決意
それからは毎日計画を練った。
まずはネットで過去の日本だけじゃなく、世界のも含めて犯罪の顛末を片っ端から読んだ。
特に人質を捕った事件を詳しくね。
警察の動向や犯人が逮捕(射殺されたのも少なくはなかったけど)されるまでの経緯を。
残念な事に…と僕の場合言っていいのかな…人質をとった事件は殆ど全てが失敗してた。
その失敗が何故おこったのか知っておくのは無駄じゃない。
犯人側のミスは長期化・移動(脱出ね)・取り引きの時にほとんどが起こっているのが解った。
…僕らの場合は…逃げることはなくて、単に籠城する訳だから簡単なはずなんだけど…
なかなか計画らしきものを作るのは難しかった。
具体的に武器も仲間も決まらないから仮定だらけだからだ。
書いたノートを読み返しても、単なるやりたい事の羅列みたいで計画とも言えなかった。
特に、重要な武器に関して、種類も入手手順も相変わらず白紙だったのがネックだった。
例えば、ボウガンは上野で手に入れられると解ったけど、何丁も買えば怪しまれる…
それに、変に聞こえるかもしれないけど、ボウガンは地味なんだ。
見ただけで相手を恐怖に陥れる様な武器がベター。
しかもボウガンは一回撃つと二回目を撃つまで時間が掛かるんだ。
連続で攻撃が出来ないと何人もの人質をコントロールするのは難しい。
…それでも友田とは毎日連絡しあって計画を練るのは楽しかった。
何日かして友田からの紹介でメールがぼつぼつ来るようになった。
何か大きい事をしないか?とは言って誘ったけど、具体的に何をするとは伝えていない。
と言うより伝えられる程計画は決まっていなかったのだけれど。
仲間になる条件は、いじめられて、どん底まで突き落とされ、行く先も出口も解らず苦しんでる人達。
話の合いそうな遠くの府県の人も居たけど、行動を共にするには難しいだろうと除外した。
メールが来る度に今までの経験や現在の苦しみなどを聞き出して参加してくれそうな仲間を探したんだ。
明らかに協調性の取れそうにない人や面白半分で連絡してくる人は除外した。
そんな中で最初に決めたのはクーと名乗る女の子。
最初はつっけんどんな書き方だったけど、本気だって言うのが解る文だったんだ。
この子は裏切らないって僕には解ったんだ。
クーの話
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私はサラリーマン家庭に育った。
お父さんとお母さんとの三人の家族。ごく普通な家庭の一人っ子。
周りの友達と同じ公立の小学校から中学校に進んだ。中学2年までは普通な学生生活を送っていたわ。
勉強はまあ普通だったかな。
部活は陸上してた。
体が小さいから成績は今一つだったけど頑張ってたんだよ。
3年になった時、女の転校生がクラスにやってきたの。
その子は可愛くて明るく、人懐っこい感じの女の子。女の私が見ても可愛い子だなって思うくらい。
転校してきたばかりで友達も居なくて可哀相だと思ったから、友達と相談して私のグループに入れてあげた。周りで気遣ってみんなで仲良くなれる様にしてた。
…最初はみんなと打ち解けて楽しくやっていた。
頭も良く、優しくて素直なかわいい女の子。すぐに仲間も男子生徒も先生も彼女に骨抜きにされた。
…でも、それが転校生の計画だったの。
しばらくすると本性が見えてきたわ。
私のいたグループの何人かを唆して、私を除け者にする様に仕向けた。
女のイジメは陰湿よ。
嘘と事実と演技を巧みに織り交ぜて私を性悪女に仕立てあげた。
ありとあらゆる手段を使ってね。例えば…朝、学校に行くとその子が机に突っ伏して泣いてるのよ。
どうしたのかなって思って、声掛けたら『あんな酷いメールを送っておいて何を言っているの!?』って大声で言うのよ。
他の友達も集まるわよね?『どうしたの?』って。
そしたら、メールを見せるの。…下品で酷い内容のね。
勿論私はそんな事はしないわ。
する訳ないじゃない。
詳しく解らないんだけど、後から聞いたら、パソコンと知識があれば私のアドレスから送ったみたいにできるんだってね。
それとも、もしかしたら、私のアドレスとそっくりな…例えば小さなドットが入ってるとか…一見したら解らない様なアドレスを取ってたのかも。
そこまで確認しなかった…と言うかできなかったわ。
ほら、女の子って少なくとも表面上は周りに合わせようとするじゃない?
