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めぐる世界の幸せを  作者: 麻埜ぼったー
16/21

16

「尋人っ!?」


学校が終わってすぐに尋人の病室へ駆け込む。

どうか、何もなくそこにいてほしい。尋人はきっと、尋人のままでいてくれる……。



声に反応してこちらを見た尋人は――

俺をおびえた目で見て、肩を震わせた。



「あ……」



これは――こいつは、俺の尋人じゃない。





「どうやら、記憶を失っていた時のことは覚えてないみたいだよ」


後ろからやってきた先輩が、呆然としている俺に話しかける。

その内容が、俺の胸をずしりと圧迫する。

尋人がいない。尋人が消えてしまった。俺を忘れたくないと言っていた尋人は、もういないんだ。



「これ、ヒロのクラスメイトだった真鍋君。覚えてる?」


先輩が「これ」と無造作に俺を指さす。



「真鍋……あ、ああ」


この齋藤も俺を覚えていた。……当たり前か。半年近く同じクラスにいたんだ。



「4年間…ずっと、ヒロの面倒をみてくれてたんだよ」




先輩から放たれた意外な言葉に動揺して、勢いよく発言元を見る。

今までに見たこともないくらい、ニッコリと、笑っていた。


元の、前の齋藤が帰ってきて、ご満悦ということなのか?

尋人の時と、えらい違いじゃないか。



「もう、褒めたんだから素直に喜べばいいのに」


茶化して笑う先輩は、俺の知っている先輩とは別人のように見えた。



「え……ホントなのか?真鍋」


「……ああ」


なんというか……バツが悪い。今の俺は、苦虫を噛み潰したような顔をしているに違いない。



「そっか。……ありがとう、真鍋」



「え……いや、こっちこそ、本当に悪いことを…した。償っても償いきれないものだと思ってる」



こいつは、何を言ってるんだろう。なんでそんなことが言えるんだ?

おかしい。おかしい。思っていたのと違う。



「……何言ってるんだよ。真鍋は何もしてないだろ?」



「見てて何もしないのは、最低じゃないか。それに――」


俺は一度、齋藤を殺した。見殺しなんかじゃなく。



「別に、気にしてない。それよりも……今ここにいてくれるのが、嬉しい」


「4年間も、見捨てないでいてくれて……ありがとう。真鍋」



何も知らない齋藤にそう言われることに、胸にグサリと刃物が刺さるような痛みが襲う。

違う。俺が欲しかったものと……違う。


俺は許してもらいたかったんじゃないのか?

別に罵られたかった訳じゃない。殴られたかったわけでも。罰は十分に受けていたと思っていたんだから。



じゃあ俺は何が不満なんだ?

本当は罰が欲しかったから?相手が、尋人じゃないから?



わからない。わからない。俺が何を望んで齋藤に関わってきたのか、急にわからなくなってしまった。





*****





「くそっ、何でこんなに動けないんだ……」


俺はそのあと、いつものようにリハビリに同行していた。

……尋人と過ごした日常を、これからは齋藤と一緒に過ごすことになる。



「どうした?」


無言のまま後ろを追う俺を、齋藤が不思議そうに振り返った。



「いや……もうちょっと、リハビリ時間増やすか?」


無理やり顔に笑みを貼りつける。


あいつが…尋人が頑張ってここまで動けるようになったのに。

それを知らずにこの齋藤は文句を言う。ここまで回復するのにどれだけ尋人が努力したと思ってるんだ…。

無性にイラついた。




尋人は文句なんて一度も言わなかった。弱音も吐かなかった。



やっぱりこいつは、尋人じゃない。



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