3時
苛める側の理論なんて無いと思ってたから僕はショックだったんだ。
確かに僕は相手の過去まで知らずに現状だけで判断した…。
…倉井も僕と同じように単にイジメられている…?
待てよ……同じ…?
武田たちにも何か理由があったとしたら…
もし、僕が気付かないだけで決定的な問題があったとしたら…
いや、それはない。中学も違うし、共通の友達もいない。田頭も伊東も…
理由はない。
…ない筈だ…
僕の思考は藤井の言葉で遮られた。
「ガモウくん、こっちの画面変わったよ」
藤井の前にあるテレビ画面がつまらない深夜放送からスタジオ画面に切り替わっている。
SRB放送だ。
メインモニターに切り替える。
アナウンサーが今回の僕らの話をしてる。
そのアナウンサーの後ろに写ってる画面には待機してるレポーターの楠戸が見える。
多分この後、中継に切り替えるんだろう。
クーも僕の横に来てモニターを見つめる。
深夜にこんな特番組むなんて…
理由はアナウンサーの説明で分かった。
『…今回SRB放送は、『A高校立てこもり人質事件』に関しまして警察の要望と報道協定に基づき、指示に従ってきました。
昨日、犯人側から当テレビ局の楠戸と面会したいとの要求があり、準備をしましたが、直前になり警察の指示で取りやめとなりました。
結果、皆様ご存知の通り、少なくとも人質一名が撃たれるという事態になりました。
その後、犯人の内一名が人質を連れて学校を出ました。
要求したパトカーで移動し、中央高速○○サービスエリアに入り、そのまま膠着状態に陥ってから既にかなりの時間が経過しています。
先程、犯人より直接、当SRB放送に連絡があり、実況する様にとの要求がありました。
警察とも検討しましたが、当局では人命尊重を第一に考え、放送する事と致しました。
…では現場を呼んでみましょう。
○○サービスエリアにいる、楠戸さん? 聞こえますか?
ー画面がLIVE映像に切り替わるー
…はい、こちら現場の楠戸です。
犯人は未だに動きは見せていません。
皆様のごらんになっている画像…切り替えて下さい…はい、見えますか?
ーかなり近い位置まで接近した画像に切り替わったー
広い駐車場のほぼ真ん中に犯人の乗ったパトカーが停まっているのが確認して頂けると思います。
少し離れて周りを取り囲む様に警察の車両と機動隊が配置されています。
犯人の要求通り、これから事件解決までレポートを続けたいと思います。… 』
友田が中継を要求したんだ…
パトカーが更にズーム画面で大写しになる。
距離があるからか明かりが足りないのかざらついた画面だ。
パトカーの給油口は開いたままで下には倒れた赤色の缶が落ちている。
給油できたのかな…
何を要求して止まってるんだろう…
あれ?パトカーの後席に青白い光がチラリと見えた。
「あの光は携帯だね。ワンセグ観てるんだよきっと」
藤井が言った
中継が本当にされてるのか確認してるのか…
なんで中継を要求したんだ?
なんで動かないんだ?
膠着するのは危険だと解らないのか?
疑問が沢山湧いてくる
他のモニターを見ると各局共に中継放送が始まった。
SRB放送だけの独占は許すまじということか。
こうなると協定も意味がない。
途中から隣で観てたクーがヨシとまーくを起こした。
「おいっ!こいつらは…」
ヨシが藤井や隣に寝ていた山本を見て驚く。
「いいのよ」
クーが一言で済ませる。
「友田動いたかい?」
まーくは至って冷静だ。
「中継を要求したみたいなんだ。」
「中継要求?…まだあのサービスエリアに居るのか…」
僕らが見つめる画面の中に見慣れた大柄な友田の姿が見えたのはそのすぐ後の事だったんだ。