4時
最初に動いたのはドライバーの警察官だった。
両手を挙げてゆっくり運転席からおりてくる。
警察官は後ろに回って後部座席の扉を開けた。
最初に降りてきたのは南だった。
南はようやく立てる様な状態だ。
その後ろからゆらりと体を揺らすように降りてきたのは友田だった。
左手には火炎瓶を持っている。
警察官はじりじりと後ずさりする。
多分友田が下がる様に言ったんだ。友田は南にピタリと付くようにして火炎瓶を南の後頭部あたりに持っている。
これなら撃たれないだろう。
撃てば二人とも火だるまだ。
「ヤバいな」
まーくが言った。
「何が?」
「火炎瓶しかないと解れば警察には手立てがあるんだよ。武器は何がどれだけあるか知られちゃいけないんだよ。」
「手立てって?」
クーが質問する。
「…」
まーくは黙ってモニターの端に見えるレスキュー車とホースを持ったオレンジ色の隊員を指差した。
「ほら東京消防庁だ。じりじりと寄ってるだろ?…現場を離れないとまずいよ」
まーくは呟いた。
友田は南を運転席に押し込んで助手席に移動させて自分も運転席に乗り込んだ。
友田早く移動しろ!心の中で叫ぶ。
それは運転席のドアが閉まる瞬間だった。
パンッと乾いた音が微かにしてパトカーが傾いた。
タイヤを撃ち抜かれたんだ!
そう思った時、消防車の影にいた消防隊員が腰だめに持った大型な銃の様な物から白い塊が飛び出したんだ。
白い塊は閉まろうとしているパトカーのドアと車体の隙間辺りに当たったと同時に弾けた。
水だ!
灰色のバスの様な車が高速でパトカーに近づきながら金属のホースの様な物でその隙間に放水をする。
パトカーのドアはだらしなく開いたままとなっている。
そこにまた消防隊員の水の塊が吸い込まれる様に飛び込む。
大盾を持った機動隊が一斉にパトカーを取り囲む。
「…終わったな…友田」
「パトカーを呼んだのが失敗だ。パトカーの後部ドアは内側からは開けられないんだよ。
つまり後ろから前への移動は一度外から開けて貰わなきゃならないんだ…。
そのタイミングが問題だよ。
後は火炎瓶だけだから大量の水が掛かったらお手上げだ。
わざわざ東京から高規格消防のレンジャーまで駆り出してる。早くから警察は火炎瓶だけだと解ってたんだな」
「…」ヨシは黙ってる
「まーくくん!よく仲間が捕まったのにそんな冷静にしてられるわねっ!」
クーが喰ってかかる。
藤井が肩を押さえて立ち上がったクーを座らせた。
「…クー、落ち着きなよ。
…冷静にならなきゃならないんだよ。
僕らは友田の様子を見て自分たちの行動の規範にしなきゃならないんだよ。
同じ轍を踏まない様にしなきゃ何の為に友田が捕まったか解らないじゃないか…。」
まーくは呟く様にクーに言った。
画面には沢山の警官隊がパトカーが見えない程に取り囲み、楠戸はマイクに絶叫していた。
「…友田、お前は復讐できたのか…?」
僕は画面の中の警官隊の中にいるだろう友田に呟いた。
「ガモ!上!」
ヨシと山本が天井を指している。
「聞こえたわ!何か割れる音とボンという音!」
山本が言う。
「同時に来たか。放送が入ればそっちに集中すると思ったんだろうね。時間的にもセオリー通りだし。」
まーくは続けて言う
「…だけど突入じゃないね。早すぎる。偵察に来たんだろう」
「屋上か?」
ヨシ
「解らないけど恐らく」
僕
「警報は何で鳴らないのよっ?」
「クー、落ち着いて。警報は壁際の赤外線センサーで反応してるから赤外線に触れなければ鳴らないんだよ。ハシゴ掛けて屋上に偵察隊を送り込んだんだろう。」
「なんでそんなに落ち着いてるのよっ?!警官が頭の上に居るのよっ」
「まだ突入じゃないからだよ。…中途半端な偵察だと後悔するよ」
「ガモどうする?」
「まーく、この携帯で吉岡に電話を!クー、モニターの確認を続けて!ヨシ行こう」
まーくなら多くを話さなくても解るはずだ
僕は銃を持ってヨシと調整室を出た。