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僕らの革命 【改訂版】  作者: 片山 碧
26/45

5時

外は薄らぼんやりと明るくなってきた。

廊下のカーテン越しに外の風景が青色の照明を当てた様に見える。

左肩が痛い。

廊下を小走りに階段へと急ぐ。

ズキズキと走る痛みに眠さやダルさは昔の記憶の様に荒くかき消される。


二階、三階と登る。

ツンとした焦げた様な匂いがする。

三階の防火扉の前の机の火炎瓶は設置した時のままだ。


紐をそっと外して火炎瓶を廊下の片隅に置く。

防火扉に耳を付けて三階廊下の様子を聞く。


何の音もしない。


潜り扉を開けて先を伺う

ヨシは誰かが飛び出してくるのを警戒して銃を構えている。


静かな廊下が伸びている。


やはり屋上だ。




階段を銃を構えながら登る。

切り詰めて軽いとは言え、片手でショットガンを持つのは難しかった。汗で滑りそうになる。

一番の問題は左腕が使えない事。ダブルアクションだから二発発射したら終わり。だって弾込めができない。…そもそも片手で撃てるのかどうかも解らない。



屋上へ続く階段は煙も漂っている。

ちらちらとオレンジ色の光も見える。

銃を構え直して進む。


屋上への扉は真っ黒に焦げていて少し開いている。そこから斜めに明かりが漏れ入っている。


「燃えてるな」

小声でヨシが呟く。


あの扉を開けなければ火炎瓶は手すりから落ちる事は無かったはずだ。

ヨシと頷き合って屋上の確認をする事にした。


銃先で扉をそっと押す。


屋上は青白い光に包まれていた。

青白い光は空に濃淡を作り下に広がる黒々とした街並みに慈悲深い光を注いでいる。


こんな状況なのに何だか目の前に自由そのものが広がっている様に見えた。


「おい!あれ!」

ヨシが指す先に黒い物が落ちているのが見えた。

ヨシは中腰で走って行き、黒いものを持って帰ってきた。

L型の黒い艶消しのフラッシュライトだ。

ずしりと重くて、見るからに高級そうだ。高校生の持ち物ではない。

間違いなくここに特殊隊員がいたという証拠だ。


…やはり屋上から来たか。

ネットで立てこもりの事を調べた時、警察はどの世界でも屋上と下との挟み撃ちが鉄則みたいだった。


モスクワでは治安部隊が立てこもった建物の屋上から麻酔ガスを空調に仕込んだし、ペルーでも屋上にいた部隊が一番に大使館の中に入り込んだ。


…ここも屋上から侵入する予定だったんだろう。火炎瓶が仕掛けてあるとも知らずにドアを開けて引き下がった訳だ。


さっきクーにまーくが説明してたみたいに、学校の壁沿いの赤外線センサーさえクリア出来れば後は乗り越えるのは容易だ。

ただ、どうやって屋上まで上がって来たのかが不思議だった。恐らく壁をよじ登ったかハシゴなんだろうな。



扉を内側から鍵を掛けてから調整室に帰る。







まーくは吉岡と話をしたと言ったが

「僕のことを代理としかみてなくてさ、特殊隊員の事は知らない、人質を解放するように伝えろとしか言わないんだよ」

と言った。



相談してまーくとヨシがまた屋上の扉に火炎瓶とその他の仕掛けを設置しに行った。


僕は吉岡に電話をする事にした。


「嘘はタメになりませんよ吉岡さん」


『おおガモウくん帰ってきたか。嘘ってどういう意味だい?』


「落とし物を拾いましてね。黒いフラッシュライトですよ。警察の特殊隊員が使う物みたいですね。」


『さっき君の代理とも話したんだけどな、少なくとも私は知らないんだ。フラッシュライト?…解らないな。

高校の誰かの落とし物じゃないのか?』


…こいつバカにしてやがる!



