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僕らの革命 【改訂版】  作者: 片山 碧
39/45

都内 7



「おじさん停めて下さい。ここで降ります。」


「ここから?大丈夫か?」

バックミラーに映ったおじさんの眉間にはタテに深いシワが寄って厳しい目をしてた。

でも、すぐにふっと、優しい目になると車を静かに路肩に寄せて停めた。


「…ま、気をつけて行けよ

…一段落したらさっきの店に顔出せ」


おじさんは別れ際にそう言って手を軽く挙げてからドアを閉めた。


おじさんは僕の意見を尊重してくれたんだと思う。


僕らはおじさんのタクシーが先の角を曲がって見えなくなるまで見てた。


「ガモくん行こっ」

クーに手を引かれて歩き始めた。



降ろしてもらったのは皇居の二重橋の近くの路地裏だった。


この辺りには至る所に検問がある。


おじさんは以前東京で見たことのある検問ポイントは避けて運転してくれてたけど、今まで無かった場所でも検問してるとタクシー無線で連絡があったのが聞こえたんだ。


できたら新宿周辺まで乗せてもらいたかったんだけど、幹線には非常線が張ってあるだろう。


タクシーに乗った状態で検問に引っかかると逃げようがない。


それにおじさんに迷惑を掛けることになってしまう。



歩いても走っても、この格好でなら怪しまれないだろう。


ここから皇居周辺を走って入り込めそうな駅を探して、電車に乗るんだ。


駅がダメならバスでもいい。

サングラスも掛けてるから顔もすぐには解らないだろう。

でも堂々と駅に向かおう…とは考えなかった。

それはタクシーの中でワンセグのテレビに映った駅の画面には警官が執拗なまでに若い人を調べてるのを見ちゃったから。


あの細かさならサングラス外せ位は言われる。すぐバレてしまう。


僕たちは寄り添う様に歩きながら皇居外苑通りに出た。


信号待ちをして驚いた。

平日だというのに向かいの堀に沿った道には沢山のジョガーが走り、僕らの周りにもこれから走ろうという人が信号待ちで沢山集まっていた。


…これなら解らないだろう。


ふと『木を隠すなら森に隠せ』という言葉を思い出したよ。



僕たちは取り敢えず周りの人達と一緒に走る事にしたんだ。


走り始めてすぐにいいスピードキーパーを見つけた。

ペースの遅いおじさんだ。抜かさない様に、後ろに付いて目立たないように…歩くのより少しだけ早いだけだ。

それでも、いつもタバコ吸ってるクーが心配だった。


フル装備してるのにゆっくり走って咳き込んでたりしたらおかしいしね。


正直に言うと僕はこの周囲に駅があるのは知ってたけど、どんな駅があるのかまでは知らなかったんだ。

だから軽く一周して警備が手薄な駅を見つけて乗り込もうと考えたんだ。


走り出してまた驚いた。

警官が沿道の所々に立ってるんだよ。


…今は解るよ。


近くで学校占拠したり羽田を混乱させたテロリストが徘徊してる可能性があるんだから警察は皇居を護らなきゃね。



警官の姿が見えると目の前を走るおじさんの陰に隠れたり、集団で走ってる人達の一番後ろについて走ったりしたよ。



速度は遅かったけどお陰で地下鉄入口付近の様子はゆっくり観察できた。


青い東京メトロの文字を見ると入口付近の警備を注意して観察したんだ。


最初が大手町、竹橋、九段下…

大体どの駅も警官4人位で片っ端から若い年齢の子を職務質問している。



結論から言うと今見てきた地下鉄駅から電車に乗るのは無理だ。


思ったよりも警備が厳重だったんだ。



その時は今から思えば…自分の事ながら酷いんだけど、一瞬ジョガーの格好になった事と外苑で降りた事に苛立ちを感じていた。


後で解ったんだけど、僕らが降りたのはある意味最悪な場所だったんだ。

警視庁、検察庁、皇宮警察、機動隊本部…みんな周りにあるんだからね。

でも逆にあまりにも中心だったから、むしろあの警備でも手薄だったのかもしれない。


道は九段坂下を堀に沿って左に曲がる。


千鳥ヶ淵…田安門…三宅坂…この辺りにはメトロは無い。警察は多い。


道路表示を見てドキリとした。『桜田門』の文字が見えたんだ。

警視庁があるのは知っていた。警察の合同庁舎の表示もあった。



有り得ない…テロリストがリュックに火炎瓶入れて警視庁前とか…


職務質問を受けたらそれで終わりだ。 かと言ってUターンすればジョガーの流れ逆行することになって目立ってしまう。


…進むしかない…困った。





桜田門が近づいてきた時、ホイッスルの音が反対側の鋪道で聞こえたんだ。


ちょうど地下鉄桜田門駅入口から数十メートルの所だった。


