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僕らの革命 【改訂版】  作者: 片山 碧
44/45

病院




音が聞こえてた


時折、音が聞こえなくなってちょっとホッとしたりした


そしてまた暗く深い闇に落ちた…

闇の中は暖かく、どこにも痛みも不安もない




胸が痛い…上手く息が吸えない。

焼け付く様な感じがする。


プールでメドレーの練習してる時みたいだ。


また音が聴こえた



電子音がうるさい。暗くて暖かな場所に戻れないんだ



切ってくれよ目覚まし



「…け……もう…」


「…あけ…ガモウさん…」


「目を開けて!ガモウさん!」


煩い…腹がたった


「なに?」

と言おうとして喉が痛いのに気付いた


何か喉に入ってる


電子音と人の声の他にプシューと空気の抜ける音もする



光があった



光あれ…そう言ったのは誰だったっけ


まーくなら知ってるよな


まーく?


ヨシ?


クー?


友田?



僕はそこで覚醒したんだ。


目の前にはチューブと点滴。


チラつく蛍光灯


喉には太いチューブ


腕には点滴の針


鼻にもチューブ

更にプラスチックのマスク


スリッパの足音


マスクをした看護師が走り回る


「…はい。今、気が付きました。はい。お願いします」


誰かがどこかに話してる声


「見える?解る?病院よ」


最初に見えた看護師に言われた


そう 僕は撃たれたんだ。

後から聞いて解った話なんだけどね

気付いたのは撃たれた日から2週間後だったんだよ。








警察は僕らが新宿御苑に入ったのを突き止めてたんだ。


僕の持ってたデパートの紙バックが歩道の工事してた、あのトラックの上に残ってたんだ。


僕が置き忘れてたんだね。

今思えば左手が使えないからバックを置いて塀を乗り越えたんだ。


紙バックを見つけた工事現場の作業員がパトロール中の警官に忘れものだと伝えたらしい。



警察は僕らがデパートに行ってた事を聞き込みで知って捜索してたんだ。


デパート内のジョギングウェアの女の子と緑色のウインドブレーカーはデパートでは目立つよな。


救急車を奪った犯人の服装がそのバックに入ってたって訳だ。


トラックの上の紙バック+新宿御苑の塀=乗り越えた


単純だよね


新宿御苑は周りをぐるりと警察に取り囲まれて、苑内には暗視スコープを付けた特殊隊員が展開してたんだ。


あの時、乾杯で僕が高くコーラのペットボトルを上げた時、警察は火炎瓶を振り上げたと思ったらしい。


向かいにいた女のまーくに火炎瓶を振り下ろそうとしてると判断され狙撃されたんだそうだ。







弾は背中側から肋骨を砕いて右肺の一部を削いで貫通。出た弾はまーくの横を掠めて飛んだらしいよ。


まーくに当たらなくて良かったよ。


そのまま特殊隊員に4人全員身柄を確保された。


僕は救急車で近くの大学病院に運ばれて緊急手術を受けたらしい。

太い血管を傷つけたみたいで一時は危篤まで行ったらしい。

全く記憶が無いから後から聞いた話ばかりなんだけど。








僕は入院してる間、世間とは隔離された。

携帯、テレビは勿論、ラジオ、新聞、雑誌もね。


その間に今回の件が元で色々な人が動き、悩み、決断し、議論し、泣き… 様々あったらしい。




僕は日付も解らない日々が続いたよ。


明るくなって一日が始まり、また暗くなって一日が終わる。





その間に胸と背中の傷の治療がある。

消毒だけでも決して楽じゃない。

うつ伏せにはなれないから横向きになるんだけど、体を捻ろうとすると胸部から背中に叫びたくなる位の痛みがはしる。

歯を食いしばって耐える。

「早く横にして」看護師に指示する医者は、僕が痛がろうが何だろうが関係ない。


終わって医者が病室を出る時にはシーツまで冷や汗でぐっしょりと濡れる位だ。

夕方まではシーツは替えて貰えないからそれまでは冷たくても気持ち悪くても我慢するしかない。


医者も看護師も容態の事以外には口もきかない。




そんなある日、ネクタイ姿の男が来たんだ。

看護師がドアを開けて制服警官が様子を見た後で(病室前にいる見張りの警官だよ)、ツカツカとベット脇まで来たんだ。


その男を見てすぐ解ったよ



僕は薄いプラスチックの酸素マスクを外して言った。


「…吉岡さんですね?」


「ああ。よく解ったな。」


電話の声のままだ。

見た目は普通に格好いいおじさんだ。

口元だけは笑ってたけど目は冷たく光って警察関係者だってすぐ解ったよ。


「具合どうだ?」


「…良くはないですね。死ななかっただけ良かったと思ってますよ。」


吉岡はニヤリと笑った。

ざまぁ見ろといったところか。


「…しばらくしたら正式に逮捕になる。

君は未成年だから少年法で裁かれる。

家裁に送致されるけど重犯罪だから間違いなく逆送で検察に返ってくる。…少年院だな。」


「まだ逮捕前なのに、なんでそんな話をするんですか?」


「これから先の話をしといてやろうと思ってな。」


「…」


「…本当は蒲生清ってのがどんな奴なのか会っておきたかったんだ。」


「なぜです?」


「日本を変えてやろうってした奴の顔見といても損じゃないだろ?」

そう言って目を細くした。


「…で見てどうです?」


「見た感じ、俺が思ってたより幼かったな。カリスマのあるタイプじゃないし、まぁ普通の高校生だな。

…だがお前がした事は普通じゃない。

世間は大騒ぎだ。


法律まで変わりそうだ。

あちこちでお前の模倣犯まで出てる始末だ。


それからな、少年法で言う、付き添い人…弁護士だな…が何人も手を挙げてるらしい。

たいしたもんだよ 」



「他の仲間はどうなりましたか?」


「…言えるわけないだろう。」


…当たり前か。


「お前はこれから色んな事を聞く事になる。

…まぁ何があっても自業自得だと思って耐えるんだな。

じゃあな、大事にな。」



吉岡はそう言って病室を出て行った。

吉岡のニヤリと笑った顔がアリスのチェシャ猫みたいに出て行った病室ドアの前にいつまでも見えた。


勝ったと言う所を見せたかったのか?


「僕らは警察に負けたわけじゃない」


そう呟いたけどチェシャ猫には届かない


自業自得… いい意味じゃ使わないよな。


大体、わざわざ言われなくても解ってるよ。

そう思った。




…まだ僕はこの時には病院の外で何が起こってたか知らなかったんだよ。




気が付いて10日して鼻に入ってた細いチューブが取れた。

まだ大きく息はできない。


この頃に初めて気付いたんだけど左腕は肩より上には挙がらなかった。

医者に聞いても「挙がらなくなるかもな」とあっさり言っただけだった。


チューブが外れるとリハビリと言う拷問が始まった。


挙がらなくなった左腕を挙げるのも痛いけど右腕を挙げようとすると右の胸と背中に激痛がはしる。

リハビリの担当は無口で乱暴だった。


早く治りたかった。

治さないと地獄は続く。




…治った先に何が待っているか解りもしないでそんな事考えてた。




リハビリがキツかった日や高熱が出た時はいつも不思議と仲間の夢をみたよ。


クーが夢に出てくると嬉しかった。





腕を動かすのも呼吸もある程度できるようになった頃、二人の刑事と三人の警官が来て正式に逮捕になった。




逮捕された日、窓の外の木は黄色く染まってた。

…撃たれてから2ヶ月近く経ってたよ。




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