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呪天の魔王  作者: こう茶
1章~黒水戦役編~
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魔王と剛剣

 武装竜鱗人アルマドラコの討伐から二日ほど経って、ソラの治療の甲斐あってか、問題なく出歩くジルベルトの姿が見える。彼だけではなく、ベルナールたち他のメンバーも集まって移動していた。皆一様に武装をしているためか、通りを歩いているとどこか物々しい。


 ジルベルトの傷が癒えたこともあり、さらなる復調を促すために、傭兵ギルド所有の訓練場へと向かっていた。


 そこへと向かう通りを歩いてると段々と傭兵たちの数が増えていき、ソラたちの姿も自然なものへとなる。

 早朝であるにも関わらず、少なくない人数の者たちがここで訓練をしている。仲間同士での鍛錬は勿論のこと、その場で会った者同士でのものもある。

 ソラやベルナールといった、この辺りで知名度の高い者がいるのだが、声をかけられないのは、やはり、魔王という名が恐ろしいからだろう。とはいえ、注目はされているようで、休憩がてらソラたちの姿を見ようと視線が集まった。


 それらを気にすることなく、自然体でベルナールとジルベルトが向かい合い、ソラの周りにはほかのメンバーが囲んでいる。

 ベルナールたちは豪気の扱いの訓練。ソラたちは地力を伸ばすべく、一対三での勝負である。


 ジルベルトとベルナールの訓練は互いの咆哮により、始まった。


 気合十分、豪気が全身を包む。しかし、その展開速度を比べると一目瞭然。ベルナールが瞬きの間に纏うのに対し、ジルベルトは大剣の一撃を受けながら、やっとの思いで纏った。

 豪気を使わずにその一撃を受けるのは大分堪えたようで、開始早々だというのに肩を上下させて、荒々しい呼吸音を出している。


「遅え! もっと気合い入れろ!」


 不甲斐ないジルベルトに喝を入れつつ斬りかかる。

 ジルベルトに言葉で答える余裕はない。右翼の羽ばたきでもって、身体を左に押し出し攻撃を躱す。

 豪気の練度の違いもある。一撃の威力と持続時間には如実な差があった。

 また、躱すことに必死で豪気が翼と足にしか覆われていない。


「怪我してえのか! 気合い入れて、体全体を覆え!

 両腕に、気が回ってねえ! 次は槍にもだ!」



 気の解放は飛躍的に身体能力を上昇させるが、一極集中の運用をすると、他の部分がその動きに付いていけず、自滅しかねないのだ。

 戦闘時でも問題なく使いこなせるようにと、指導するベルナールは手を休めることなく、大剣を繰り出し続けた。

 豪気に覆われた大剣と、半端にしか覆われていない槍がぶつかり合う度に、槍にダメージが蓄積されていく。頑丈さを求め、黒土銅ドワルフで作られた柄が悲鳴を上げる。交わる度にその破片が飛び散っていた。

 激しい猛攻の前に耐え続けるという状況は変わらない。


 一方で、ソラたちの訓練は静かなものだ。最初こそアヴェリーが豪気発動のために気合いを入れただけで、後は環の詠唱の声と剣戟の音しか聞こえてこない。


 両手にククリナイフを突っ込むアヴェリーの攻撃速度はなかなかのものである。帝国人特有の身体は二足でも四足でも、戦闘を可能にし、より変則的なものへと変えている。距離が離れれば、ナイフを飛ばす。ゆえに近中距離では油断できない。


 環は幻術で姿を隠し、どこからともなく炎の魔法を放つ。もしくは、仮の姿をあらぬ場所に映し出し油断を誘っていた。


 ノーラはと言えば、アヴェリーとともに特攻し、どちらかと言えば、土の精霊の加護を使ってソラの動きを封じることを主として、補助に回っていた。


 だが、その上で拘束を一瞬で弾き飛ばし、環の居場所を正確に見抜く。そして、魔力を感知して、その高まりとともに回避して危なげなく魔法をよけ続ける。唯一アヴェリーだけがソラの超速に喰らいつくが、一歩も、二歩も劣る動きでは簡単に背後を取られ吹き飛ばされてしまう。

