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僕らの革命 【改訂版】  作者: 片山 碧
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克服



それから何日か経ってもコージからも倉井さんからも連絡は無かった。



僕は仲間とメールで毎日会話をした。


いじめの話以外も出来るだけ沢山したんだ。


話したり聞いたり(本当はメールだから打ったり読んだりだけどね)して相手の情報を集めた。

理由は本当に実行してくれるのか?信用してもいいのか?という見極めが必要だったから。



相手は本気かどうか。



いずれは警察が介入する。

警察が介入する以上、家族には迷惑を掛けるだろうし、終われば消えるのだから始めたらもう家族には会えない。


余程の覚悟は必要だ。


それが解ってるから、裏切りで全てを台無しにはしたくない。


…事を始める前だから今ならまだいつもの世界に戻る事はできる。仲間も僕も。


でもそれだと僕の置かれた現状は悪化はすれども好転はしない。

永遠に地獄の日々が続くんだ。


…だから僕だけであってもやるしか無いんだ。

仲間が信用できないなら一人でやった方がいい。




その仲間の為にも、まずはリーダー…警察に言わせれば首謀者としてのカリスマを持つ必要がある。


まずは僕が本気である事を見せなければ。

もう戻れない位置にまでいる姿を見せないと他のメンバーに僕が本気だとは示せない。


人の本気を期待して、自分の本気を見せないのはやはり卑怯だと思ったんだ。


戻れない位置…思いついたのはやはり武器。


武器を手に入れたらもう戻れないよな…。


でもどうやって手に入れたらいいんだろう…


ロシアや中国から密輸してるトカレフ。フィリピンやインドネシアのコルトやS&Wのコピー。本場アメリカの各種の銃…


ネットや映画、本、テレビだと幾らでもありそうに見えるんだけど…


普通に買える訳ないよな…


じゃあモデルガンを改造して作るか?


僕の頭に暴発して指が飛び散る様子が想像できた。

無理だよな…

弾の火薬だってどうすればいいんだ?





