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今宵も異世界人を召喚します  作者: ポテイト
異世界転移編
4/7

4―1 お相手はお付き合いを経て選びましょう。

 この仕事、全くと言っていいほど出逢いがありません。


 ……少し語弊がありますか。

 正確には、仕事仲間と出逢えないのです。政府から、自分が召喚士であることは秘密にしてくれと口止めがかかっているので。

 召喚士の身元がバレると、色々問題が生じるのでしょうね。


 ……色々というのは、まあ色々です。

 説明すると少し長くなりますよ?

 それでもいいなら聞いていって下さい。


 そもそも転移者というのは、転移者だということを周りに知られてはいけないのです。

 会社に勤める場合は新入社員の一人として、個人で仕事をする人も、あくまで事業を立ち上げた物として。

 もともとこの世界にいた人間を演じる必要があります。


 もし転移者だということがバレてしまうと、それによって周囲に偏見の目で見られてしまうかもしれません。

 最悪の場合……人体実験とか?


 ……とまあ、そういうような理由で異世界人は自分の正体を秘密にするのです。

 実際今までの転移者で、自分のことをバラした人はいないようですよ。


 そういうの一般的に『テンプレ』というらしいですね。

 まあ私はよく分からないですけど。


 ともかく、異世界人は自分のことを必死で隠し通します。

 しかしどんなに上手く隠したとしても、誰が異世界人なのか知っている人がいるのです。

 そう、それは私達召喚士のこと。


 つまり、その召喚士の身元もバレたらまずいのです。

 召喚士から情報を引き出そうとする、タチの悪い連中もいるでしょうしね。

 でもそのお陰で召喚士たちに出逢いがなくなると。

 

 ……よし、最初に戻りましたね。

 なんか愚痴っぽくなってしまいましたが、本当はいい仕事なんですよ!

 けっして同業者を増やしたいとか、そんなんじゃないです。


***



 ──チャプン


 足先をお湯につける。

 そのまま体を沈ませていくけど、それはみぞおちの辺りまで。

 半身浴の常識ね。


 浴室内にはアロマの香りが蔓延し、蒸気がサウナの様な状態を作り出す。


「んっ……ふぅ」


 この上ない、至福の時間。

 一日のつかれが吹き飛んでいくよう。

 

 ……といっても身体的には疲れてなんかないんだけどね。

 外に出れば高級外車が待ち構えているから、移動に歩きという選択肢はない。頼めばすぐに整体師が飛んできて、こりを癒してくれる。

 そんな何不自由ない毎日。


 この話でなんとなく勘づいたと思うけど、私は超がつくほどの大金持ち。

 全国数百箇所に子会社をもつ大企業、三橋グループ代表取締役、三橋幾三の娘。

 三橋麗子。

 つまりお嬢さまなの。さらに年齢的には女子大生よ。スペック高すぎない?


 ……羨ましいと思った?

 ふふん、そうでしょ?私は偉いの。金持ちというだけでこの世の優劣は決まると自負しているわ。

 

 それでも色々と苦労はしているの。

 例えば……花嫁修業とか。

 ホントはそんなの立て前で、社長の娘という称号に恥じないようにやらされているだけなんだけどね。

 将来のお婿さんも決まっているわ。

 お父様のライバル会社の後継よ。つまり社長の息子にあたるのかしら。私と立場が似ているわね。それでイケメンだったら最高なのだけど……見た目は肥えたブタ。おまけに金に物言わせて年がら年中ぐうたらしてる奴らしいわ。

 性格も最悪って聞くし……そんな家畜野郎存在するのね。


 そんなこんなで、精神面では結構疲れているのよ。私くらいの女の子だったら普通は遊んだり、恋だって自由にできるでしょ?

 けれど私にその自由はない。

 

 以外と退屈な毎日を送っているのよ。お嬢さまって。なにか刺激が欲しいところね。

 

 ……ってことで手を打ち鳴らす。


「ばあや!」


 急いで走って来てるはずなのに、全く音がたたない。

 プロの技ってやつかしら。


「どうかされましたか、お嬢さま」


 露天風呂に到着したと思ったら、間髪入れずに問いてくる。息一つ乱れてない、優しい声。

 あ、言い忘れてたけど露天風呂よ。ここ。

 長野の別荘にいるの。日焼けははしたないって、お母様に言われているから避暑に来てるのよ。


 ……取り敢えず答えることには答えとかなきゃね。


「退屈なの。なにか面白いことはない?」


 ……我ながら身勝手なお願いね。

 まあそれをやり遂げてしまうのが、家のばあやなんだけど。


「承知しました。すぐに余興をご用意しましょう」


 そう言って浴場を出ていくと、一分後にはオーケストラの生演奏が始まっていた。

 なんともいえない、優雅な気分。

 お金持ちでないと一生に一度も体験できないものね。

 

 夢見心地の中、眠気に苛まれていると水面が突然光り出す。底には中世のヨーロッパを彷彿させるような、美しい模様が広がっていた。

 とっても幻想的ね……これもばあやの用意したものかしら?

