9話
「すべては、カミーラ王女を捕らえるため……」
鳥かごに入っている吸血鬼がボソッと答えると同時に天井を突き破り十九世紀の貴族のような格好をした青年が登場した。
「アルフォード様……」
鳥かごの中で男が波だ目でアルフォードを見ている。
「ウェルス、助けに来ましたよ」
アルフォードは手刀を一振りすると、鳥かごがバラバラに切り裂かれ崩れ落ちる。
「原始、序列代三位アルフォード・リース・フィレッタ、やはりきたな」
アランが、まるで来ることがわかっていた様に落ち着いて言う。
「仲間を助けるのは、当然の事でしょう」
アルフォードは日本でトップを争う組織の代表を前に臆する事なく堂々と、宣言する。
「よくもそんな戯言が言えるものじゃのう……、十年前にそなたら吸血鬼が我々にした、裏切り、忘れたとは言わせんぞ……」
紅秋花が素早く立ち上がり、地獄の業火の様な赤い霊気が溢れ、それに続く様にアランから激流の様な青い霊気が、一郎からは龍を思わせる様な白い霊気が部屋を駆け巡り、和樹、大五郎、蒼秋花、総司は彼らの霊気によって部屋の隅に飛ばされる。
「困りましたね……こうまで殺気を向けられては、私も対処しなければならない」
三人の霊気に臆するどころか、少し余裕そうに見えるアルフォードから、禍々しい霊気が放たれ、部屋が崩壊し、地面はまるで隕石が落ちたら様に、クレーターができる、土煙が収まると全員ホコリ一つない姿で堂々と立っていた。
「やはりこの程度では挨拶がわりにしかなりませんか……」
アルフォードが少し呆れた顔で呟く。
「このレベルで挨拶がわりとはかなりふざけているのう……妾達でなければ消し飛んでおるわ!!」
紅秋花は少し苛立って言うと、竹柄の扇で口元を隠す。
「部下達を避難させておいて正解だったな、もし竜の間に表れていたら、死者が出ていた……」
アランは改めて目の前に居るのが、ヨーロッパを数百年に渡って支配してきた吸血鬼集団、原始の最上位人物だと思った。
「今、避難と言ったな……と言うことはあの互いに挑発していたのも、霊気を出して気絶させたのも、すべてこの化け物が来ることを予測してやったって事か……」
和樹は地面に転がってついたホコリを払い除け立ち上がる。
「正しくは、あのレベルの化け物と戦える者を探す為にふるいに掛けた(紅秋花やアランの霊気に耐えられる強者)のですが耐えた妾達でもあのアルフォードの前には子供に等しい……まったく不愉快極まりない」
蒼秋花が和樹に近ずき忌々しく言った。
「俺達に出来ることは、あの三人の邪魔をしない事だけだ、悔しいか、和樹……」
大五郎がクレーターの中心でアルフォードを囲んでいる三人を見ながら和樹の肩に手を置く。
「ああ、悔しい……だか、今悔しいと思えてよかったと思う」
「どういう意味だ?」
和樹の肩から手を下ろし視線を向ける。
「まだ強くなる時間があるからね」
大五郎に視線を合わせて笑顔で答える。
「それもあの三人がアルフォードに勝てればの話じゃ」
蒼秋花が目の前の四人の戦いを見ろと、閉じた扇で指示する。
一瞬視界がぼやけたと思うとそこにはさっきと、まったく同じ位地に四人は要るが、全員の呼吸が少し荒くなっている。
「さすがに三人同時だとキツいですね、だが、これでお分かりになったと思います、あなた達三人がかりでも、私を殺すのは大変だと……」
「妾が本気になればお主ごとき容易く葬れるわ……」
「紅秋花殿、場所を考えて下さい、あなたが本気を出せば勝てるかも知れませんが、そんなことすればこの、竜門寺闘将宮が空間ごと崩壊しますぞ」
一郎が紅秋花に対して本気を出さない様に釘をさす。
「それも、すべては計算どうりと言うことかアルフォード」
アランは忌々しそうにアルフォードに視線を向ける。
「まあ……想定内ではあります」
アルフォードは少し乱れた服を直すと、姿勢を正す。
「これは私達からの提案です……、カミーラ王女を捕らえるのに協力していただきたい」
「寝言は寝てから言え、貴様ら吸血鬼は信用できん!!」
一郎の霊気が一層強くなる。
「何も、手伝えとは言いません、ただ我々の行動に目をつむっていただきたい、ただそれだけです」
「昨日の様に散々人を殺されて、黙っておれるか!!」
アランも語気に力が入り、霊気が強くなる。
「昨日の事は私の監督不足でした」
「監督不足で済むか!!こっちは三百人以上死者が出ているのだそ!!」
「それは、こちらも同じこと、エドワードやクリスタ、サムスン、シーン、ザザといった優秀な部下や一般吸血鬼が三百名ほど塵と化しました、ここはお互い様では?、我々はただカミーラ王女を捕らえに来ただけ、仕事が終われば帰ります」
「これ以上争ってもお互い被害が大きくなるだけで得はなしか……」
一郎は白く伸びた髭をなで、長考する。
「吸血鬼が我々に害をなさなければ今回限り、人守衆は吸血鬼の滞在を認めよう……」
「一郎、お主正気か!!十年前の事件でお主の弟は吸血鬼に殺されおるはずじゃぞ」
「紅秋花殿、それとこれとは話は別です、我々が今、こやつを殺せなかった時点でお互い干渉しない事しか道はありません、そうではないかのう……アラン……」
「そうだな、戦いを選ぶと死者は千じゃ効かない、恐らく万はいくだろう、お互いに……、だから奴も、我々を殺せなかった時点で交渉に変えざるおえなかった、お互い戦って死者が出るよりは干渉せずに、穏便に済まそうと……、恐らく、部下達に昨日一般人を襲わせたのも、部下が捕まってこの集会が開かれる事も、お互い戦うより、干渉しない方が良いと思わせるのも奴の想定通りかな?」
疑いの目でアルフォードに視線を向ける。
「否定はしませんただ、交渉無しの場合、吸血鬼が刈られることになり、王女捕獲が難しくなるのはのは説明する必要は無いとおもいますが」
(((確信犯だな)))
「良いだろう、大森林も今回限り、干渉しないじゃが、少しでも妙な真似したら、戦争じゃ!!」
言い終わると、扇を一振りして、風を起こし、消える。
「お待ち下さい、お姉様!!」
蒼秋花もあとを追うように扇を一振りして消える。
「我々近衛組も今回限り、干渉しない、正し、一般人に被害が出れば他同様、吸血鬼を殲滅する!!」
踵を返し、総司を引き連れ暗闇へと消えた。
「我々の提案を聞き入れていただき感謝します」
アルフォードは頭を下げると、ウェルス・ホーキンスを連れて霧となって消えた。
「果たしてこの約束通り、干渉せずに終われるかのう……」
一郎は夜空に輝く満天の星空を見て静かに呟くのであった。