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2:謎を解くチャンスは突然に

 目を覚ますと……っていう下り、多すぎてそろそろ飽きてきたんだけど……

 

 テレビのチャンネルみたいにパチパチパチパチ場面変えやがって!もう疲れたわ!俺の意識はおもちゃじゃない!

 

 

 なんて、茶番は置いといて。

 なんと今、俺は残った謎を解く千載一遇のチャンス!に巡り合っているのだ。

 

 

 時は数十分前、俺は目覚めた。

 

 目を開くと何故か上手く目の焦点が合わなくて、ぼんやりした風景が視界に広がった。

 同じくぼんやりした脳は一瞬思考を停止したが、再び思考を開始した頃には、好機の到来を確信した。

 

(やっとあの謎が解ける!)

 

 にしても、この調子じゃいつまた別の場所に意識が飛ばされるかも分からない。

 元々の俺は死んだことが確認できたし、次に飛ばされるのは天国か地獄、もしくは真っ暗な闇の中かもしれない。

 

 そうなると、謎は一生解けないままになってしまう。

 いや、一生っつってももう死んでんだけどね?解けないままの謎ほど気持ち悪いものは無いから、すっきり成仏するためにも急いで解かないといけないよね?

 

 そう思って俺は、すぐさま身辺の調査を開始した。

 

 そしてそのまま30分ほどの間、事態は全く進展を見せなかった。

 

 ……まぁ確かに、当たり前といえば当たり前だろう。

 前回の経験で、寝返りも打てなければ首もあまり動かないことが分かっていたので、天井を見つめることしかできなかったのだ。

 

 その上部屋は薄暗かった。

 ハッキリしない視界では、この状況で情報が得られるはずもない。

 

 前の時は女の人が側に居たのに、今回は人間の気配すらなかった。

 

 どうするべきか、割と真剣に考えた。

 これだけ時間が経っても、意外と意識が飛ばされる気配もない。

 

 ……もしかして、ここが死後の世界!??

 誰も死んで戻ってくることはできないから今まで分からなかったけど、ずっとぼやぼやした天井を見つめなきゃいけないのが死後の世界なの!??

 それともそういう地獄??

 

(え、普通に無理……)

 

 そう考えた刹那、事態は急展開を迎えた。


 軋むような高い音が部屋に響き、どきりとする。

 そういえば、聴覚もダメなんじゃなかったっけ?

 

 我に返って気づいた。

 自分がしっかり首を動かして、音のした方を見つめていることに。

 

 そこには開かれた扉があって、向こうの部屋から灯りが漏れていた。

 

 そして側には、扉を閉めようとする人間の後ろ姿。

腰まで真っ直ぐ伸びた、美しい金色の髪が印象的だ。

 生成色の汚れたワンピースを着た彼女は、右手に灯りを持っていた。

 はっきりとは分からないが、炎のような暖かい色の灯りだった。

 

 そこまで見てやっと、自分の目が割と見えていることに気づく。

 

 相変わらずぼんやりしてはいるが、この前は抱き上げて声を掛けてくれた人の姿も全く分からなかったから、3メートルほど離れた人の姿がここまで見えたことは、かなりの進歩と思っていいだろう。首も動くし。

 

 扉が閉まると辺りはまた少し暗くなったが、金髪の女が持つ灯りのおかげで、さっきよりは断然明るかった。


 灯りはやはり炎のようで、女がそれを持って部屋を歩くと、次々と灯りが増えていった。

 

 このことから推測するに、部屋の諸所には燭台が置かれているようだ。

 

 明るくなるにつれて、この部屋のことが少しずつ分かった。

 

 まず、壁は素ッ裸である。

 壁紙などは貼っていない。

 その上、コンクリと違ってきちっと均されていなかった。

 よく見ると煉瓦っぽくも見えた。

 

 そして、柱や枠組みは全て木材だった。

こちらもあまり加工されていないようだ。

 

 最後にボロい。扉もギィギィ言ってたし。

 

 要するに、お世辞にもきれいな家とは言い難かった。

 おまけに蝋燭の炎をあてにしている……おそらく、電気も通っていないのだろう。

 

 今の時期は分からないが、夏や冬になると暑さ寒さもダイレクトに伝わってくるに違いない。

 今の日本では、田舎でもこんな家は珍しいだろう。

 

 

----------

 

 そんな事を考えているうちに、今の時間になった。

 窓の外では、太陽がゆっくりと登っている。

 

 金髪の女は灯りをつけ終たようで、こちらに向かって歩み寄ってきた。

 

 思った以上にみすぼらしい服装とは裏腹に、その容貌は青く澄んで光るように美しい。

 

 その顔がなぜか、俺に近づくにつれて不思議なものでも見るかのように、怪訝な顔に移り変わっているように見える。なんでだ……

 

(うおっ!?)

 

 今度は急に小走りでめっちゃ近寄ってきた。

 

 体は止まっても顔は止まらず、そのまま俺に顔を近づけ、心配そうにまじまじと見つめる。

 近い近い。てか顔歪ませすぎ!

 なぜか同調して俺も顔を歪ませる。

 それを見て、彼女は少し安心したような顔をした。


(なんで!?)

 

 今度はいきなり俺を抱き上げる。なんて忙しい人なんだ!

 

 抱かれると、ぐいと頭が持ち上がる。

 

(……!?!?)

 

 自分の体が視界に入った……

 

 ……なんだこれは!!!!!

 まるで、まるで………………

 

 赤ちゃん、だ????

 

(え???どういうこと??なんで??)

 

----------

 

 ……しかしよく考えると、これで全ては説明できる。

 ぼんやりした視界も、動かしにくい体も。

 

 ってかこれしかない。なんで今まで分からなかったのか、逆に分からない。

 

「ーーー………ーー……ー」

 

 頬に笑みを湛えながら、金髪の女は俺に話しかける。

 そうだ、言葉が分からないのも納得できる。

 自分が言葉の伝わらないどこかに、生まれ変わったと考えれば……

 

 

「……ーー…」

 

 近くで見ると、彼女はより一層美しく見えた。

 

 その顔は彫刻のように整って乱れがない。 

 そして確実に、日本人ではない。

 キリッとした瞳に高く締まった鼻は、どっちかというと、クールビューティ系。

 

 スタイルはいいが決して華奢ではない彼女の腕には、安心感があった。

 

 この安心感、そして声質。

 

 やはりあの時の声の主はこの人らしい。

 と、すると彼女は俺の母親だろうか。

 

 ……頭を使うと急に眠くなってきた。

 生前の俺よりねぼすけとは、さすが赤ん坊。

 いや、大人でもこの状況は疲れるか。こないだからいろんなことが起こりすぎて、脳が処理しきれていないようだ。

 「母」が揺りかごのように体を揺するから、睡魔は余計に呼び起こされる。

 

(……あー。もう限界。)

 

 「母」が俺を抱いたまま部屋を出るあたりで、俺は意識を手放した。


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