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めぐる世界の幸せを  作者: 麻埜ぼったー
5/21

5

忘れもしない、一回目の高校三年の冬……丁度受験の時期だった。人生における大きな分岐点、そんな大事な時に爆弾は放り込まれた。

その時の俺たちはすっかり齋藤のことなんて忘れ、明るい将来を夢見て学業に励んでいた。

いつもと変わらない毎日。いつもと変わらない日常をずっと生きていくのだと疑いもせず。


それを崩す小さな……そう、すぐに人々から忘れ去られてしまうような小さな事件が起こった。




ある日地方の報道局にいじめの様子が事細かく記録された数枚のCDと、一冊の古い日記帳が届けられた。

ある少年の死の事実と共に。


少年の両親は既に他界しており、差出人は不明。

誰をどう裁いてほしいという言葉すらどこにもなかったらしい。ただ、数年前ある学校で起きた事実だけが届けられた。



それはたちまち世間に広がり、俺たちクラスメイトは罪に問われることさえなかったものの、全員、大学進学はおろか就職にすらつけなかった。

推薦で決まっていた者も、取り消されたらしい。

それだけの影響が、俺たちにあった。……当時はそれが罰なのだと思っていた。




*****




「あれ?なに、知ってた?知ってて声が入らないようにした?」


男の声で、フラッシュバックされた苦い記憶は再び脳の奥へと戻って行った。

叶うことなら、二度と思い出したくない。


でも今――その元凶は俺の目の前にあった。



「……知ってるわけないじゃないですか。ドラマでそういうの見たことがあるだけです……」


「……だよね! だいたい、ヒロすら知らなかったわけだし」


勘弁してくれ……。腹の底から湧き出てきそうな怒りの感情は、本当は目の前の人物にぶつけるものではないのだとわかっている。

こんなの、逆恨みだ。本当に悪いのは、齋藤を死に追いやった俺たちなのに。


『よくも俺の人生を台無しにしてくれたな』


そんな言葉を吐いてしまいそうになる。どうしようもないクズなんだ。俺は。




「だからこそよくわからないんだけどなぁ。ねぇ、キミの名前は?」


「――真鍋、真鍋一弥といいます」


「真鍋……真鍋、ああ、思い出した。いつもどこかに行っている子だね」


ポンと手を叩き、にやにやと笑いだす。



「いじめっ子たちがたまに名前を出してた。男子で唯一直接的にいじめに関与していない子」


「何でそれなのに虐めにあってないんだろうね?顔がいいから?頭がいいから?スポーツができるから?……一匹狼のくせに人気者なんだね、真鍋君は」




「――そんな子だったら、ヒロを助けてあげられたかもしれないのに。酷い、酷い子だね」


嘲れている。軽蔑されている。そんな空気は伝わってくる。

でも俺の耳にはその言葉は一つも入ってきていなかった。


ただ唯一機能している俺の目に映っているのは――


「そんなに気になる? これ」



男はクスリと笑って黒い機械――盗聴器を俺の前に差し出す。

俺は思わずそれに手を伸ばし……途中で手をはじかれた。


「あげないよ」


叩かれた手がじんじんと痛む。

別に、それを取って壊したところで、未来の…いや、過去の俺が救われると思っているわけじゃない。ただ、反射のように手が伸びたんだ。




「ねぇ、異常だと思う?」



「……僕たちはね、家族を守るためなら何でもするよ」



男はニッコリと笑いながら、齋藤を隠すカーテンの向こう側を見ていた。

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