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プロローグ

この時間に投稿したくて、急いで投稿!

ちょっと後から修正あるかもです……

 騒音まみれの電車内でも、眠れるようになったのはいつだろうか。


 瞼を開けると、目の前には……電車の扉の、分厚い窓ガラス。

 人の波が押し寄せて来て、扉の方まで追いやられたのだ。

 

 そんな状況なのに、電車に揺られているうちに眠ってしまったらしい。

 昨日終わった中間テストのために、徹夜続きで余程疲れが溜まっていたのだろうか。


 やばいやばい、乗り過ごしたんじゃないの?

 遅刻ギリギリの電車だったから、もしそうなら諦めるしかないな。


 とりあえず、アナウンスに耳を傾ける。

 やっと聞き取れた音声が読み上げた駅名は、学校最寄りの一つ前。


 ひとまず、安心。

 しかし、まだ間に合うと決まった訳ではない。

 

 今日も学校まで急いで歩かなくてはならないことが、確定してしまった。

 

 遅刻が決定的なら、諦めてゆっくり向かうことができるのに。

 もういっそ遅刻してしまおうか。



 ……そんなこと、考えるだけ馬鹿馬鹿しい。


 どうせ今日もいつもと同じように学校まで早歩きしてギリギリ間に合って、「あちー」とか言いながら席について、クラスの誰かがそれに反応したり、しなかったりするんだろう。


 とりあえず学校最寄り駅までの時間が、できるだけ長く感じれるように願うだけだ。



 これが、俺の日常。

 そう、普通だ。


 電車の車内の、大勢の中の1人。

 人に流されて生きる笹舟でさえない、笹舟を押し進める流れの一部だ。


 南国のビッグウェーブでも、清流でもなく、都会を横切る汚ったない川の、ゴミ捨てられて立った波。


 そんな俺にも、そして俺と同じこの大勢の人間にも、それぞれ人生があって、人格があって。


 そうして今この瞬間も、俺と同じように思考を巡らせている。

 そう考えると俺の人生なんて、存在なんて大したもんじゃない。

 俺の考えている事に至っては、宇宙のチリですらない。


 電車の車窓から他人の家の様子を眺め、彼らにも彼らの人生が。


 そう考えるのは定番かもしれないが、あいにく地下鉄の車窓が映すのは灰色の壁だけだ。



 扉が開くと同時に、小走りに見えないギリギリまで、できるだけ早く足を回転させる。


 学校に着きたくないのに急ぐなんて、可笑しくて笑ってしまう。


 その上走っていると思われるのは恥ずかしいのだ。


 これも「いつもギリギリに学校に着くやつのうち1人」である自分の宿命なのであろう。


 そしてこんなに着きたくない学校も、着いてしまえばそれほど苦痛もなく、適当に楽しんであっという間に帰宅の時間になる。

 いつもそうだ。



 地下から地上へ。


 急がないと。急げ、眠い、急げ、眠い。


 JKがスカートを押さえながら、階段を登っている。

 彼女もまた、お急ぎだ。


 寝呆けたまま、それでもやはり足を動かす。

 信号、赤。


 青に変わるのを待つことはしない。


 大通りから分岐したこれは、たいして大きい道路ではない。


 故に、少し確認すれば、安全。


 よって、町田律16歳、普通の家庭に生まれ、普通に愛され普通に育った俺は、今日も信号無視をする。



 ……あ。


 これは……トラックじゃなくて、もっとでかいアレだ。


 答えが出る前に、その巨大なものは勢いよく俺に体当たりしてきた。


 ブレーキ?なにそれおいしいの?ってか。


 当然俺は抗う術もなく、あほヅラのまま突き飛ばされた。

 カンけりのカンさながらだ。



 トレーラー。


 暴走して、大通りからこっちの道路に突っ込んできたのだ。


 そしてその暴走は、俺とぶつかったって止まることはなかった。


 歩行者は唖然としている。

 暴走するトレーラーにただ驚いた、大通りの人々。

 そして、不幸にも俺がハネられるところを見てしまった者達。


 宙に浮いている時間が、やけに長い……


 そう自覚した途端、時間はスピードを取り戻した。


 容赦無く地面にぶち当たってすぐ、休む間も無かった。


 朦朧とする意識の中で、俺の腹は、カンよりも簡単に踏み潰された。


 苦しいのを耐えきれなくて、咳き込むとゲボッと血の塊が吹き出る。

 腹からだらしなく垂れ下がるこれは、内臓だろうか。



 痛い……痛い、苦しい、痛い、苦しい。

 痛い、眠い、痛い、眠い、眠い……



 こんな時も、俺は。


 眠気がピークを迎えて、意識がどんどん遠のいていく。


 このまま寝たら、俺は死んでしまうのだろうか。

 不思議と抗う気は起きなかった。


 この人生、終わりだけは平凡ではないのか……そう思いながら、眠気に体を委ねる。



 ぶっ倒れるほど眠かったんだ。

 ぶっ倒れた後は、眠るしかない。










 …………ふと、意識が戻る感覚。

 