しかも相手は泣いてるし。
そういうシチュエーションだと信用しちゃう人もいるわよね。
最初のうちは私はこの目の前で泣いてる女の子が、私の居場所を潰しにきたのなんて解らなかった。
私は一部の友達から絶交を言い渡されて『酷い女』のレッテルを貼られた。
当然、当初の私たちのグループは分裂、崩壊した。
それでもまだ大半の友達は私に味方してくれてた。
そんな事が手を変え品を変えて繰り返しおこった。
そして決定的な事件が起きたの。
当時私が付き合ってた高校生の彼氏とその女が二人でデートしてるのを見たと言う噂が学校中に広まった。
しかも夜の公園。
いちゃついてたって噂もね。
私は彼氏を問い詰めた。
彼は違うって言ってくれると思ってた。
だけど否定するどころか…事実だって言った。
その子ともう付き合ってるからお前とは別れるとも。
翌日、放課後にその子に問い詰めたら…
『ヒマだから遊びで誘っただけ。もう寝ちゃったから、返そうか?』ってニヤニヤしながら言った。
私は彼氏とはキスしかしていなかった。
彼氏には未練は無かったけど、その言葉に私の中の何かがキレた。
公私共に私を潰そうとしてるんだ!そう感づいたから。
…気付いたら私、殴ってた。
めちゃくちゃ殴った。
でもね、あの娘、絶対に刃向かわないの。
最後には、血の滲んだ腫れた唇で笑いながら私に『あんたの人生終わり。負け犬』って言った。
私が、難癖をつけて暴力を振るったと学校に噂が一気に広がった。
眠れなくなったわ
続いて学校の先生から呼び出されて、援交してるらしいなと詰問された。勿論それも彼女の流したデマよ。
これも学校中で噂になった。
なんでだろうね、可愛い女の子が言う事はみんな信じちゃうのよね。
あっと言う間に私の周りの友達は一人も居なくなった。
「違う」と友達に言っても真顔で「キモイ」「不潔」「近寄らないで」
と詰られた。
先生にも露骨に無視される様になった。
学校にも行けなくなった。
学校からの連絡でその嘘の噂を聞いた親は『恥をかかせて!』と私をめちゃくちゃ殴った。
今まで殴られたりした事無かったのに…
私の言い分も聞いてくれなかった。
親にすら信用もされていない事がはっきりした。
親にも友達と思ってた人達にも裏切られ、苛められて追い詰められた。
家にも学校にも居場所がなくなった。
その後、三流私立高校に受かりはしたけど学校には殆ど行かず、悪い友達を作ってグレた。
悪い友達なら逆に裏切らないと思った。
どちらかと言えば真面目に過ごしてきた私には、逆の悪い生き方はストレスの発散になると思った。
…一通り悪い事をしてみたけど、心の中がすっきりした事は一度もなかった。
逆にツラい気持ちが増えた気がした。
私の探している事じゃなかったんだ。
その頃から死にたいと思いはじめた。…もしかしたらその気持ちは虚しさと良心の欠片だったのかも。
まずは『ストレス性不眠症』の症例を本屋の医療コーナーで立ち読みして覚えた。
親の財布からお金盗んで、タウンページで探した心療内科と精神科を片っ端から回った。
各病院や医院で処方された睡眠薬や安定剤を貯めてオーバードーズを始めた。
知ってる?病院によっては簡単な問診だけで3ヶ月分の薬が出るんだよ。
薬は見つからない様に小分けにして隠したわ。
リスカも繰り返した。
リスカは生きるためのものと言うけどね。もしかしたら死ねるかもって思ってた。その『もしかしたら』に賭けてたかも。
悪い友達もそういう私を見て自然に去っていった。
まぁそうよね。
いつも薬でフラフラして手首に包帯巻いた友達なんていらないよね。
で、遂に一人になっちゃった。
引きこもってオーバードーズとリスカを続けた。
何度も失敗して、その内何度かは親に見つかって、病院にかつぎ込まれて入院させられたりした。
