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僕らの革命 【改訂版】  作者: 片山 碧
36/45

都内 4

ヨシに行ってしばらくゆっくりとパトカーを走らせてもらった。


僕はその間に制服のシャツを虹川から貰ったアロハに着替える。

腕が動かないから大きなサイズのアロハは着やすかった。



しばらく進むと側壁に小さく、明るい緑色の非常出口の表示が見えた。

表示板のすぐ下に、灰色の金属の縁に、少し変色して錆の浮いた格子扉が嵌っている。



ヨシはパトカーを静かにその前に停めた。



まーくは、学校から持ってきた誰かの紐が長くてゾロッとした流行りのデザインのリュックを背負った。

金具の所には沢山のキーホルダー。本体にはカンバッヂが幾つも付いている。


どう見ても最近の女の子だ。

リュックの中身は残りの火炎瓶や武器だろう。



…まーくもリュックも見た目は可愛いが中味は怖い。


僕に「使わず済むといいな」と言って小さな火炎瓶を渡してくれた。


バスのドアを開ける。


「じゃあ、ガモ、クー、また後で。…僕はジンジャーエールにしようかな」


そう言うとまーくはバスを降りた。


機敏に走って灰色の非常出口の扉まで行く。


扉を開けるプラスチックカバーを外しているのが見える。



僕は虹川に言って、ズボンからベルトを抜きとった。


「おいおい、ヤバいって。それ持っていかれたら立てないよ。ズボン下がってトランクス姿になっちまうよ」


そう言いながらも虹川は楽しそうだった。


ベルトを持ってきてくれとヨシに言われてたんだ。


降りてパトカーへ行く。

ヨシは運転席に僕を座らせた。

「ガモ、一度しか言わないから良く聞いて覚えろ。


…記憶力はいいんだろ?


このパトカーはフロアミッションだ。お前には運転できない。

ただ、ニュートラルにしてあるから、後ろから押して貰えば動く。

エンジンも掛けてあるからブレーキもハンドルも利く。

簡単に言えば台車だ。押して貰って進む。後は……」


ヨシは丁寧に説明してくれた。


「…じゃ、そういう事で。アディオス・アミーゴ!」ヨシはパトカーから降りると走ってバスに行った。

虹川に説明してるんだろう。


すぐ降りてきて、まーくの待ってる非常出口に走って行った。


何だよアディオス・アミーゴって


…アミーゴは友達って意味だよな…。

…アディオスはないだろ…永遠にさよならって…


…チャオ アミーゴ!



ヨシがどこかで仕入れて来た言葉なんだろう。

きっとどこかで使ってやろうと思ってたんだ。


僕は一人でクスリと笑った。




ドンッという衝撃が来た。

プラスチックのバンパーが凹んでベコッと音を立てた。

バックミラーにはバスの灰色のボディと白いライン。真ん中の金色五角形の旭日章のマークが大きく写っていた。


…と言うかそれしか見えない。


バスに押して貰ってるんだ。


車体がギシギシと音を立てる。


非常出口がどの位の距離ごとにあるものか解らないから、さっき見た小さな緑色の非常出口と書いてある表示板がある所を探した。



左手に東京ガスのビルが見えて来た。

T字の角にそのビルはあったはずだからもう分岐は近い。


そこまで無ければどうしようか…


あった!

遠くの側壁に小さなプレートが出ている。


分岐の近くだ。

その向こうに分岐案内と車線変更を促す看板も見えている。


視界の先の分岐点、左側にはさっき見た状況と同じ赤白のタンクが幾つかと黄色のランプを光らせた公団の車も見えている。


ブレーキを軽く踏んで止まる様にバスに伝える。



惰性で動いてるうちに左カーブに見える公団の車にパトカーの向きを合わせた。


二台が止まる。


分岐まで300メートル位か。


その少し手前に非常出口があるのが見える。


僕は虹川のベルトでハンドルと運転席のドアノブとを繋いで動かない様に固定した。


パトカーの助手席から降りてバスに乗り込む。



「みんな、近くの椅子に座ってシートベルトをして!

