6話
境内の奥へと進につれて空気が徐々に澄んでいき、赤や黄色青の光りが道案内するように宙を舞う、さらに奥へと進でいくと、樹齢五百年はあろうかという巨大な光る桜の木が幻想的に立っていた。
「これが今日の集合場所の神木か……」
あまりにも美しく、神秘的な姿に和樹は心を奪われかけたが、何か違和感を感じ、足下にあった小石を神木に向かって軽くなげるが、小石は神木に当たることなく通りすぎる。
「幻術とはずいぶんからかってくれるじゃないか……」
平然と神木に向かって歩き、神木の中を通りすぎると、満開に花を咲かせた、幻術より大きな桜の木が静かにたたずみ、老若男女さまざまな人たちがすでに集まっている。
「私の幻術をすぐに見破るとか、貴方空気読めない?」
声が聞こえた方を見ると、赤髪のツインテールで背中に陸と書かれた巫女装束を着た少女が不機嫌そうに和樹を見ている。
「春夏キララか、どうせ、幻術に見せられて、アホズラになっている人をバカにしたかったんだろ、相変わらず性格最悪だな」
「貴方よりはましよ、ふん!」
腕を組み、頬をふくらませている姿はまるでいたずが失敗した小学生がすねている様に見える。
「ガキだな」
「誰がガキだ、ぶち殺すぞてめぇ」
さっきまでの可愛らしい雰囲気が消し飛び、キララの後ろに赤い霊気が炎の様に燃え盛る。
「そう言う、すぐに怒るところが、こどもなんだよ」
先生が生徒に優しく注意する様に言って、キララの頭を優しくなでると、天にも届きそうな行きよいで出ていた霊気が徐々に収まり無事に鎮火した。
「キララは女の子何だからもっと優しい言葉使いをしなさい」
和樹がキララをなでていた手に少し霊気を込めると、キララとは真逆に辺り一面氷の世界に変わった。
「ずるいわ、女の子に産まれただけで喋る言葉を決められるなんて……」
まるでペットの犬が耳を垂らして、へこんでいるような可愛い姿に、キララの霊気に避難していた人たちが男女問わず、見とれている。
「何か……ごめん」
和樹は気まずそうに視線をずらす
「別にいいよ……それより早く氷漬けにしたこの環境を何とかしてください、寒いです」
キララは両肩をつかみ、白い息を吐きながら、その場で駆け足をしている。
「本当にごめん、今すぐ戻すから!」
和樹は地面に手をつけると、氷の世界が一気に砕け、小さな氷の結晶が宙に舞い、風に吹かれて消えていった。
「さ~て皆生きているかな?」
陽気な声と共に大五郎が暗闇から姿を表した。
「そろそろ集合時間の七時だおふざけはそこまでにして、神木に触れて待機するように」
大五郎の指示に従い集まっていた人たちがそれぞれ神木に触れる。
「全員触れたかね?」
大五郎は神木に触れている人たちを見渡し頷く。
「ではいくぞ、樹種転移!!」
突然神木が青白く光り出し、その輝きに全員が飲み込まれた。
・・・・
光りが弱くなって回りの景色が鮮明になると、小さな桜の苗木を囲む様に立っていた。
「ほおぅ、竜門寺闘将宮か、今日の集会は大荒れするなぁ」
アゴ髭を触り、一人納得したような表情をする。
「大五郎さん、一人納得しないで教えてください、ここはどこですか?」
キララが大五郎に質問する。
「ああ、嬢ちゃんは初めてか、ここ、竜門寺闘将宮は俺たち人守衆や大森林、近衛組といった、陰陽師やハンター、一同が集まるときに使われる場所でな、逆にいえば集まらなければならないほどヤバイ状況にあるということだ」
「そうですよ、そんなヤバイ状況にあるのに時間ギリギリに来るのは何処の阿呆かと思いましたらやっぱり脳筋衆……失礼しまして人守衆方々でしたか」
梅がらの扇を口元に当て十二単をきた地につくほど長い紫髪の女性が黒いスーツを着ている部下らしい人たちを引き連れてやってくる。
「これはこれは、大森林若頭、蒼秋花殿直々にお出迎えとは恐れ入ります」
蒼秋花に対し大五郎は深々と頭を下げ、それにならって後ろにいた人たちも、頭を下げる。
「礼など要らん、はよ、竜の間に向かえ、絶対に怒らせてはならない人たちがもう集まっておる、巻き添えは御免じゃ」
若干早口に言うと、蒼秋花は踵を返し、部下もそれに習って跡に続き去っていった。
「アイツ、獣臭がした、人間じゃ無いな」
いつの間にか頭を上げていた和樹が、まだ頭を下げている大五郎に言いった。
「そうだ、すでに数百年以上も生きている化け狐だ」
ゆっくりと頭を上げて、和樹を見たあと、その場にいる全員に忠告する。
「お前たちにも言っておくがアイツにケンカは売るなよ、面倒なことになるからな!」
言い終わると、大五郎は竜の間がある方向に向かって歩きだし、和樹たちもそれに続いた。