短期薬物更生施設にも入れられたりもしたわ。
そんな時気付いた。
親は一回も泣かなかったって事に。
淡々と書類にサインして入院や入所の手続きをした。
解った。親の厄介者なんだ私。
そんな時、聞いたの。
あの女の噂。
更に可愛く綺麗になって、レベルの高い高校に通っていて男女問わず人気者らしい。
ギャル系雑誌に載ってるって。
私は知ってる。
その人気の影には私以外にも沢山踏みにじられた人がいるって事。
そんな人達を踏みつけて、のし上がったんだ。
殺してやりたいと思った。
…でもできなかった。
多分、相手は私の事すら覚えていないだろう。
誰も踏みつけた階段なんか見ていないし覚えていないものだから。
…オーバードーズはどうにか止めた。…薬の在庫が無くなったから。
心のモヤモヤはどうしても晴れなかった。
晴れるどころか澱の様にどんよりと溜まり心に詰まった。
苦しかった。
何かに縋りたい
何かしなきゃ
何もできない
死ぬことすらできない
そんな日、
たまたま見つけたイジメ被害者サイトに書き込みをしていたら声を掛けられたの。
『大きな事をしてみないか?』って。
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《あなた達が何をするか解らないけど、あたしにも何かさせてよ。
人に会うのも怖いしイヤだけど、本気で大きい事やって、自分で自分の最後にピリオド打てるなら参加させて欲しい。
あたし仲間は絶対裏切らないし、頑張るから。》
僕宛てのメールにはそう書いてあった。
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次に決めたのはヨシ
高校入学後、苛められて不登校。
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小学校の低学年の頃はスポーツはしてなかったんだ。
サバイバルゲームしたり、戦争や警察の特殊部隊の映画を好んで観てる子供だった。
ドルフラングレンとかスティーウ゛ンセガールとか好きでさ。
うちは母子家庭で独りっ子。母ちゃんは一日中仕事で家にいなかったからね、割に自由に過ごしてたんだ。
母ちゃんはそんな俺を見て、危機を感じたのか、子供スポーツクラブに入れた。
最初は抵抗した。
面倒だったしさ。でも映画で主人公が体力づくりをしてるシーンを見たのを思い出してさ。その日から俺も映画の主人公だよ(笑)。入った当時はひ弱な体だったが数年で逞しくなり、体を動かすのが楽しくなった。
背もぐんぐん伸びて中学時代に始めたバスケでは全国大会にも行った。
体格も中学生には思えない程、良く、運動神経が発達していたからスポーツ特待生でスポーツに力を入れている私立高校に入ったんだ。
と言うか頭で入れる学校は無かった…と思う。
しかも特待生だから高い入学金も免除。裕福じゃないうちにはちょうど良かったんだよ。
鳴り物入りで入ったバスケ部は都内でもレベルが高くてさ、三年終わりにレギュラーに居たら大学への推薦も取れるって言われてたんだ。
…けどさ、内容最悪。
中学時代にちょっとだけ有名だった俺はレギュラー入りを阻止したい上級生や同級生から徹底的な嫌がらせを受けたんだよ。
独りだけ別メニューで歩くのもできなくなる位キツい練習や、レギュラーテスト前にはシューズの紛失。
貧乏なうちじゃすぐ買い換える事も出来ないしさ。
みんなから笑われながら通学用の普通の靴でやったよ。
靴は裂けるわ爪を引っ掛けて怪我はするわ散々さ。
チームの連中からは失笑されてコーチには真面目にやれって殴られた。
練習試合では俺は肘鉄や蹴りを入れられてもホイッスルは鳴らなかった。
自分がボールを取りに行くとすぐ反則のホイッスルが鳴り響く。