 

 ……って、うっ……眩しすぎるんだけど。

 もう少しライトを絞ってくれない?


 耐えきれず、思わず目を瞑る。それでも瞼の裏が白く見えた。


 やっと光が消えたことを感じ、目を開く。


「……へ?」


 ──そこはすでに露天風呂ではなかった。

 深い闇がいつまでも広がっている空間に、白スーツの男が一人突っ立っている。

 暗いはずなのに、男の姿だけ妙にハッキリと。


 ……ちょっとまって、取り敢えず落ち着いて今の状況を確認。

 確かに私は露天風呂にいた。そこでばあやを呼んでオーケストラの演奏を聞いて水面が光って……。

 そして何故かここにいる。


「うっ……と、取り敢えずこれ……どうぞ……」


 男がベストを投げてきて、濡れた私の身体に被さる。

 正面を見るとワイシャツ姿になった白スーツ男が、わざとらしく手で目を覆っていた。

 そこで初めて全裸だということに気づく。

 

 耐えきれず顔を赤らめちゃったけど……意外と男はイケメン。これはチャンスね。


「……お嫁に行けない」


「へ?」


「もうお嫁に行けないの! うわぁぁぁぁ!!」


 膝を床に着いて、泣き崩れる。

 気づいたら知らないところにいて、オマケに初対面の男に裸体を見られた。

 この状況なら、感情をあらわにしても仕方ないと思う。

 

 ……という相手の感情を逆手に取るスタイル!


 泣いてるのは演技。男も相当焦ってるみたいだし、効果は充分ね。

 どうせこの男、家の執事かなんかでしょうし、裸見られたとこで特に思うことなんてないわ。


 じゃあ何故こんなことをしているかって?

 フフン、この男に責任をとってもらうって形で結婚してもらうためよ。

 あのブタと結ばれるくらいなら、初対面のこの男を取るわ。顔もそこそこイケてるみたいだしね。


 そういうわけで、もう少し攻めてみようかしら。


「グスッ……責任とってよ」


「あの……えーっと……」


 分かりやすく男がオドオドしている。

 いい反応ね。計画が順調なことを示してるわ。

 ダメおしにもう一撃。


「責任とって私と結婚しなさいよぉ!」


 ふふふ、目を丸くして困ってる。


 少し考える仕草をして、男が口を開く。


「……それで許されるなら……いいですよ。というか、是非お願いします」


 ……ふぇっ!? いいの? ってか是非!?


 裸を見られた時より顔が赤くなっているのが分かる。

 いやいや、まてまて麗子。一旦落ち着こう。

 まずは深呼吸……スウッ……ハァ……


 こんなに簡単におとされる男がこの世に存在するか?

 もしいたとしても、それは私の家柄で判断してのことでしょ。

 というか……


「いや、あの……その……そんな突然でも困るっていうか……」

 

 自分でもなんて身勝手なんだと思う。

 でも本当に応じてくれるとは思わなかったのよ。


「私のお嫁さんになるなら、職業も必然的ですね」


 ……何勝手に話進めてるのよ。

 執事なら私の話を聞きなさいよね。


「それではそれでは……三橋麗子さん、ようこそ異世界へ! 充実した異世界ライフをお約束します」


「ちょっと! 私の話を……」


 私の言葉を遮るように、突然周囲が光り出す。

 ここに来た時と同じように、目も開けていられないほど眩しく。

 

 うっ……なによこれ?

 さっきから演出が大袈裟すぎない?

 

 ……というか、今の異世界ってなに?

 確か家政婦たちがそんな話をしているのを聞いたような……別時空の地球とは異なる世界だっけ?

 言葉のまんまね。


 まあそんなことはどうだっていいいの。本当に異世界があるわけないし、どういう意味なのかしら?

 私と駆け落ちしてくれるってこと?

 ふふん、ナヨナヨしてるくせに意外と勇気あるじゃない。いいわ、度胸は認めてあげる。

 結婚は……もう少し考えさせてほしいけど。


 瞼の裏が黒くなってきて目を開く。

 あたりを見渡すと、そこはどこまでも続くような広い廊下。相当な豪邸だということが一目で分かる。

 そして何故か……私はエプロンを着ている。

 いや、メイド服に近いわね。

 それにしても、さっきに引き続き凄いマジックね。いつの間に移動させられたのかしら。


 しばらく周りをさまよっていると、老人が現れた。

 色とりどりの装飾品がその老人の羽振りの良さを示している。


 ……え? 誰?


「やあやあやあ、君が新しいメイドさんか!働きに期待しているよ!」


 ……ドウイウコト?



***



 あっ!転移先を指定していませんでした。

 まずいですね……探しようにもその方法がないですし。

 やはりジョブをメイドにしたのは間違いでしたか……。でも仕方ないんですよ! 専業主婦というジョブはありませんし、一番近いのがメイドだったんです。


「ああ、やっと孤独とはおさらばだと思ったんですけど……」

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