虹川さんパトカーをバスでフル加速で押して、分岐手前でバスを止めてください。

クー、出る準備してくれ!」


僕は大きな声でみんなに言った。


武田も警察官もシートの間の床に押し込む



そう。パトカーだけを押し出してあのバリケードを突破するんだ。



虹川はみんなが席についたのを確認すると、長いシフトレバーを動かしてゆっくりと動かしはじめた。


「当機は乱気流を避けるため大きな振動があります。皆様、座席のシートベルトをしっかりとお締めください」

楽しそうにそう言うとバスはゆっくりと加速し始めた。


僕はまーくに貰った火炎瓶をお腹の所で落とさないように持った。



ガシャっという鈍い音がして目の前のパトカーが少し先に進む。

パトカーのリアバンパーのPOLICEの白文字が歪んだのが見える。


また追いついて鈍い音がした。今度はパトカーと離れる事なくバスは猛然とダッシュした。

バスの前のパトカーは車体を揺らしながらも離れる事無く押されていく。虹川は素早くギヤを入れ替えて加速させていく。


運転席の後ろで見ていたがスピードメーターはみるみる80キロを超えた。


次の瞬間、虹川がギヤを入れ替えた。高く唸るディーゼルエンジン音とともにつんのめるようにバスは減速した。

叫び声の様なタイヤの軋む音が車内に響く。

バスは後輪を右に振りながら停まった。


パトカーだけは真っ直ぐにバリケードに進んでいく。

ボーリングでピンに向かっていく球や職員室で撃ったボウガンの矢を思い出した。


パトカーはプラスチックの障害物に当たり、弾き飛ばしながら激しく水煙を上げ、続けて公団の四輪駆動車の後部を弾き飛ばした。

パトカーはそのままくるりと左に向きを変え半回転して側壁に当たって車体を大きく揺らして停まった。

パトカーのボンネットはひしゃげて、くの字に曲がりボンネットから白煙を上げている。


ほんの一瞬だったけど驚く程長く感じた。


道路公団の車と障害物と側壁の間に少し隙間が出来ている



「虹川さん、少し狭いけどあの隙間を抜けて高速を降りてください。

警察がいると思います。停止を求められたら停めて、助けを頼んでください。


藤堂さん、みなさん、迷惑かけました。すみませんでした。

もうお会いする事はないと思います。」

僕はそう言って頭を下げた


シートの隙間から武田の顔が見えていた。

何か言いたい気がしたけど何も言わなかった。


散弾銃は置いていく事にした。街中では目立ちすぎる。



「クー行こうっ!」


僕はクーの手を取ってバスのステップに立った。


降りる直前、藤堂がみんなに言った。


「なぁ、犯人は何が何でも羽田に向かうんだったよな?

しかも一人はパトカーに乗ってたよな?

俺たちはシートに伏せる様に言われてたから何も見てないよな?

どこでどうやって降りたかも知らないよなっ。」


そう言うと僕に向かってニヤリと笑って親指を立てた。


工藤と山本が泣きながらこっちを見て頷いていた。

僕とクーは頭を下げて非常出口に向かった。


バスはゆっくりと右にハンドルをきってバリケードとパトカーを引きずる様に側壁を擦りながら左側の下りカーブを進んで行った。


ぐずぐずしていられない!


非常出口の取っ手はプラスチックのカバーに覆われていた。

『非常時のみしか使用できません』と書いてある。


僕にとっては今が非常時なんだ


早く高速上から下りないとヘリに見つかってしまう。



カバーを外す…待てよ、まーくも直ぐには開けて無かったな。僕は屈んで奥を見た。

プラスチックのヒンジにピンが打ってある。不用意に外すと…ケースの横からコードが出ている…辿ると防音壁の上の赤いランプに繋がってる。点灯するはずだ。

点灯したらここから出たのがすぐ解ってしまう。


左手が使えない僕はクーに指を差し込んでピンを押さえながらカギを回す様に頼んだ。


扉の向こうには階段が付いている。マンションとかの非常階段と同じ様な金属の階段だ。

てすりの隙間から下を覗き込む。

下には普通の道路が走っている。 パトカーがすぐ下の道を走って行った。

多分バスの降りた方に向かってるんだろう。


クーと階段を少し降りると、右側から来ている通路と繋がっていた。

パトカーは左側の側道にいたんだから迷わず右手に進む。


一刻も早く現場から遠ざからないと。

その通路は高速道路の下を真っ直ぐ横断して上り車線の下に出た。

そこに階段がついていた。

迷わずそこを下る。


一番下に着くと内側からしか開けられない金属の扉で通路は終わっていた。


開けるのは簡単だけど扉の向こうに警官が居たら…


扉に耳を付けてみる。


何も聴こえない。


少しだけ扉を開けると普通の車が行き交う道路の中央分離帯だった。高速道路の高架の橋脚の脇だ。


ここは上下線が少し離れていてその間には川が流れている。


反対側の車線にはパトカーが見えたがこっちの車線には居ない。



恐らく警察は既にバスを止めている。


車内に僕らがいない事はすぐ解ってしまう


高速道路上から逃げ出したのは解っているからすぐにこの周辺には検問が配置されるだろう。


早く逃げなくちゃ

手を握るクーが僕の耳元で言ったんだ。


「ガモくん、落ち着いて。」


僕がクーを見るとニコッと笑った。


「…ああ。そうだな」


僕は大きく深呼吸した。



 

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