた。

 そのままぺっと地面に吐き出す。


「発火キノコだ」


 なんの変哲も無い白いキノコに見えますが。


「食われると燃え出す憎い奴らよ」


「なーにそれ」


 随分とアグレッシブな。


「パンセが食べて丸焼きになるの?」


「いやいや何をどう考えても今は自決どきではなかろうて」


「いえいえガチョウの考えることは私にはわかりませんもので」


 白いキノコを手にとってしげしげと眺める。

 矢印みたいなとんがりとしたシルエットで、生椎茸みたいな匂いがする。

 ちょっぴり油臭いと思えばそんな気も。


「洗って齧って発火する前に吐き出す方針で」


「うむ」


 人生初の拾い食いは残念ながら生きて腸まで届かないようだった。



 夜は、まるで紙芝居を抜くようにして訪れた。

 くるりと空が周り、一瞬にしてオレンジから黒に空が切り替わったのには唖然とした。

 月は折り紙で貼り付けたように大きく、満天の星はゆっくりと点滅している。

 これ……私の好きな夜と違う……。

 私もしかして、体を小さくされてドームの中に放り込まれたんじゃないかしら。

 異世界じゃなくてテラリウム説、浮上。

 まあ大体似たようなものだしいいか。


 焚き火を囲みぺちゃんこになったマシュマロを焼く。

 焦げた。

 こちら炭焼き風です。

 炭です。

 大人の味なのだわ。

 パンセが興味津々で咥えてそのまま飲み込み、珍妙な鳴き声を上げた。

 人間界の食べ物バージン喪失が黒香ちゃん特製黒マシュマロでごめん。


「さて、焚き火を囲んでやることと言ったらあれだろう」


「アレ?」


「親睦を深めるのだよ」


「ええ……面倒臭い。そんな人間みたいな知識どこで手に入れたの」


「生まれついてだ」


「じゃあ、その。パンセの半生でも話してよ」


「……む。吾輩はクロカのことを聞きたかったのだが」


「私の話なんて何も面白くないよー」


「ガチョウの半生よりはましであろう」


 パンセは会話に慣れてきたのか、それとも一通り捲し立てて満足したのか大分言葉数が少なくなってきた。

 それでもクラスのやかましい子くらいには喋るのだけど。


「じゃあ……パンセのひよこ時代の話でもしてよ」


 ガチョウが喋り出したのか、喋るガチョウとして生まれたのかはちょっと気になるところだし。


「ひよこ……ひよこか? ひよこの定義とはなんだったろうか……雛ではないか? まあ良いか。期待に添いたいのは山々なのだがあいにく吾輩に幼少期の記憶らしきものはないのだ。物心ついた時からこの姿でありこの性格、たった一匹この泉のほとりで生きてきた」


「呪Lv5だもんね。ガチョウって書いてたけどほんとのほんとにガチョウってわけじゃないのかも」


 雑ステータスにそんなことが書いてたのを思い出す。


「なんだそれは?」


「さあ。悪い魔女とかに出会った記憶は?」


「いや、ない。魔女なんてとうの昔に滅んでおるしな。おっとこれまた知る由のない知識が内から湧き出て」


 パンセはぶつぶつと呟きながら思考の海に潜りに行ってしまった。

 私は焚き火に枝を追加で突っ込んだ。

 本当にぱちぱちと音がするものだなぁとか考えながら。

 リベンジマシュマロはなんとか原型をとどめていた。

 別に料理ができないとかそういうわけじゃなくて、ダイレクト直火取り扱い免許証を持っていないだけだ。


「なあクロカ、異世界から来たのだろう? 戻る当てはあるのか? こちらに来てしまった原因から遡ることができれば良いのだが……」


「ん、ごめん。口の中が熱くて聞いてなかった。何? ここから帰る方法? あー、全然考えてない」


 パンセが『何言ってるのだこやつ』みたいな顔をした。

 ふふふ。

 そろそろ表情も読めてきたのです。

 黒香ちゃんのハイスペックぶりを舐めてはいけない。

 一族総員無表情の家系なためこういうのは得意だ。


「学校帰りに変な骨董品屋に入って、この時計を触ったことまでは覚えてるんだけど他は全く……ていうか、記憶そのものが結構曖昧かも」


 どうでもいいことだけ思い出せる、みたいな。

 無料お試し版みたいなダイジェストっぷり。


「でもなんか。帰れるものじゃあないなってことはなんとなく。最初から思ってた」


「そういうこともあるな」


「そういうこともあるね」


「うむ。謎は良い。いくらでも考察に時間を費やせるのだから。しかしクロカよ。可不可は抜きにして帰りたいとは思わぬのか?」


「いやー、別にー?」


 食べ物は恋しくなるかもしれないけど。

 大抵のものはなんとかなるだろうし、なんとかならない級のものはなんとかしようとは思わない。


「まあ。この世界に白砂糖がなかったら、何が何でも帰るけどね」


 最後のマシュマロは焼かずにそのまま口に放り込んだ。


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