「報復がある事を思い知らせてあげますよ。」


そう言って携帯の電源を落とした。

僕は決めたんだ。

見せしめとして殺してやる。

…警察の目の前でな




「仕掛け済んだぜ」

ヨシとまーくが戻ってきた。


「三階には上がっちゃダメだよ。仕掛けだらけだから」

まーくが手で服を払いながら言った。



「…みんな聞いてくれ。一人見せしめを作ろうと思うんだ。」


「見せしめ?」


「そう…そろそろ警察に眼にもの見せなきゃいけないと思うんだ。

…さっきの武田たちと同じで警察も僕たちが人質を殺さないと解ればつけあがる。

だからここで僕らが本気な所を見せなきゃならないと思うんだ」

僕はみんなの前でそう言う事によって自分の意志を確認したんだ。




「…」


みんな黙って僕の話を聞いていた。



その時まーくが言ったんだ

「なぁガモくん、君の『ルール』を壊しちゃっていいのかい?」


薬を飲みながらポツリと言ったんだ。


「…僕のルール?」


「ああ。君は自分の中でルールを作ってたんじゃないのか?」

「…」何も言えない。


「僕がそれに気付かないとでも思った?それとも今言ってるのは例外かい?」



「なんだよそのルールってのはさっ?」

ヨシが聞く


「簡単に言うと、ガモくんは殺さない、傷付けないのを基本にしてるんだよ。」


…その通りだ。


「…最初の段階で、武田なり誰なりを殺しておいて、他もこうなりたく無かったら言うことを聞け…とすれば話はもっと簡単だったろう。でもガモくんはそうしなかった。

本来は計画では、威勢良く、先に目障りな奴を殺してしまう事になってても、実際にその場が来たらビビってできないってのが普通だよね…

でもガモくんは怒りが頂点に達していた筈の最初から殺す計画を立ててない。

それは最初から『殺さない』ルールを作ってたからだよね?」


「…その通りかもしれないね。僕はあいつら殺したいよ。

作戦が始まってからも何度も殺そうと思ったんだ。

殺しても良かった…でもさ…」


「ああっ!もう!煮え切らないわねっ!ガモくん!あいつら殺すの?殺さないの?どっちにするのよっ?」

イライラしたクーが言った。


解ってる。


…あの時の僕は優柔不断に見えただろうな。


でも実際は決まってたんだよ。

殺すなら僕一人だけが手を下すってさ。


…言い出す機会を失っただけだよ…


にっこり笑いながらまーくが言った。


「いや、クー、もう一つあるよ…生かしとくのと殺しちゃうの中間。」


そしてくるりとこっちを見て続けた。


「ガモくんが言う殺すっていうのは肉体的にって事だろ?

賛否両論あるだろうけどネットを使って奴らのやった事は暴露してやった。

社会的にも叩かれるだろう。

後は精神的に痛めつけちゃえば死よりツラい日々かもしれないよ。

それは殺すよりダメージ大きいと思わないかい?

君のルールからも外れないだろう?」


「…」


確かにそうかもしれない。

僕は何度か奴らを殺そうと思った。

だけど最後には殺しちゃいけないと思って堪えたんだ。


なぜ?僕の心が問いかける。


それは奴らを殺したら世間にどう説明しても理解されない所へ行ってしまうから。

筆語を尽くして説明しても、『でも君たちは殺しちゃったよね』で済まされてしまうから。

本心が伝わらなくなるから。


…いや、本当にそんな綺麗事か?


…本当は殺したらそれで終わりになるから…


僕は奴らを永遠に苦しめたいから殺さないのではないか?


自分がいじめられてる間は、いつまでこんな状態が続くか解らなくて恐怖して絶望した。

今度は僕が奴らを永遠の苦しみに陥れたいだけ…死の安楽すらすぐには与えない。


だとすると僕はまーくが言った様に『生と死の中間』に奴らを置く事が今一番望んでる事なんだ。




……それが、その時の自分を納得させる為の詭弁だよ。

今でも心理的には理解できるよね。



……仲間にも僕がそう思ってると思って欲しかったんだ。


…理由?


ちゃんとあったよ。

もっと基本的で簡単な理由が。

僕は一応全て考えて動いていたんだから。




「…そうだね。僕の言ってるのは肉体的な死だけだね。まーくの言う中間が一番ダメージが大きいよね」


僕は敢えてそう言ったんだ。

まーくの提案に乗った様に見える筈だ。


でもまーくはこの時には僕の計画は解ってたんじゃないかなと思う。



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