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悩みから逃避した常夏の国

健一が思い出したのは、8年前の1982年の晩秋。

その時健一は、初めてタイのバンコク行きの飛行機に乗っていた。

挿絵(By みてみん)


この当時大学生だった健一は、この頃、将来のことで悩む毎日であった。

とある人に導かれ、子供のときから不定期に通っていたあるキリスト教会で、

高校3年の時に「これからの人生が変われば」と決意し、

大学に入った直後に教会で洗礼を受けたものの、

かといって、見た目何かが変わったわけでもなく、

今後の人生をどう生きていけばよいのか、

毎日祈りながらも中々結論が出ないまま、

ただ忙殺されたような平凡な日々を過ごしていた。


現在専攻していた世界史(中国史)の研究を続けるために大学院に進むか、

子供のころからなぜか英語の歌や響きが好きだったために、

独学等で学んでいる「英語力」を使って3年間続けている

“家庭教師”のアルバイトの経験を活かして、

そのまま塾講師などの教育関連の企業あたりに就職すべきか日々思案し

続けていた。

「このまま、教育関係のところで就職するのが一番良いんだろうなあ。

家庭教師のアルバイトは『教え方が上手い』と、

ご父兄の皆さんには好評だし。

でも本当は、中国史の研究をもう少し続けたいんだけど・・・。

これは、俺が小さいときから興味を持っていた分野だからなあ。

そういえば、高校からの同級生である井本の奴は、

自分のやりたい研究をする為、

早々と大学院に進むと言ってたなあ・・・。

でも、今の時代歴史の研究で飯が食えるほど優しくないし、

無難な道を歩むべきか」

そう言いながら、この日は、大学の帰りに乗換する新宿駅で、

なんとなく少し散歩をしたくなったので、

途中下車して、目的も無く新宿の街を歩き始めた。

しばらく歩いていると、偶然通りかかったある旅行会社の“海外旅行”の

パンフレットが、目に入ってきた。

「このまま悩んでも仕方がない、気晴しにどこか旅に出ようか!」

健一は、そうつぶやきながら、パンフレットの置いてあった

旅行代理店の中に吸い込まれるように入っていった。

健一は、元来旅が好きであり、

これまでも、“香港”に1人旅をした経験があったので、

海外に行くことに、何ら抵抗を感じなかった。

言葉に関しても、英語を得意とし、

欧米人と普通に日常会話が出来るレベルであったし、

かつ家庭教師として、普段から小学生に英語を教えている

ほどであったので、全く心配は要らなかった。

「英語さえしゃべれば、世界どこに行っても、どうにかなるからなあ。

ちょっと貯金もあるから考えてみよう」

そうつぶやきながら、早速どこに行こうか考えることにした。

研究対象となる“中国 ”に行くのが本来正しい筈であったが、

この時はなぜかその気がおきなかった。

とにかく全く別の国に行って、全てを忘れたい衝動に駆られていたのだった。

健一は、店内に備え付けてあったパンフレットをいくつか眺めているうちに、

ある国の紹介文に、目が止まった。

挿絵(By みてみん)


「微笑みの国 タイ・バンコク4日間の旅」

「これは?東南アジアかあ。

ん?何だこの見たこともない文字はタイ語?面白い!」

健一は、そのチラシを手にしたかと思うと、全体を舐めるように見渡し、

早速旅行カウンターへ向かって申し込みを始めるのだった。

しかし、実際に申し込んだのは、チラシのツアーではなく、

より自由に旅が出来る往復の航空券のみを購入。

「どうせなら自由に旅をしよう。ホテルは安宿で良いし、

現地にいけばどうにかなるだろう」と、

言いながら、7日間の予定を立て、それから1ヶ月も経たない12月

の中旬ごろに旅経つのであった。

こうして健一は無事にバンコクに到着。

「これは凄い!」冬が到来した日本から来たためか、

空港に降り立った瞬間から南国特有のトロピカルな香り漂う空気に

圧倒されるのだった。

このまま、事前に調べていたバンコクの中華街に向かい、

その中の安宿を確保した。

「ここがバンコクの中華街の中心。ヤワラー通りか」宿を確保して

早速待ち歩きを開始した。健一は始めて来た国の空気に圧迫される。

灼熱の暑さに、どこからともなく聞こえる喧騒のように多くの人と、

渋滞になりかけてゆっくりと進む車の数・・・・。

そしてその車を見下ろすように並んでいる漢字で「大金行」と書かれた

貴金属店のビル群。

挿絵(By みてみん)


それでいて、かつて健一が香港で感じた中国の雰囲気が漂い、

歩道と車道の間には屋台があり、その屋台では、

ツバメの巣のスィーツなどが売られている・・。

そして道歩く人は、当然タイ語での会話ばかり。

この言葉は中国語にも似ているが少し違う。

日本語はもとより英語もほとんど聞こることがない。

日本では到底体験できないような刺激的な町歩き。

10分ほど歩いただけで体中が汗まみれになる。

たまらなくなり、メインの通りから中に入っていく。

メイン通りのような車の排気ガスに悩まされることはなくなったが、

それでも多くの人が縦横無尽に歩いていた。

「これはすごい、日本での悩み事が馬鹿馬鹿しく感じてしまう。

日々生きているということが体感できる!」

当初圧倒され続けていた健一であったが、

徐々にこの空気に慣れてきたのか、むしろ快感すら感じる。

怪しげな通りを、気の向くまま進んでいくと、目の前に大きな川があった。



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