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第四話 蝋燭

「よっ……ほっ」

 迫る鉄の棍棒を避けながらも、着実にミノタウロスへ短刀で切りつけていく。

 銀色に光る髪はサラサラと舞い、たまに顔にかかってくすぐったいのだけど、アリスからは絶対に短くしてはいけませんって言われているため、短く切れないでいる。


 そろそろかなと思い、横振りで迫る棍棒へと跳び乗っかる。グッと浮遊感に襲われるが体の重心を安定させ、棍棒の勢いを利用して天井まで飛び上がる。

 

「浮遊できるような魔術でも作ってみようかなぁ」


 目当ての物は天井にぶら下がる、何故あるのか分からないロウソクにあったのだが、自分の跳躍力を持ってしても届かなかったため、この部屋に出現(ポップ)するミノタウロスの高さを利用しようと思ったのだ。

 だがミノタウロスの高さでも中々に届かず、いっその事怒らせて棍棒で吹っ飛ばして貰い、その勢いを利用することにしたのだ。


「とっどいたぁ!あっつ!」


 何とかロウソクに手が届いたのだが、勢い余って火に触れてしまいやけどをしてしまう。

 泣きそうになりながらも、そのまま急降下してミノタウロスを頭から真っ二つに叩き切る。ミノタウロスは蒸散し、代わりに銀色の宝箱が出現する。

 所謂ミノタウロスは一定の迷宮区画に存在するボス的存在で、迷宮に存在するボスは普通の魔物とは違い、息絶えた後は死体が残らず光の粒子となって掻き消える。その代わりであるが、報酬のような形で宝箱が出現するのだ。

 宝箱の内部は異空間となっており、手を突っ込むまで何が取れるかが分からない。


「あんまりこのぐにゃってした感じ好きじゃないんだけどなぁ」


 宝箱に手を突っ込むとまるでスライムに触ったような感覚が手に感じて、正直そんなに気持ちいいものではない。……その感覚が好きという者が稀にいるようだが。

 なお宝箱は次元収納BOXの材料となるため、ギルド側が高めに買い取ってくれる。次元収納BOXの容量は基本、宝箱の材質によって変化する。

 収納率が高い順に、白金、金、銀、木、布だ。だが加工しやすさはこの逆であり、布の宝箱の方が重宝されたりもしている。


 しかし宝箱の大きさは大人が2人悠々と入れてしまいそうな大きさであり、中々にこのまま運ぶのは手間がかかる。そこでユリとアリスが共同で編み出した魔術が出てくる。


「箱さん箱さん暫く丸くなってねー」


 ――紡げ、紡げ、魔へと紡げ――

「素は塊、素は塵、アストラル」


 つ、と音を立てた瞬間に箱は手のひら台の水晶玉に変化し、簡単に持ち運びできるようになる。

 本当ならばもう少し呪文は長いのだが、自らが創作したためこの魔術はどういうものかといった理解が深ければ深いほど詠唱は短く済み、ユリの唱えた呪文は通常の半分であった。


「アリスなら無詠唱かなぁ」


 そんな事を思い浮かべたが実際にはユリよりも少しだけ長めであり、どうしてと嘆いていたアリスの事を少女は知らない。



 ***


「アリスー取ってきたよー」

「わ、ありがとうございます。これで暫く火には困らなさそうです」


 そう言いながらアリスは頭を撫でてくれた。

 私はこの人の手が凄く好き。暖かくて、優しくて、できることならずっと撫でていて欲しい。

 少ししてスッと手が離れてしまい、名残惜しく感じるが気になっていたことを聞くことにした。


「それって何につかうの?」

「これは魔力蝋燭(マジックキャンドル)と言ってですね、炎系等の魔力限定ですが、永久的に魔力を生み出すロウソクなんですよ」

「……危なくない?」

「そうですね、魔力を使わずに生み出し続けたら街に魔物が生まれてしまうかもしれません。ですがずっと使い続ける予定なので大丈夫ですよ。」

「ほぇー」

「では早速取り付けちゃいましょうか」


 何に使うのか結局聞けていないのだが、アリスはささっとギルドの奥へ行ってしまう。彼女がいないと受付は誰もいなくなってしまうのだが……大丈夫なのだろうか。首を傾げながらもアリスへついていくことにする。

 

 ちなみに周囲の冒険者は、アリスかかれこれ八週間休まずに仕事をし続けているのを知っているため、誰も文句を言わずその姿を見守った。

 

 

 ****

「ふわーひろーい」


 アリスについて行った先は水が張られた場所で、水浴場だろうかかなり広々としていた。丁度アリスが石にロウソクを取り付けている最中だった。


「これでよしっと」

「うんー?」

「ユリ様、少し水に触っていて貰えますか?」

「うん、いいよー」


 冷たいと思っていた水は少し生ぬるく、少し変な感じだった。

 そう思っていたところ少しずつ温まって行き、今では少し熱めな位だった。


「おー、あったかい!」

「ちょっと調節が難しいところだけど誰でも使えそうかなぁ……」

 

 ウンウンと唸っているアリスに少しいたずらで温まった水を飛ばしたら怒られてしまった。


「これってなーに?」

「うーん、お風呂……温泉ですね」

「おんせん!」

「まず体を清めてから、体を温めにこのお湯に入るんですよ」


 ……ここで裸になって入るのだろうか。ここの浴場は暗くなく、明かりも点いていて視界が広いため抵抗があった。


「一応男性と女性でしっかりとユリ様に取ってきて頂いた材料で、障壁を張って分けれるようにしてあるので安全性はバッチリです」

「う、うーん」

「という訳で試しとしてユリ様一緒に入りましょうね」

「うんー。……えっ」

「ほらほらー脱衣所はこちらですよー」

「えっえっ」


 

 その後、湯気を立たせながら仕事をこなすアリスと、ソファーでぐったりするユリの姿がギルドにはあり、数時間待っていた冒険者は苦笑していた。

 

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