 ソラの指導は少々わかりづらい。下手な連携やミスをすると容赦のない鉄拳によって示される。

 不親切極まりないが、傷が減ること、それすなわち、高みに近づいている証拠である。 

 彼らの動きが鈍り、ミスが目立ち始めると休憩を命じて、ベルナールと向かい合う。

 ベルナールもまたジルベルトをあしらい、身体が温まっている。


 そして、目が合うとどちらともなく、駆け出した。

 すでに準備を終えた二人が刃を交える。


 豪気と錬気がぶつかり合い、赤と青が混ざり合う。


「ウラアァッ!」


 ソラ相手だと、経験で勝るベルナールといえど分が悪い。逆に言えば、その部分でしか勝つことが出来ないのだ。

 だが、簡単に膝をつくつもりはなかった。今日こそは土を着けてやる、と意気込んでいる。

 手数はソラの方が多く、攻勢を維持し続ける。

 右、左、右、右、さらには上下から迫る刀を捌き続けるベルナールの形相は必死なものだ。汗が噴き出し、瞬きすらも許されない。それでいて、一撃たりとも受け止めさせてくれない。これでは連撃を止められない。体力と精神力だけが奪われていく。

 だが、ソラの攻撃が繋げる一撃である見切るとあえて肉を切らせて反撃に出る。

小細工なしの上からの振り下ろす。

 その速さ、重さともに一級品。

 ソラは受け流すが、刀と大剣の接触面からは火花が飛び散る。つまり、完全に力を流しきれていない。

 ここで初めてソラの足が止まる。

 さらにもう一撃。今度は横薙ぎ。

 威力よりも手数を優先したものであっても、その得物と体格差から、受ける方は直撃を避けねばならない。


「ラァァッ!」


 それを捌いたソラにぼぼノータイムで切り替えした大剣が逆方向から襲い来る。

 しかし、その僅かな時間で、腰を落とし大剣の下へと潜り込む。そして、上へと弾くと、鋭い突きを放った。


 大剣を振った勢いを利用し、右へ跳躍。

 回避を成功させるが、その動きは読まれている。


 突きとともに、前へ踏み込み、回避したベルナールの脇腹に掌底を当てる。

 その瞬間、初級闘術、衝波が発動。増幅した衝撃波により、ベルナールを吹き飛ばした。


 ベルナールは脇腹に奔った衝撃で体中の空気が外へと飛び出すのを、歯を食いしばり耐える。そして、飛ばされる中で、右足を地面に突き立て、無理矢理体勢を整え直す。

 前傾姿勢を取ると、大剣を前に突っ込んだ。


 ソラが闘術を使った今、直後に生じる僅かな硬直時間を狙い、速攻を仕掛ける。

一足で距離を詰めるために使うは中級闘術、牙突。力強い踏み込みで地面が揺れる。


 防御が間に合わないかと思われたが、すでにソラは回避行動を始めていた。


 ソラの切り札の一つである即神術の奥義、意志による身体操作を駆使した硬直無視の防御。

 刀を大剣の側面に押し当て、受け流す。だが、ベルナールの放った牙突の威力は凄まじく、勢いを殺すことが出来ない。

 二つの線を地面に引きながら、後ろへと引きずられていく。やがて、闘術の効果が切れる。

 そして、再び攻守が入れ替わ――らない。

 ベルナールは気勢を制するように左足が繰り出した。


「ほう」


 思わず感嘆の声が口をつく。


 闘術の使用直後に動けるということは、つまり、ソラと同じく即神術の奥義への到達を示す。

 真っ直ぐ、綺麗な蹴りだ。鍛え上げられた肉体から繰り出された、それは速く、鋭い。とは言え、ただの蹴りだ。ほかの誰かが相手ならば、仕留められるかもしれないが、ソラを捉えることは不可能だ。

 

