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今宵も異世界人を召喚します  作者: ポテイト
異世界での生活編
6/7

1―2 人を見た目で判断してはいけません。

第一部、高橋剛(マジカル高橋)の転移後の話です。

 転移してから三週間が経ちました!

 魔法少女としての仕事にもやっと慣れてきて、毎日の様に人々を救っています!


 あっ! 勘違いしないでほしいんですけど、前の世界でもしっかり魔法少女やってましたからね。ちょっと出動要請が少なかっただけです。


 助けた人に感謝されっぱなしの毎日で、助けた私も嬉しくなっちゃいますよ。

 

 え? 具体的にはどんな仕事をしているか?

 あはは……人を馬車で運んだり、人を馬車で運んだり、人を馬……


「どうしてこうなったでござるかぁぁぁ!!」


 おっと、思わず素がでちゃった。

 魔法少女は冷静さが大事……。

 ちにみに今は副業中。本業は魔法少女だからね。後ろでウトウトしていた客が飛び起きて、辺りを見回しているわ。

 それにしても羽振りの良さそうなおばさんね……。護衛も2人ついてるし。


 御者になって馬車を操るなんて、前の世界に居ても体験できなかった事だと思う。でもやっぱり……ここは想像していた異世界と違う。

 この世界でまだ魔法すら拝めてないし、美少女にも会っていないことが原因ね。

 まあ冷静になると、三次元に美少女を求めるのは間違っているのかもしれないんだけど。


 ともかく、前の世界と殆ど変わってないの。

 

 それどころか、引き込もることもできないわ。日中は日光に照らされて常に継続ダメージを受けているのよ。ポケ〇ンだったら戦う前から火傷状態みたいな。そんな感覚。

 さらに私の燃料であるアニメ、漫画、ゲームも一切ない。

 前にいた世界がどれだけ恵まれていたのか、身に染みてくーー

 


ヒヒィィイン!


 馬が叫ぶと同時に、突然の停車。疑問を感じる前に、私の身体が宙に投げ飛ばされていることに気づく。

 どうやら停車の勢いで、前方に投げ出されてしまったらしい。

 勿論のこと、受け身なんてとれるはずもなく無様に顔面から着地した。


「げははははっ、見たか今の?」

「キレーに飛ぶ豚もいたもんだなぁ」

「「「げはははは!!」」」


 私の美しい呻き声と相反するように、男どもの下品な笑い声が辺りに谺響する。

 横目でしか確認できないけど、おそらくこの男どもは盗賊。バンダナを頭に巻き、男のくせに露出度の高い服を着ているのを見れば一目で分かるし、なにより装備がダガーナイフときたもんだ。昔から短剣は盗賊の装備だと、相場が決まっている。


「さっさと仕事済ませちまおうぜ。護衛二人に俺らが三人、余裕だろ」

「いやいや、豚を含めれば三対三のタイマン勝負だろ?」

「「「げはははは!!」」」


 ……こいつら私のこと舐めてるな……。

 まあ? 今日のところはこのくらいで見逃してあげるけどね。本当に特別。たまたま変身ステッキもってないから。


 こんな思いが言葉になる筈もなく、代わりに無難なセリフを吐き捨ててしまう。


「覚えてろでござる……賊ども!」


 何処かで言った記憶があるけど、それはこの際どうでもいいこと。急いで道の脇にあった森に逃げ込む。ずり落ちたズボンは見事な半ケツを作り出しているようだけど、気にできる余裕がない。


 盗賊たちはそれを見て、また下品な笑い声をあげているように伺えた。



***



 盗賊がこちらに見向きもしなくなった頃、木の陰からそっと馬車とお客の様子を覗く。

 別にお客の安否が心配という訳ではない。私の脳内ではスライムと盗賊は同じ位置づけだし、まさか護衛レベルの者がその程度の雑魚キャラに負けるなど、微塵も思っていないから。


