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「クラスメイト…ね。本来なら何しに来たんだって言いたいとこだけど……」
男の訝しむような表情に背筋が凍る。冷たいくせにじわじわと汗ばんでくるのが不快でたまらない。
「ここに来たっていうことは、少しは悪かったと思ってるってことだよね?」
この人は…俺たちがどういうことをしてきたのか、知っているんだ。
責めるような目がありありと憎悪の感情を伝えてくる。
しばらく無言で睨んでいた男は、突然ふいと俺から視線を外し、自身の腰にしがみついている子どもに顔を向けた。
「ちびたち、先に帰ってもらってていいかな?」
「ええー!まだヒロくんに会ってないのにぃ…」
不服だというように口をへの字にする子供を、男は先ほどの冷たさなど全く感じさせない笑顔でなだめる。
その明らかな差に、子どもたちは気づいていない。
「兄ちゃんちょっと、ヒロのクラスメイトくんにお話があるから。ヒロには明日挨拶しようね?」
わざとらしく『クラスメイト』の音が強く発音される。
「…もう、しかたないなぁ。あとでアイス買ってよね!」
アイス!と口々に言い出した子供たちは、スッカリと機嫌を直したようでバタバタと連れ立って室外に駆けていった。
「こら、病院で走っちゃダメだよ!」
「はあい!」
この場面だけ見ると、男はさっきの男とはまるで別人のようだ。
子供たちを帰らせた男は、クルリとこちらに向きなおし、突拍子もないことを口にした。
「っていうかさぁ、キミ、男だよね?」
「……。はぁ?」
何を言っているのだろう。この人はどこか頭のネジが外れてしまっているのだろうか。
明らかに男の正気を疑っている俺に気づいたのか、かしげた首を直しゴホンと咳払いをする。
「そう、そうだよね。どこからどう見たって男だ」
「……何が言いたいんですか」
今までの緊張をよそに思わずそう聞いてしまっていた。
「だってね、おかしいんだよ」
だから何が――
「キミの声に聞き覚えがない」
「――っ!」
その返答に嫌な予想が脳裏を走る。
ああ、心臓がうるさい。いっそ止まってしまえばいいのに。
「僕はね、全部全部知ってるんだ。…これでね」
そう言ってジャケットのポケットからぞんざいに取り出された小さな機械――
「盗聴器……」
そう、俺たちのクラスはこれの存在で地の底へと落とされた。