 逆に左足を足場にして跳躍。ベルナールの左肩に着地すると、顎を蹴り飛ばした。


 土煙を上げて、崩れ落ちる。

 やがて、それが収まり、頬を叩いて、自分に喝を与えると、ベルナールは自ら大剣を手放し、右手を挙げた。 


「まいった」


 それを確認して、ソラもまた黒刃を鞘に納めた。


 ソラとベルナールの対決が終わるとどこからともなく拍手が鳴り響く。

 レベルの高い二人の闘いに、他の傭兵たちも見入っていたようだ。

 それに目礼で以て応えると、ベルナールに声をかけた。


「驚いた。見事だ」


 ソラが賞賛することは珍しいが、驚きを露わにするのを見たのはベルナール自身初めてだった。

 自身の行った切り札が、天才の意表突くことができたのだ思うと年甲斐もなく嬉しくなる。


「へっ、まあな。どうよ、俺もやるだろう?」


 得意げなベルナールを鼻で笑うと、その鼻っ柱をへし折るべく言葉を投げかけた。


「詰めが甘い。ただの蹴りでは、やるだけ無駄なんだよ。

 筋肉の詰まった脳みそをもっとよく使え」


 背を向けながら、だが、と続けた。


「だが、いずれ闘術を連続で使えるようになるだろう。期待している」


 背中を向けるソラはどんな顔をしているのか。正面から見れたなら、とても楽しいだろう。今はそれに触れず、握った拳をソラへと向けた。


「ああ、もちろんだ。きっと追いついてやるぜ」


 自分の能力を知り、実感して、なお追いつこうとする者がいる。形容し難い感情が湧き上がる。それを押さえつけて一言。


「ああ、待ってるよ」


 朝日の眩しさに目を細めると、アヴェリーたちに休憩の終わりを告げた。




 ◆ ◆ ◆




 鍛錬を重ね、装備を新調して時間をつぶすこと5日。ついにあの日がやってくる。

 ギルドの中には多くの傭兵が集まり、がやがやと騒がしい。平時よりも人が集まっているのはこれからのことを予期し、何らかの手段で情報を手に入れた者が多いということだろう。

 ギルド内の雰囲気も普段とは異なっていた。どこか豪華というか、手の凝った装飾が為されていたのである。まず、ギルド職員がカウンターから出歩くための扉の前には赤い絨毯が引かれたお立ち台が置かれている。さらに、業務を行う職員の服装も黒と赤の制服ではなく、白と金の礼装となっている。

 多くの傭兵たちが仲間たちと談笑したり、手続きを済ませたりして暇つぶしをしている中にソラたち6人の姿もあった。

 この人ごみの中でも椅子とテーブルが確保され、少々人の密度も低いことから、他の傭兵から一目置かれていることが分かる。


「さて、いよいよだな」


 大ジョッキを片手にベルナールが歯を光らせて笑った。


「腕がなるぜぇ!」


 気合十分といった様子で、手にこめられた力が強すぎるせいかジョッキに罅を入れるジルベルト。

 アヴェリー、環、ノーラはいつも通りがつがつと勢いよく食事を楽しんでいる。その姿からは緊張や不安など微塵も感じられない。

 そして、ソラは静かに杯を傾けた。


 やがて、カウンターの奥の扉から二人の男性が現れる。一人はソラもよく知るこの支部のギルドマスターだ。もう一人の軍服を着た初老の男性は優しげな風貌をしているが、彼から感じる力はジルベルトと同じくらい。つまり、なかなかの実力者であるということ。

 二人は壇上に上がると、まずはギルドマスターが口を開いた。

 ギルドマスターというのは元々傭兵家業をしていた者がその功績を認められ、その地位に就くことが多い。ということは、ソラのような例外を除き、荒くれ者といった言葉が相応しいのだが、このギルドマスターは王国から派遣されてきた者であり、貴族然としている。

 優雅に一礼すると、口を開く。


「御機嫌よう、皆さん。

 ご存知の方も多いとは思いますが、このフォードゥル支部のギルドマスターを務めておりますベクレル=オーバンと申します。

 本日は皆様のお力を貸していただきたく参りました。高いところからでは失礼いたします。

 また、こちらにいらっしゃる方は」


 オーバンは自分の紹介を終えると手のひらを隣の初老の男性へと向けた。

 貴族のように身なりを整えている男性は一歩前に出ると、その先の言葉を引き継いだ。


「お初にお目にかかる。私はシセ=ニルスである!」


 その風貌に似あわず、声には覇気があり、自然と背筋が伸びる。ざわざわとしていた雰囲気がぴしゃりと引き締まった。


「率直に言おう。我々は貴殿らの力を欲している。

 先の戦役により、我々は多くの同胞を失った。しかし、卑劣なる帝国より我らの国土を、そして、家族を守らねばならぬ!