それから一週間位した日


昼前に隣のおじいさんが僕の母親を訪ねて来たんだ。


このおじいさん、耳が遠いからいつも声が大きいんだ。


僕が二階の部屋にいても会話の殆どが聞こえる。

とは言ってもおじいさんの声ばかりだけど。


「…これから△△病院に入院するんですよ。

…ええ、1ヶ月は…婆さんに喚ばれる前に治しとこうと…

手術は今週末…はい。

花と木に水をお願いしたい。……ありがとう…じゃあすみませんがお願いします。

……はいはい。生きて帰りますからの。」


ふーんと思って聞いていた。


二階のカーテン越しに外を見る。僕の部屋からだとおじいさんの家の玄関が良く見えるんだ。



おじいさんは玄関前に置いてある植木鉢の右から二つ目を持ち上げて鍵を取り出して家に入って行った。




僕の中で何かが音をたてた。






「…思い出したぞ…」



あれは僕が幼稚園の頃だ。


庭でサッカーの練習をしていて隣のおじいさんの家の庭にボールが入っちゃったんだ。


母親に言ったら隣に連れて行かれた。


対応に出て来たおばあさんに事情を説明して謝ったんだ。


…まだおばあさんは元気だったな。


そしてボールを拾いに庭に入らせて貰ったんだ。


庭に回るとおじいさんが広縁に座って居て【アレ】の手入れをしてた。


頭を下げたらニコニコ笑って「賢い子だな」と言った。




そうだ。隣には【アレ】がある。


僕の脳裏にはくっきりとその時の情景が浮かんでいた。

これしかない。




僕は一階に下りてさり気なく母親に隣のおじいさんの事を聞いてみた。


「隣のおじいさん来てたみたいだね」

喉が渇いていた訳では無かったけど冷蔵庫を開ける。



「ええ。声が大きいから聞こえたのね」


「おじいさん何だって?」

出来るだけさり気なく麦茶を入れながら聴く。



「何だかね、胆嚢の手術をするんだって。1ヶ月位入院になるから菊とか花壇に水をあげて欲しいって。

ほら、一人暮らしだし息子さんは北海道だから」


「ふーん」

麦茶を飲みながら興味ない様なふりをしながら返事をする。



よし。


実行だ。


僕はツイてる。



部屋に戻ってしばらく隣の様子を見てた。



暫くしてタクシーが迎えに来た。

ボストンバックを持ったおじいさんを載せて走り去った。




…幼稚園のあの時から約十年。

まだあるのだろうか。


もし、あのままあったら…おじいさんが退院するまでの1ヶ月の間に計画を決行しなければならない。




夕方までベットで考えていたんだけど、意を決して起き上がった。


自転車に乗って駅前のショッピングモールに向かう。

モールの中のアウトドアの店に行ったんだ。


実行するには道具がいるんだ。

夏休みだからかキャンプ用品が特別にコーナーを増やしてセールをしていた。




短いナイフ(ナイフ以外にもハサミやスプーンやフォークとか付いてるやつ)と、頭に付ける懐中電灯と薄い皮でできた手袋を買った。


帰り道でまだ足りない道具を100均で買った。ヤスリとドライバーセットと木工用ボンド。



自転車を家のカーポートにしまう時、隣の家を見上げると今まで何百回も見たことがあったはずなのに、すごく大きく怖く見えた。


僕のしようとしてる事が解ってるんじゃないかと思ったんだ。


そんなはずは無いんだけどね。

帰ったらいつもの様に部屋に閉じこもる。


本当は下に下りて何でも良いから母親と話がしたかった。多分不安だったんだね。


でもいつもと違う事をしちゃいけないんだ。

今までの日々だって、決意した日だって変わってちゃいけないんだ。



近い将来、母親が涙声でテレビカメラか警官に『そんな素振りは全くありませんでした』って言わせる為にもね。


夕食に呼ばれるまでは準備をしてた。



夕食終えて風呂を済ませても中々時間は過ぎない。


夜9時に父親も帰ってきた。

下に下りて新聞を読む振りをしながら両親の話を聞いていた。


母親が父親に隣の事を話すはずだから再確認だ。

僕に話した以上の情報があるかもしれない。


期待したんだけど説明は同じだった。


水やりすると日に焼けてしまうという説明が加わっただけだった。




深夜一時になった。

零時には両親共に寝室に入った様だ。


今夜に限って両親の言い争いは無かった。


ドアを開けて耳を済ませ、暗い廊下から家の様子を伺う。


静かだ。




上下黒のジャージに着替える。

靴下を三枚重ねて履く。

足の大きさをごまかす為と足跡紋を残さない為だ。


靴は履かない。


冬用のニットの帽子を深く被り、髪の毛を中にしまい込む。

遺留品は残さない。


最後に指先に木工用ボンドを塗って乾かす。指紋が付かない様にするためだ。

手袋も準備したけど、細かい仕事の時には自由に動かないし触った感触が分からないから道具を落としたりすると困る。

指先に塗った白いボンドが乾いて透明になるまでじっと待つ。


推理小説やサスペンスドラマを読んだり見たりしてたのがこんな時に役立つとはね…。


1時半。始めるか。


ポケットの中の道具を確認して部屋を出る。足音を忍ばせて一階に下りる。

台所の勝手口の扉には油を差しておいたので音を立てずに開け閉めできる。


外へ出てしゃがんで暗闇をじっと見つめて目を暗闇に慣らす。

庭の椿の葉の形が薄らぼんやり見える様に待つ。

見上げればぽつぽつと星が出ている。


星を見上げるなんていつからしてないだろう…

星は平和そうに輝いてた。

僕が毎日苦しんでる日々でも空で瞬いていたんだろうな。


僕も消えたらあんな星みたいになるんだろうか…

日常では忘れ去られていても何か事がある度に ああ、あんな奴がいたな って思い出される様な。


さて始めよう。


歩くと靴下だけだから何だか変な感じだけど確かに音はしない。


塀を乗り越える。





植え込みの貝塚の木の根元に屈み込んで周りの様子を伺う。

虫の鳴く声が近くに、遠くからはトラックの走る音が聞こえる。


背中にじっとりと汗をかきはじめたのが解った。

単に蒸し暑いだけじゃない。

これからする事を考えたると歯の根がカチカチなる程に怖い。

…ダメだダメだ!


僕は自分に言い聞かせて大きく深呼吸した。


腰を屈めたままで走り、玄関に回り込む。

ここから中に入るまでは通りから門扉の隙間を通して見えるんだ。

素早く行動しなければ。分かってはいるけど焦れば焦るほど脚がもつれそうになったりする。


植木鉢を退かして鍵を取り出し玄関を開ける。


鍵はそのまま元の位置に戻す。

そっと扉を開けて玄関に入り内側から鍵をかけ直す。


家の中に入り込んだ。小さくため息をつく。


ポケットから更に靴下を出して履く。土や葉が家の中に落ちるのを防ぐ為。



外からの光で目の前に延びる廊下や部屋が青白く見える


ヘッドライトは点けない。


さて一体どこに置いてあるんだ?


廊下に沿って進む。

左側には台所と食卓があるのが見える。



右はトイレや風呂場…


左側の二つ目の部屋は和室だ。仏壇が見えた。

右の次の部屋の障子を開けると窓のレースのカーテン越しに僕の家が見えた。


ここだ。幼稚園の時に見たのはこの部屋の広縁だ。


八畳間で真ん中にテーブルが出ている。

【アレ】はどこだろう…


ロッカーがあるはずだ。

…なければいけないんだ。


和室奥のタンスの影に僕の背の高さと同じ位のスチールロッカーが見えた。


あった!

やはり僕が見たのは記憶間違いじゃなかったんだ



大きさとは不釣り合いな位の鎖と南京錠が付いている。

これに間違いない。


ポケットからヤスリを取り出す。南京錠を外さなければ…



…いや、待てよ…


学校の教室の後ろにあった掃除道具入れと良く似てる。

と言うことは…


ロッカーを手前に引き出す。

重い。

ヘッドライトの光の中に埃が舞うのが見える。


ロッカーの裏板は真ん中に桟があって上下に分かれている。

叩くと薄い感じのペコペコと音がする。



マイナスドライバーを裏板と桟の隙間に差し込んでこじるとバキバキと音を立てながら裏板は手前に外れた。




外れた裏板の隙間からヘッドライトで中を照らす。


しめた!埃だらけだ。何年も使ってないんだろう。

多分おじいさんが帰ってきても当分は気付かない。



隙間から手を入れると中には二つ有るようだ。


最初に指に触れたのを引き上げる。


ズシリと重く冷たい。


ヘッドライトの光を浴びて鈍く黒く光ってる。






武器ゲット。猟銃だよ。








その後、ロッカーを更に引き出して下の裏板も外してもう一丁と弾薬を取り出した。


思ってたより重い。


ロッカーは裏板を戻してから元の位置に押し込む。


近くの座布団をパタパタと叩いて埃を散らかしてから撤収する。


それから何度にも分けて自分の部屋に運び込んだ。


音が立てられないから思ったより時間が掛かった。


全部運び終わったのはもう5時近かった。


確認する間もなく、ベットの下に全て押し込むと泥の様に眠ったよ。




僕はこの日、散弾銃二丁と鳥撃ち用散弾とクレー用散弾の550発を手に入れたんだ。



遂に歯車は動き始めたんだ。


僕は戻れない所まで来たよ。




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