同じチームの仲間からは嫌われ、部室で吊し上げられたりした。
新人戦には出場させて貰えなかったのに、『お前のせいで負けた』『場を乱した責任はお前にある』ってみんなから小突かれた。
その後、合宿に行けば三日間飯抜き。
廊下に裸で正座。ひたすら反省文を書けって言われたよ。正座は膝に悪いから絶対しちゃいけないってコーチ自身が言ってたのによ。膝は炎症おこすし、脹ら脛は圧迫されて痙攣するし。
立てなくなったらみんなで『根性なし』『疫病神』って殴られる蹴られる…。
映画で見たスパイへのリンチみたいだったぜ。
映画の主人公なら反撃するんだろうけどさ。
…実際は出来ねぇよな。
終いにはボールに触れる事も許されなくなってよ、最後まで体育館の端でスクワットだけという日々になった。
コーチの先生も見て見ぬ振り。
後から知ったんだけどさ、そのコーチの甥ってのが同級生に居たんだってよ。
そいつ実力も無いのにキャプテン候補でさ。
目障りな俺を辞めさせたかったみたいだな。
しかも担任がコーチの後輩でさ、授業もまともに受けさせて貰えない。
ほら、スポーツ推薦で特待生だったから入学金免除、授業料も半額(それでも高いんだぜ)だったんだよ。担任が授業中に言うんだよ『お前は授業料半額なんだから内容も半分でいいだろ?』『頭の中身も半分か?』『バスケやらないならウドの大木』とかさ。
最初は笑って聞いてたけどあまりにしつこくてさ…。
クラスの連中も調子に乗って俺の事をバカにし始めたんだよ。
『ハーフ』『ウド』ってあだ名付けられたんだぜ(笑)
頭に来てさ、担任の胸ぐら掴んでしつこいって言ってやったんだ。
…失敗だったなって思った。親子で呼び出されて散々説教されてさ、クラスの連中からもイジメが始まってな。
部活のイビリも更に酷くなった。
雨の中を一人だけランニングさせられて高熱を出して寝込んだ。昼間、うんうん唸ってたら担任から電話あってさ『バスケは君に向いてないから辞めてはどうか?なんなら学校も』と言われた。
学校に行くことが嫌になった。
死のうとかは思わなかったけど、俺からバスケ抜いたら何にも残らねぇしな。頭悪いし(笑)。
消えちまうならいいかななんて事は考えたよ。
…あ、それって死ぬって事か(笑)。
学校休んでたから時間はあるし。で、家でパソコン眺めてたんだ。
最初は他の俺でも行けそうな高校無いかなって探してたんだけど、無いんだよな。
…いつの間にかどっかのサイトで俺の経験をどこの誰とも解らない知らない奴に書き込みしてたんだよ。
誰かに聞いて欲しかったのかもな。
そした読んでくれた中の一人からこのサイトへ行ってみなよって言われてさ。
それが、ガモ達の居たサイトだったって訳さ。
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《大きい事やるなら俺も参加させて欲しい。
電気や武器には詳しいよ。子供の頃には軍事オタとかテロリストって呼ばれてた位だから。勿論今まで誰も傷つけた事はないけどね。
当時、弱かった自分が嫌で強い武器に憧れたと言うのが近いかな。
どうせなら国を動かす位の事をしようぜ。
消えるなら後悔しない事して消えよう》
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そして まーく
県立高校二年。 一年から苛められ続けてる。
背が低いのが原因らしい。
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身長は155位かな。
顔が小さくて痩せてるから見た目はそんなに低くは見えないかもね。
親は某医大の助教授。
兄貴は医学部の学生。
母親は体が弱く、入退院を繰り返していた。
派遣会社からお手伝いさんが毎日来てくれて掃除や洗濯はしてくれた。