 まあ勝ち負けはともかく、戦闘シーンを間近で観戦したいのが一番の理由。

 武器同士が触れ合い、火花を散らすかもしれない。魔法が撃ち乱れるかもしれない。

 そんなことを想像しただけで、胸が踊る。


「でやああああ!」


 護衛の一人が盗賊に向けて剣を構え、切りかかる。

 ついその様子に目を見張ったけど、直後に失望を隠せない出来事が起きた。盗賊が催涙スプレーを飛散させたのだ。突然の事に、切りかかった護衛はなす術なくダウン。



 ……確かに合理的ね。アイテムを使ったと考えれば、この戦闘にはRPGと酷似したものがあったのだろうし。


 でも、よりにもよって催涙スプレー? どうせなら、睡眠薬が入ったフラスコとか、麻痺効果を付与する煙玉とかを投げて欲しかった。

 おかげでファンタジーの破片も見い出せないわ……。


「げはははは! 護衛のくせして、弱すぎねえか?」

「なにも考えずに突っ込んでくるあたり、脳まで筋肉なんじゃねえの?」

「「「げはははは!!」」」


 その言葉に激情したのか。

 顔を歪めたもう一人の護衛が盗賊に向けて剣を突き立てる。盗賊の懐に飛び込むも、また同じパターン。

 何故学習しないのだろうか。


 ……いやまてよ。もしやこれはテンプレ展開というものでは? この危機的状況を魔法少女である私が救って、その名が王都に知れ渡る。みたいな。


 ……まあさっきも言ったとおり、ステッキないから無理なんだけどね。

 ここは盗賊にバレない内にそそくさと……。


「おい豚ァ! この状況で逃がすわけねえだろ。一歩でも動くようだったら殺しにかかるからな」


 移動しようとした瞬間、盗賊が真っ直ぐとこちらを見てきて、叫んだ。

 その言葉を聞いて、今更ながらに察することとなる。

 あれ……? この状況、詰んでない? と。


 多分これから盗賊どもは、私とお客のおばさんを殺して、ゆっくり馬車の荷物を漁るのだろう。護衛も同様だと思う。

 盗賊にとって、私たちを生かしておく意味はない。仮に生かしておいたとして、王国軍を呼び寄せる火種になりかねないから。


 生き残るには何をしたらいいか。

 そこで一つの候補に挙がるのが戦闘。しかし、これに勝ち目はないことは明白。交渉も不可。ましてや盗賊の仲間になるから見逃してください、などと尻尾を振るのも無理があるだろう。盗賊団には何のメリットもないし。

 だから詰んだ、という結論に至ったのだ。


「んじゃ、取り敢えずババアの方から殺っとくか」


 盗賊の一人が口を開く。

 先に私じゃなくて、正直安心した。でも、直ぐに私にも刃が向けられるはずよね……。早くこの状況から脱却する術を考えなきゃ。


 ……そう思いながらも、つい目がおばさんの方に向く。別に殺されるシーンが見たいわけではないんだけど……。私が生き延びれば一生のトラウマになるだろうし、出来れば目を伏せておくのが得策なのでしょうね。

 けど、私には見る義務があるように感じた。


 ──それが功を奏すとはつゆ知らず。


「……正体をばらさない為に護衛を雇ったというのに……これじゃあ意味がないじゃないか」


 その発言に疑問を抱いたのは言うまでもない。だが直後、より大きな衝撃が私を襲う。

 おばさんが背後から、見覚えのある物を取り出したのだ。そしてこう叫ぶ。


「ドレスアップ! 弾けろ、マイ・ハート!」


 その言葉を聞いて、一瞬呼吸が止まる。


 この年齢の人が叫ぶには、かなり痛々しいセリフだった。見ているこっちが耐えられないほどに。けどそれは、私の呼吸が止まった原因ではない。


 ──それが、聞き慣れているセリフだったから。


 おばさんの周囲が発光し、腕を若干反りながら宙を舞う。一度裸になったのはシルエットで確認できるが、光で上手いこと隠されていた。

 変身を終えた頃、既におばさんの影はなく、馬車の上で決めポーズをとる魔法少女の姿があった。


 魔法″少女″と呼ばれるくらいだ。勿論顔や身長は、元の姿からは想像も出来ないほどに変化している。

 だがそれは、もとより想像出来ているものであった。


 そう。皆さんご存知″マジカルもも″そのものなのである。

 

 目の前に憧れのマジカルももがいる衝撃。それは確かに大きなものであった。だが、おばさんから変身したことへのショックが上回ったのは言うまでもない。


 そんな葛藤が起こっていたことを、マジカルももが知る由もなかったのだけど。

 

 構わずに、盗賊に向かって攻撃を繰り出す。


「マジカル・キュアキャンディ!」


 マジカルももが叫んだ直後、盗賊それぞれの口をめがけて、色とりどりの玉が飛び込む。それに応ずるように反盗賊達はそれを舐めてしまった。


 ……普通、得体の知れない物が口に入ったら、舐めずに吐き出すだろう。

 だが、マジカルももはそれを許さない。いわゆる″お約束″と呼ばれる謎の力で吐き出すことを防ぐのだ。


 舐めてから数秒。一瞬、盗賊の動きが固まる。

 その間、彼らの濁った眼に輝きが溢れる様子が確認できた。


「……あれ? 僕達、何をしていたんだっけ?」


「確か……お花を摘みに、森まで来たんじゃなかったっけ?」


「「「うふふふふふ」」」


 ……あらまあ、こりぁ……すっかり丸くなっちゃて。

 笑い声まで綺麗に変わってるよ。見た目は元のままだから、笑いを堪えるのが大変。


 まあ、この技はアニメで何度も見たから何となく結末は分かっていたんだけど。

 今さっきまでの危機が嘘だったのかのように、盗賊達は手を繋ぎ、スキップをしながら森の奥へ駆けていく。


 それを見送った後、憧れだった魔法少女が私に語りかけてきた。


「……で、御者のお兄さん。どうだった? 魔法少女を間近で見られた感想は?」

「……もう自分を魔法少女と語るのは辞めようかと思うでござる」



 私の発言に、変身を解除した魔法少女は首を傾げた。


 

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