 今立たねば、国は侵され、血に塗れるだろう。それだけは避けねばならぬ。そして未来永劫、そのような危険を取り除くのだ!

 問おう。貴殿らに戦う覚悟はありなんや?」


 吊り上がった目に込められた力強い視線に多くの者が射抜かれ、その胸の内に火を灯した。


 熱気と歓声が湧き上がる。

 元々血気盛んな連中が集まっているのだ。それに暴れる大義名分を与えられて、喜ばない者がいるはずもなかった。


 その後、静かにオーバンが報酬についてと諸注意、そして、傭兵たちに課せられた役割についての細々とした説明が加えられていった。


 短いが熱い演説が終わると、台が片づけられ、粛々と日々の業務へと移行していく。

 多くの傭兵たちが次の戦に参加するための手続きを行ったか、もしくは参加を前提とした話し合いがなされている。


 ソラたちもまた最後の意思統一が行われていた。


「さて、この依頼は受けることにするが構わないな?」


 頷きを確認すると、さらさらと所定の用紙に記載事項を書いていく。そこには参加者の名前、年齢、性別、国籍もしくは部族名、所有ジョブ、提示された役割の中からどれを担当するかの希望、最後に同意の意思表示を行って完了となる。

 ソラがそれを受付に提出すると、声をかけられる。


「ソラ様、支部長がお呼びです。また、ベルナール様も連れてきてほしいとのことで、よろしいでしょうか?」


 見れば、あの時迷惑をかけた受付嬢である。ベルナールとともに呼び出されるという時点で厄介ごとの匂いを感じ取るが、応じざるを得ない。


「分かりました。時間は?」


「できるだけ早めに来てほしいとのことで」


 しきりに頭を下げる彼女に哀れに思い、ため息は飲み込んだ。


「ベルナールに声をかけ次第、向かうとお伝えください」


「ありがとうございます!」


 飛び跳ねるようにして、奥へと入っていく彼女を見送ると、仲間たちの元へと戻った。

 ベルナール以外には解散を告げ、よく身体を休めておくように言いつける。

 声をかけられたベルナールはさして驚いた様子もなく、ソラとともにギルドの応接室へと向かった。


 そこには先程の受付嬢がおり、茶を二人に出し、オーバンと入れ替わるように出ていった。

 そして、さらにもう一人、先程壇上の人となっていたニルスも席に着いた。


「こうして君たちと話すのも多くなったね。

 今日はこちらの申し出に応じてくれて嬉しく思う。ありがとう」


 オーバンの物腰は柔らかく、ソラの素を知る人物の一人でもあった。

 直近で面会したのは、武装竜鱗人の討伐報告でのことだったかと思い出した。

 ぞんざいな言い方で返そうとするが、隣に座るニルスに目を向けると口調を改めた。


「いえ、当然のことをしたまでですよ。

 お忙しいオーバン様のことです、お時間を取らせるわけにはいかないでしょう。

 早速ではありますが、ご用件を窺いたく存じます」


 ソラの丁寧な返事に素を知る者としては苦笑を隠し切れない。


「ソラ君、大丈夫だよ。ニルス殿はそのようなことで気を悪くなんかしないさ」


 からかうような口調にいやそうな顔でため息をつくと、その言葉を無視してニルスに話しかけた。


「私はソラ=カミヤと申します。以後お見知りおきを。

 私のような一介の傭兵に何か御用でも?」


 あくまでその態度を貫くソラに、ニルスはその白い顎鬚を摩りながら朗らかに笑った。


「遠慮せずともよい。号の所持者であるならば、それも許されるというものだ。

 改めてよろしく頼むよ」


 演説での様子とはうって違い、柔和な表情がよく似合っている。顔に刻まれた目じりの皺が本来の姿を示している。