特に裕福だと改めて思った事はないけど貧乏もした経験は無い。
僕も医者になれって言われてた。
私学医大の付属高校に入る予定だったけど入試の朝、母親が倒れて試験が受けられなかった。仕方なく県立高校に入った。トップクラスにいれば旧帝大系医学部に入るのは困難じゃないというレベルの学校だね。
学校なんかどこでもいいやって思ってた。
…間違いだったよ。今なら言える。
子供の時からスポーツはからきしダメ。スポーツテストでも平均点まで出せるのは殆どない。
成績表はいつも体育だけ悪かった。
それについて親は何にも言わなかった。
音楽や体育や美術は医大に入るのには必要ないって。
でも僕は美術は好きだったんだよ。
ルノアールとかモネのぼんやりした空気感も、キリッとしたクリムトとか、ダヴィンチのデッサンや緻密な想像図や設計図も…絵画はどれも良かった。
題材に引き込まれたり、書いた時の様子を想像したり、作者の境遇を調べたり、書いた時の心境を想像したり…。
一枚の絵画で色々な楽しみ方ができるんだ。
奥が深いんだよ。
医者の家系だからか、背が低いというコンプレックスがあるからか解らないけど、昔から人体には興味が強くあったんだ。
人体はある意味、最高の芸術だと思う。
例えば、一度心臓血管を見て欲しい。何故あんなに精密で美しいラインで網の目に広がる事ができたんだろう。
直線が一切無い精密機械って見たことあるかい?
それをみんな持ってるんだよ。すごいよね。
しかも不必要なものは無いんだよ。僕はそんな人体芸術をどんな思いと過程で作り出したのか考える時、創造主に同化したいと思うんだ。
正に神だ。
放課後の誰もいない図書館で美術誌を読むか、解剖学のカラーアトラスを読むのが唯一の楽しみだったんだ。
…きっかけは解剖学のカラーアトラスを読んでるのを同級生に見られた事。
僕もね、例えば誰も居ない図書館に独りで電車の設計図でも見ながら恍惚な表情してたらびっくりすると思う。でも、対象が『電車』と言う無機質な機械だから『ああ好きなんだな』と思うだけだ。
でも、只でさえ何か刺激的な事はないかと嗅覚を研ぎ澄ませている年代の人には『人体解剖学』
は理解出来なかった…いや、理解よりもゴシップとして扱う方に価値を見いだしたんだと思う。
それから虐められる様になったんだ。
『気持ち悪い趣味のあるコビト』
と言うレッテルを貼られたんだ。
チビ、こびと、虫、ジキル博士、JS、ポケモン…ありとあらゆるあだ名を付けられ、からかわれたんだ。
低俗な連中に彼らの低俗なあだ名で呼ばれるのは苦にならない。
でも、暴力や物に対する悪戯には困ったよ。
ケンカなんか、しようとも思った事もないから殴られても蹴られても耐えるだけ。
所詮刃向かっても勝てるはずないし。
反応しない相手と言うのは苛める側から見ると『面白くないから止める』か『もっとやってやる』のどちらかの選択になる。僕の場合は後者になった。
暴力はそこそこに徹底的な精神的なイジメに発展した。
学校の掲示板に世間で猟奇殺人がある度に僕の名前を書き込んだ新聞の切り抜きが貼られた。
パソコンで打ち出した無修正のヌード画像を参考書に糊付けされた。
無理やり飲まされたお茶に下剤が仕込んであってトイレに行ったけど個室の鍵が全て掛かっていた。
女子トイレは開いてるよってみんなにニヤニヤしながら言われた。
虫が服着てるのはおかしいと裸にされて体育館準備室に閉じ込められたりもした。
2年に進級してクラスの再編もあったが、また違う連中からイジメが始まった。
学校中に僕の噂が広まってる以上、これから先は悪化こそすれ良くはならないのは解る。
一度広まった情報を無かった事にするのは無理だ。
けど、このまま置いておけば悪化の一途だ…。