 ああ、夢か。酷い夢を見たもんだ。


 この夢も、自らの人生をよっぽどつまらないと思っているから見たものなのだろうか。


 だとしても、後味悪すぎる。

 

 やばっ。学校、遅刻する……

 でも、眠い。まだ寝ていたい。


 夢の中でもそれが覚めても、やはり俺はいつものように、始業時間と戦っている。


 時計を見て、寝てはいられない時間であることを自覚したくない。

 今日が休日であることを祈って、目は閉じたままでいる。



 もう一度寝てしまおう。

 そう決意して、寝返りを打とうとした。


 しかし、うまくいかない。

 必死に体を動かそうとしても、もぞもぞと身じろぎを取ることしかできない。

 

 なんだ、これ……

 

 おかしい。

 そう思って、ゆっくりと目を開く。

 

 なぜか、目の焦点がうまく合わない。


 体を動かす。無造作に。

 やはり、うまくいかない。


 焦って、一気に意識が覚醒する。

 

 

 …………そうだ。


 あれは……あれは、夢なんかじゃない。

 

 

 自分ができる最大限まで、頭を回転させて思い出す。

 俺は事故って、そして、そのまま眠って……

 

 そこからは、どれだけ捻っても思い出すことができない。

 

 と、いうことは。

 その時に意識が飛んで、今初めて目を覚ましたということ……なのか?

 ならばここは病院だろうか。

 

 事故の影響でイモムシ人間になって、おまけに視力も落ちてしまったのだろうか。


 受け入れたくない。

 しかし、事実なのだろう……あれだけきつくハネられたんだ。

 

 ……そうだ、痛かった。

 クソクソ痛くて、苦しかった。


 あんなリアルな夢があってたまるもんか。

 損傷しているのは記憶とは違う部位らしいが、気が動転している時に見間違いは付き物だ。


 自分は腹が潰され内臓が飛び出て死ぬんだ、そう思ってしまうほどの激痛だったということである。


 ……思い出すだけで吐きそうだ。


 ……生きているだけ……マシなのだろうか?


 そう、言えるだろうか。


 文字通りの生き地獄。

 今まで俺が生きてきた過程は、何のためにあったのか、分からない。今となっては……


 誰かの声が聞きたい。

 聞いて、少しでも安心したい。


 自分の存在意義を確認したい。

 誰かが側に居るはずだ。


 母が父か、もしくは両方。

 はっきり見えないので分からないが……


 俺が目を覚ましたことに、気付いていないのだろうか?

 事故で無茶苦茶になった我が子に、そんなに無関心なのだろうか。

 

 そんなはずはない。呼ぼう、母さん……

 

 

「あぅぁ」

 

 ……??

 この、あえぐような声。

 俺の声……なのか?

 声も、声までも失ってしまったのか?

 

 考える間も無く、涙が溢れ出す。

 声をあげて……正確には、赤ん坊のようにあえぎながら。

 

 迷惑なんて構わない。

 ここまで不幸なヤツが泣き叫ぶことを、誰が咎めるだろうか。


 返してくれ、俺の……日常を。

 

 

 ……ふと、浮遊感を感じた。


 誰かに抱き抱えられる感覚。

 それほどまでに、俺の体は小さくなってしまったのだろうか。

 

 悲しいはずなのに、胸の暖かさに安心して涙が止まる。

 その腕からは、確かな愛情を感じた。

 

 母さん……だろうか?

 母さんは、こんなに大きかっただろうか。

 

「-----……」

 

 誰かの声がする。

 聞いたことのない声……

 なのに、すべてをあったかく包み込んでくれるような、そんな声。

 

 耳まで不自由になってしまったのか、何と言われたのかは分からない。


 だけど……


 

「どうしたの……私はここにいるわよ」

 

 そう言われたかのように、胸の中に温かいものがじんわりと広がっていくように感じる。

 

 

 こんな状況だというのに、なぜだか少し安心した俺に、再び睡魔が襲ってきた。

 

 誰だか分からない……けれど、このまま胸の中で眠らせていただくことにしよう。

 俺がそうすることを、拒む人には思えないから……

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