いたりつくせりらしい
話の節目なので短めです。
少女たちは風呂を浴びながら覚悟を決めていた。
長年守り続けていた操を奪われるのだ。できることなら普通に恋をして普通に好きな人に捧げたかった。
しかし奴隷になってしまった。奴隷になってしまった以上、間違いなく奪われてしまうだろう。
ミュレは涙ぐみながら体を洗い、カイセは不満そうな顔で頭を洗い、ムールは相変わらず表情を変えずにお湯をかぶる。
これから行われるであろう初めての行為のことを思うと言葉が出てこない。
この3人は奴隷の店に入荷された日の朝に購入された。同じ部屋にいた時間は少しだけだ。
なのであまり言葉を交わしていない。それも相まって3人とも無言だった。
「寝間着おいとくよー」
外から天仁の声が聴こえる。
「ありがとうございます」
ミュレが返事を返す。
カイセは反抗的、ムールは無反応なので返事はミュレばかりがしている現状である。
料理を食べ終わった直後のムールは少し感情が動いて見えたがすぐに戻ってしまった。
あまり長風呂をしているわけにはいかない。主人の機嫌を損ねてしまう。
晩飯程度では全然信頼を貰えていなかった。
町から戻ってきた天仁は3人分の寝間着や布団を買ってきていた。
家具はすべて揃っているがさすがにシーツや布団までは用意されていなかった。ベッドはあるが布団は無い。
天仁は布団を各部屋に運ぶと同時に寝間着を洗面室に置く。
「寝間着おいとくよー」
そう声を掛けると同時に3部屋に布団を敷き、シーツをかぶせる。外から見たら天仁は4人ぐらいに見えていただろう。
無事部屋の仕度が終わるとリビングに冷えた水を3杯置いておく。
この世界に冷凍庫は存在しない。なので天仁が魔法で作った氷を入れた。
少女たちには1人1つのタオルが用意されていた。少し驚いていた。
少女3人でタオル1つだと思っていたし、タオルも綺麗で新品のようだ。事実新品だった。
寝間着も驚いた。色は白く、留め具等やフードがついていないローブで、いわゆるバスローブだ。
着心地が良く、安いものでは無いと少女たちは直感で理解する。
髪と体を拭き、バスローブを身にまといリビングに戻ると3人分の水が用意してあった。
天仁にどーぞと言われ水を飲むと冷えていたことに驚いていた。
2階についてきてと天仁に言われ、いよいよかと思う少女たち。
待ち受けていたのは豪華な部屋だった。化粧台に姿鏡、衣装ケースまであった。
ベッドは4人で寝るには小さいが1人で寝るには大きいサイズだった。
「1人1部屋ね。この3つの部屋を好きに選んで。どの部屋も構造や設備は一緒だから。俺の部屋は廊下の突き当りにある部屋だから何かあったら呼んでね。今日は疲れてるだろうしゆっくり寝な。それじゃおやすみー」
そういうと天仁は自分の部屋に向かい、廊下を歩いて行く。
「おやすみ・・・なさい・・・ませ」
困惑していた少女たちで反応できたのはミュレだけだった。
自分たちが想像している展開とまったく違っていた。
天仁の言う通り疲れていたので言葉に甘えておとなしく寝ることにした。
部屋は天仁の部屋から近い順にミュレ、カイセ、ムールになった。
買われた次の日も、おいしい美味しいご飯を馳走になり、風呂に入れてもらえた。
その次の日は服や下着を買ってもらえた。もちろんおいいしいご飯に風呂もあった。
そのまた次の日もおいしいご飯と風呂があった。この日はデザートまであった。
いたりつくせりだった。
奴隷たちが天仁にすることはおしゃべりすることだけだった。
1週間も経つと奴隷たちの気持ちや態度が大きく変わっていた。
「ご主人様、洗濯物がありましたら洗いますのでこちらに出しておいてください」
「ありがとう」
ミュレは天仁のことをご主人様と呼び、家事を率先してやっている。
はたから見るとどう見ても慕っているようにしか見えない献身振りだった。事実間違っていないのだが。
「主、後で鍛錬に付き合ってくれない?」
天仁を主と呼び、タメ口で話すのはカイセ。一週間で態度が大きく変わり、心を開いている。
「いいよー」
天仁はタメ口に気にすること無く快く引き受ける。
すると天仁の裾を引っ張るムール。
「ご主人、私とまほうのくんれん・・・ある」
ムールが少し不満気に言う。ムールは天仁のことをご主人と呼ぶ。ムールの変化が一番大きいかもしれない。言葉が拙いが案外喋り、天仁に懐いていた。すぐに天仁の側に寄って行ったりする。
「忘れて無いよ、ちゃんとやるから安心して」
「ならば・・・よし」
この1週間いろいろあり、天仁と少女たちの信頼関係良好であった。
少女たちの好感度も高い。
1週間ほど前までは静かだった家も賑やかになっていた。
そんな状態の我が家を見て、満足気な天仁だった。
いろいろあった1週間はもちろん後に書きます。