エリートの父親には言えない。体の弱い母親にも。将来有望な兄貴にも。
自分の事は自分で始末つけなきゃいけない。
僕は死ぬ事を選んだ。
幸いな事に薬に関しては多少知識はある。
不眠症を患った事のある父親はいつも部屋にかなりの薬を持ってるのは知っていた。
安定剤のデパス、リーゼ、エチセダンなら豊富にある。睡眠薬ならブロバリン、アムネゾン、マイスリー、パシフラミン。麻薬性鎮痛剤ならドーフル、オキシコンチン、オプソ…これは癌で亡くなったばあちゃんが末期に使ってた残り。筋弛緩剤もアフロゾン、ミオナール…。まだまだある。
他の処方薬だって…偽造した処方箋があれば買える。
父親の部屋に行けば既に判をついた処方箋があるのは知っていた。
母親が急に薬が必要な時に父親が居なくても薬品名だけ書いて薬局に行けばいいんだ。
過去何回かお使いで調整薬局に行った事がある。
飲めば死ねる。
麻薬性鎮痛剤と大量の睡眠薬か安定剤なら逝ける。
…逝けるんだけど…ただ逝くのは何か違う気がしたんだよ。
バカにされ酷くヤられたままじゃいけない気がする。
何もせずに死んで、あいつ等が良心の呵責にさい悩まされる訳がない。
いっそ何人か道連れに…
もしくは何か形として…いや消えない記憶としてあいつ等の脳に一生涯残ってやろうか…
僕は毎日そう考えて過ごしたんだ。
何かいい手だてはないかと探してたイジメ被害者サイトで声を掛けられたんだよ。
『僕らと何か大きな事をやらないか』ってさ。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
《毎日苛められていつも死にたいと思ってるよ。自殺をするのは容易だけど、無駄死にはしたくないんだ。
この世から少しでもイジメが減らせるなら手伝いたい。それから逝っても遅くないよね》
====================================
これで5人になったんだ。
最低限の人数は確保できた。
5人いたら何とか具体的な計画が立てられる。
でも僕はもう一人仲間にしたい人がいたんだ。
倉井さんだよ。
僕は既に細くなってしまっている中学時代のツテを使う事にしたんだ。
コージ。
中学時代の僕の友人。二枚目で格好良くて気さくでちょっとグレてた。
当時、学校にはコージのファンクラブまで存在したんだよ。
めちゃくちゃモテてさ。でも特定の彼女は居なかった。いつも違う女の子連れて歩いてた。
そんなコージには女の子の友達が沢山いる。
中には倉井さんを知ってる人がいるかもしれない。
頼む…コージは今の僕の状況は知らないでいてくれ。
そう思いながら携帯をかけた。
せめてコージの中では僕もまだ格好良くて人気者でいたいと思ったんだよ。
『もしもし?』
久しぶりに聞くコージの声。
『久しぶり、清だよ』
『…あ、おー久しぶりだな』
妙に慌てた様子
…間違いない。コージは僕の現状を知ってる。
挨拶がてら少し話をしたけどやはり反応がおかしい。
要件だけ伝える
「あのさ、A高校の倉井って女の子の連絡先解らないかな?多分中学は地元の○○中学だと思うんだけど」
例のサイトに書いてあったんだ。
『A高一年の倉井?…あ、ああ解ったらメールで送るよ。じゃあな』
あっさりと電話は切れた。
コージは倉井がイジメられてるのも知ってる。
恐らく裏ネット見てるんだろうな。他校でも僕は有名人なんだな…
コージから連絡が来るかどうかは解らなかったけど、どうしようもない。
倉井さんに仲間になって欲しいと思ったのは恐らく僕と同じ位酷く遣られてるから。
…僕と同じ目をしてたから。
その日の夜、4人の仲間にメールを送った。
大きい事して最後には消えるよ。
…消えそびれたら逮捕される。
それでもいいね?って。
4人ともすぐ、『構わない』『関係ない』と返事が帰ってきて嬉しかった。