 自身のことが伝わっていたことを悟ると、余計な情報を漏らしたオーバンを睨んだ。

 冗談とは言え、ソラの睨みに冷汗が流れ落ちるが、笑顔を張り付けて受け流した。


「そうか。なら、普段通りさせてもらう」


「ふふ、それで良い。

 では、本題に入ろうか。君たちも次の戦に参加するようだが、その実力を見込んで、特別な任務についてもらいたい。

 どうかね、ソラ殿、そして、ベル」


 そう親しげにベルナールに話しかけた。

 じっと静観していたベルナールが初めて口を開いた。


「アンタがここに来たってことは大分出世したってわけか?

 まあ、どんな任務でも構いやしねえよ。俺は俺らのリーダーに従うだけさ」


「確かに君が軍にいたころよりは二つ階級を上げたよ。しかし、君ほどの人物が下につくほどかね?」


 品定めをするように下から上まで、じっと見つめる。ニルスでは分からなかった。容姿は優れていて、並々ならぬ力があるのは認めよう。だが、感じ取れなかった。魔力や気の類の一かけらたりとも。


 そして、その力量の一端にでも触れようと、敵意を以て腰の剣に手をかけようとした時だった。

 どっと嫌な汗が噴き出した。

 心臓を鷲掴みされているかのような、ただ静かでそれでいて胆の据わっているだけの青年から圧倒的な存在感を感じる。室内の酸素が無くなったかのように息苦しい。


「おやっさん、ソラ相手に人を試すような真似はすんな。

 ソラもその辺にしといてやれよ」


 その言葉がきっかけとなり、不可視の圧力が消える。

 ソラはただ不快そうに胸を抑えるニルスを見下ろしていた。


「まあ、これで分かったろ?

 この手の冗談をソラにやるのはやめときな」


 十分時間をかけて、呼吸を整えなおすと、ソラに頭を下げた。


「無礼を詫びよう。この通りだ」


「……次はない」


 目を合わそうともせず、突き放す。

 オーバンに助けを求めるが、笑って首を横に振った。端的に言えば、諦めろということだ。

 自分の失態で協力を得られなくなる可能性が出てきたと思うと渋面を作った。しかし、依頼をせずに引き下がれない。これほどの実力を感じたからには尚更だ。

 

「ソラ殿、貴殿らに頼みたいことは二つ。敵を背後から奇襲と聖女の護衛だ。

 一つ目はもちろん、敵戦力を削ぐことが目的となる。貴殿らの実力を如何なく発揮してもらえればと思う。それに伴い、自由に動けるだけの権限も与えよう。

 二つ目は護衛ということで、貴殿らのような戦力を手元に置くのは惜しいが、今や彼女は我が軍の生命線ともいえる。それにソラ殿と同じく陰陽国の出でもある。同郷の者が傍にいれば、それだけでも心強いだろう」


 そして、再度頭を下げると、締めくくった。


 ニルスの不安な内心とは裏腹にすでにソラは決断していた。


「分かった。その依頼受けよう。

 報酬、任務開始時刻、対象、その他もろもろ詳細はベルナールに伝えろ」


 それだけ言うと、扉を開け退出した。


「ま、そういうことらしいから後は俺が引き継ぐぜ」


 ニルスは肩をすくめて笑う友人につられて笑みを零した。




 ◆ ◆ ◆





 ソラが寝泊まりする一室の窓から空を眺めながら、このフォードゥルでの日々もあと少しだ、と感慨に耽っていた。


(戦争か。伝聞でしか知らないからな。どんなものなんだろうな?

 なるようにしかならないわけだが、もし、あいつが聖女ならば気にかけてやるか)


 月明かりが、白いソラの横顔を優しく照らす。

 刀を片手に立ち上がるソラの夜はまだまだ長そうだ。

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