第六話 休暇・お祭り
「アリスーあそぼー!」
「仕事中です」
いつもと同じ言葉であしらわれる。
「そんなアリスにはこれを持ってきたの!」
毎日毎日遊ぶのを断られる私だけど、今日はひと味違う。
今、このアルトゥーナ共和国だけではない。東のマルク公国、北エルト帝国、南ルクスト新興国。全ての国がお祭り騒ぎのように賑わっている。
理由は中央広場に存在する石碑。
ここには迷宮の踏破された階層が全て記録される。ついでに踏破階層の多い50名。所属パーティー50も映し出されるのだ。
迷宮から持ちだされる魔物の素材は、武具の素材になるだけではない。市街の補修だろうが、魔物を寄せ付けないための障壁装置だろうが、とにかく使い道は多岐にわたる。
さて、私のしたことといえば単純明快。今まで157層で止まっていた踏破階層を、たったひとりで300階層まで押し上げたのみ。
まぁ西の踏破階層だけではなく、北の210階層、東の98階層、南の121階層。全てを300階層にしたのだ。
即ち、あらゆる魔物の素材が、国によって差が起きない程度に流出。数十、数百年分の、何らかの研究は進むであろうし、ガルは美しい魔石のため上級階層の者達が落とし、武具素材を買うため鍛冶師達は冒険者たちへ武具を低価格だろうと買わせ、それにより冒険者達は更に今までより戦力を増強させ階層を進める。
ここ数日常に迷宮踏破に潜り続けたため、じっとりとした髪にうっとおしく感じながらも、アリスに叩きつけた書状に満足する。
本山にとっては、アリスは手放したくない存在だろう。だが、それは私には劣る。今私が迷宮を潜ることを止めれば、ガルが回ることは一時的なものでしかない。
そして、だ。
私はまだ、素材を手放したりなどしていない。
本山には、アリスと遊べない西に意味なんて無いから、北南東でお金作って遊んでこよっかなーと言っただけ。
ただ、それだけ。
勿論そんなことをすれば間違いなく、西は今こそ他の地よりも戦力は優っているが、素材が流れなければ他の国よりも劣り始めるのは明確だった。
そんな他愛もない『おはなし』を本山としたら、アリスの今までの休暇するはずだったすべての日程を勝ち取ってみせた。更に問い詰めれば、アリスが受け取るはずであった相応の対価をピンハネしてる事実。
少し暴れて一年分の休暇を奪ってみせた。ざまぁみろ。本山修復で質素な生活しばらくしてなさいって話だ。
「休暇、許可証、一年」
「うん!届け出すればその分はいつでも休んでいいって!」
「一体何してきたんですか……」
「おはなししただけだよ」
ふっと本山に居座る老害を思い出し、殺意が漏れだす。てへ。
「また無茶なことを……」
「ほらー前に一緒に行くって約束した服屋さんいこ?」
アリスは最初こそ呆れていたが、その内吹っ切れたのか、賛成してくれる。
「その前にお風呂行こうね?」
素のアリスの言葉に懐かしく思いながら、お風呂の単語にげんなりする。
「えへへー……私は外で――」
「ほら、早く行くの」
「ひぇぇぇぇ」
結局その後、お風呂に連れてかれた。
◇◇◇◇◇
西、アルトゥーナ共和国。魔術の研究がとても進んでいる国でもあり、水に縁の深い国でもある。実際には地の精霊がこの国に恩恵を与えているのだが、地の精霊と水の精霊は中が良好らしく、北エルト帝国とも同じように比較的良好な関係を結んでいる。
地の精霊の恩恵を受けているだけあり、西の大地は土が肥えており、農業が盛んな国、街中はいつでも花々が咲き誇る美しいところだ。
「おじちゃんー!焼き串3本ずつ塩とタレでちょーだい!」
「お、ユリ様じゃないか。おおまけで1本70ガルでいいよ」
「わぁい。はい、420ガル」
「相変わらず計算早いな。まいどあり!」
アリスにひっついてたら計算は覚えただけだよ。
「はい、アリス!あーん」
「……あーん」
まさか乗ってくれると思わなくて驚く。でもこういうのも楽しい。
「流石アルバーナのお肉、脂がのってて美味しい」
アルバーナは魔物の肉なのだが、豊穣な大地の恵みを食べているだけあり、非常に多岐にわたって料理に使われる。食べれない箇所が頭だけしかないのだ。
繁殖数は多く、それでいて新入り冒険者でも倒せる程度の強さのため、非常に安価で流通される。しかしそれを置いても美味であり、香辛料を振るい炭で焼いただけでも美味しい。
「アリス!次ははちみつ使ったお菓子屋さんいこ!」
「わ、とと。そんなに急がなくてもお菓子はなくならないってば」
甘い、アリスの考えは砂糖菓子にはちみつをたっぷりかけて、ザクザクになるまで炙ったハニーシュガーよりも甘い。
「限定300個なの!あと少しで販売始まっちゃうから急がなきゃ!」
「それは急がないとね……!」
私達の目は今なら龍さえ射殺せるめぢからを放っている。甘いもの、限定。つよい。
「ユリ!はやくっ」
「アリスー、街中で魔法使っちゃダメだよー」
しかし既に聞こえないくらいに遠くまで風の魔術で足を早めて行ってしまっていた。
「もー!しょうがないなー!」