反対側を逆方向に走る男の姿と追いかける警官数人が目に入った。


パトカーがサイレンを鳴らしながら何台も集まって来た。

桜田門駅の入口前にいた警官も僕らのすぐ横を走ってその男を追いかけて行った。


その男が何か犯罪を犯していたのか、警官の姿を見て逃げ出しただけなのか知らないけど、僕らにとってはこれ以上にラッキーな事はない。


クーと頷き合って地下鉄桜田門駅に入って階段を走って下りたよ。


路線図を見て切符を買う。

これなら一回乗り換えたら新宿に着ける


ホームに停車してた有楽町線に飛び乗った。

市ヶ谷で都営新宿線に乗り替えたらいいんだ。



扉がコンプレッサーの音と共に閉まった時、心底ホッとしたよ。


動き始めてクーと目を合わせて笑った。

なにせテロリストが厳戒体制の中、桜田門から地下鉄に乗ったんだからね。


電車は空いていた。

二人は空いてるシートに座った。

疲れてたんだよ二人とも。


座ってからクーの手を握りしめた。

握り返してくれた手は冷たかったよ。




市ヶ谷で降りて都営新宿線に乗り換える為に駅構内を移動する。


都営新宿線のりばと書いてある表示に従って進む。


二人のジョギングシューズが硬い床にキュッキュッと響く。


角を曲がって前から駅員と警官2人が歩いてきた。


僕らは何気ない様子でその三人とすれ違う。

息を詰めた。心臓がバクバクした。


すれ違い、三人の固い革靴の足音が遠ざかる。


はぁ…

クーが長いため息を吐いた。


その時、





「そこの二人、ちょっと待って」



後ろから声が聞こえたんだ。

警官だ!気づかれたっ



「クー走れっ!」




僕たちは走った。


後ろからホイッスルの音と止まりなさいと言う声が聞こえた。

前を歩く人たちが驚いて道を空ける。


地上に上がるとか右に行くとか左に行くとか全然考えなかった。

ただひたすらクーの手を握ったまま走ったよ。


逃げなくちゃ! それしか頭に無かったんだ



自動改札を飛び越えた気がする。

何人かに当たった気がする。

後ろから叫び声や怒号が聞こえた気がする…



気づいたらホームに居て目の前に電車がいた。

発車のチャイムが鳴っている

飛び乗るしかない。


僕らがのると同時に扉が閉まり電車は動き始めた。


どこ行きの何線なのか解らない。

ただ市ヶ谷から離れたかった。



電車が動き始めて考えた。

間違いなく次の駅で電車は停められる。


車内検索があって僕らは見つかる…


地下鉄は駅の間隔が狭い。

すぐ次の駅に着いてしまう。



僕は躊躇しないでドアの上の透明なアクリル板を握り拳で叩き割った。


音に驚いて乗り合わせた乗客がこっちを見る。


「何やってんだお前!?」

サラリーマン風の男がこっちに向かってきた


無視してクーに小声で言う

「取っ手に掴まって」



中にある赤いコックを捻る。


『非常用ドアコック 非常時のみ使用のこと 線路に降りる際には線路脇の電源用線に触れぬこと』

小さな赤い文字で書いてあるのが目に入ったんだ。

ブザーが鳴り響いて急ブレーキが掛かり、電車が前に傾ぐ。

ドアが半分開き前の戸袋に入る。ドアが開くと電車のブレーキ音がつんざく様に更に大きく聞こえる。


こっちに向かってたサラリーマンは転んで前へ滑っていく


車内に叫び声が上がった。



電車は止まった


僕は目の前に四角くぽっかりと開いた黒い空間に飛び出した。






飛び降りた時、右の足首を捻ったみたいだ。

鈍い嫌な痛みが腰の辺りまで走る


でもそんな事に構ってはいられない

無理して立ち上がる


振り返ると僕の顔より高い位置に電車の床面があった。


明るい車内にクーが見えた


とんだシェークスピアだ


「クー!飛び下りろっ」


僕は飛び降りたクーを抱き止めた。

受け止めた瞬間やはり下半身にも動かない左肩にも激痛が走った。


クーを下ろすとリュックから火炎瓶を取り出した。

車両の下に叩きつける


パッと明るい炎と暗い車両の下より黒い煙りが吹き上がる。



パチパチと何かショートする様な音がする。

大きな火災を起こす気は無かったんだ。

大きな火災をおこすなら車内のシート目掛けて投げた方が効果的だろう。

車両の下なら燃える物は少ないはずだ。



坑道の側壁に付いてる貧相な蛍光灯に照らされて長い車両が壁の様に見える。


前に行くか、逆手を取って市ヶ谷の方にもどるか…


…ほらシェークスピアだ


ピンチだと言うのは解ってたけど何だか冷静だったんだよ



 






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