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僕らの革命 【改訂版】  作者: 片山 碧
23/45

2時

「終わったの?」


クーは僕の顔を見て言った。


「ああ。…でも殺してはない」


「うん」

頷くクーの顔が少し明るくなった。


「友田は?」


「解らないのよ。各局が通常番組か、やってもVTRばかりで。…ガモくん肩と背中どう?」


「そりゃ痛いよ」

痺れの中に痛みがはっきりと主張してきているのが解った。

他人の腕みたいな感じもする。


「でしょうね…。」

細く整えた眉毛の間にシワを寄せて心配そうに僕を見る。


まーくが薬を持ってきてくれた。

「鎮痛剤と抗生物質だよ。鎮痛剤の効きが悪かったら言ってよ。局麻するから。」


「きょくま?」僕


「巨大なクマ?」クー


「んな訳ないよ。キシロカイン…局所麻酔だよ」

笑いながらまーくは言った。


「巨乳のクーじゃねぇのか?」ヨシ


「それは嫌み?」

クーが膨れて腰に手を当てて怒る真似をする。


みんなで笑った。


何だか放課後の部活みたいだ。すごく平穏で静かな気がする。

解ってる。

僕たちが今してる事の重大さと異常性は。


世間は、悪い意味で僕らに注目してるし、外では仲間の一人がパトカー奪って人質と共に行動してるし、隣の部屋では半死半生の同級生が三人もいる位だからね。


明るいのは表面だけ。

だけど、表面だけでも明るく振る舞い、中の重大さをコーティングしとかないと、何だか爆発するか内側から崩れそうな気がしたんだ。


僕は笑っている仲間を見て、そう思ってるのは自分だけじゃ無いって確信したんだ。



「少し休まないか?」

僕は提案した。みんなにも疲れが見えはじめてる。

朝までそんなに時間はないが順番に寝れば2時間ずつ位は眠れるんじゃないかな。そう思ったんだ。


「いいと思うよ。但し、90分ね。」まーくが言った。


「なんでだよ?」ヨシ


「レム睡眠とノンレム睡眠の1セットで90分だから。2時間だと眠りの深い時に起きなきゃいけなくなるからね」


「よくわかんねぇけど…まーくが言うなら間違いないんだろうな」

ヨシが言った。



相談して、先にまーくとヨシが寝る事になった。

調整室の隅に保健室から持ってきた布団を敷いたんだ。


まーくは寝る前に僕の肩に注射をしてくれた。

知らなかったんだよ。

局所麻酔って一カ所に打つんじゃいんだよ。何ヶ所にも分けてブツブツと少しづつ打つんだね。

ちょっとした精神的苦痛だった。

でもお陰で痛みはかなり楽になった。痺れと熱を持った感じと奥の痛みは取れないけどね。




二人が寝た後、クーに人質の女三人にお茶と食べ物と毛布を持って行く提案をした。


「そしたら、こっちに来させたら?トイレとかも行かせてあげなきゃ、と思ってたしさ。」

クーが言った。


確かに僕はさっき助けて貰った事もある。

少し考えたけど、まーくが言ってた『ストックホルム症候群で既に味方と思っていい』って言葉を思い出したんだ。


クーの意見に乗る事にした。


クーに連れて来させた三人に、飲み物と食べ物と毛布を渡す。

トイレは職員室の隣の職員用を使う様に言う。


三人は嬉しそうに顔を見合わせて笑った。



僕はクーに代わってモニターチェックについた。

クーは女達と話をしていた。

これは僕が指示したんだ。

反乱する意志がないかとか、何か知ってる情報があれば聞き出す為だ。




…あと、クーの為にささやかだけどストレスの発散になればとも思ったんだ。



三人は藤井以外は工藤と山本と言う名前と知った。


藤井は僕の所にやって来て隣の椅子に座って黙ってテレビモニターを見はじめた。


振り向くとクーは工藤と学校の話をし、山本はヨシの側で毛布にくるまって眠ってしまってた。



「ねぇ、何見てるの?」

暫くして藤井が僕に聞いてきた。


「…警察と仲間の動向だよ」


「警察は?」


「動いてる筈なんだけど情報は殆どないんだ」




人質と犯人の会話とは思えない。

僕はなんだか仲間と話してる気がしたよ。


内心、なんでこんな普通に見える女の子が酷いイジメをしてたんだろうと不思議に思った。

気を抜いちゃいけないのかもしれない…全て芝居かもしれない。

そうとも思った。




「あのね、ガモウくんが言ったじゃない?『みんなで話し合え』ってさ…」


急に藤井が急にポツポツと話始めたんだ。


「…そんな驚かなくても…あたし達、話合ったのよね。そして思ったの。ガモウくん達はあたし達の事を知らないんだわって。」


「…どういう意味だ?」


「そりゃね、あのサイトだけ見たらそう思うのも無理ないのよ。

倉井さんの酷い事書いてるし画像加工してアップしたりしてるし。

…ガモウくんや友田くんの事は知らないわ。


でもね隣で伸びてる人達がガモウくんに酷い事してるってのは解るわよ。

だけど、あたし達はあいつらとは違うのよ。

…今のガモウくん達と同じ気持ちだったんだよ。」


「…なに?」


藤井はしっかりとこっちを向いて話始めた。


「あたし達は4人とも同じ△△中学なのよ。知ってるでしょ?有名校よ。4人共、成績は上位10位にいつも居たわ。」


△△中学は近隣屈指の進学校だ。

僕のいた中学よりレベルは高い。


「…でね、倉井は当時あたし達のリーダーだったのよ。

…正確に言うとあたし達三人は暴力と脅しで服従させられてたの。

当時倉井が付き合ってたのが暴走族を仕切ってた悪い奴でね。

倉井が『もし私を裏切ったらそいつがあたし達を吊す』って。」


「…」


「酷いものだったわ。

…パシリは当たり前。カツアゲ、リンチ紛いな事もしょっちゅう。…やらしい事まで色々させられたのよ。

結局しなかったけどウリもしろって言われたわ」


「ウリ?」


「知らない?売春よ。

彼氏ってのがシンナーで溶けてたから命令めちゃだったみたい…。

一番頭に来たのは悪い事させられるのはいつもあたし達。倉井はいつもやらせるだけ。」

「…あの倉井が…」


「うん。工藤ちゃんが我慢できなくて一度先生にチクったの。おかげで工藤ちゃんは酷い目に合わされたのよ。


…そう。先生と倉井の彼氏は繋がってたの。


…でもね、この春休みにその彼氏がバイク事故で死んだのよ。


その族は薬物もやってたから、事故が原因で警察が入って、解散になったの。

あたし達は倉井と同じ高校に入るのが決まってて、暗澹たる思いだったから彼氏が死んだって聞いて嬉しかったわ。

しかもうちの学校は一年生は同じ出身学校で集めるから、4人共、同じクラス。

…運命かなって。

そこからあたし達の復讐が始まったのよ。」


「…」

 

「もう後ろ盾の無い倉井は脅威じゃなかった。

でもね、表立ってはできないじゃない?

だからああいうサイト使って憂さ晴らししてたのよ。

クラスじゃあ無視しかしてなかったよ。」


「…僕らと同じ…か…」


「うん。方向性がちょっと違うだけ…だと思う。形はかなり違うけど復讐しようと思ったのは同じだよね。」


そう言ってニッコリと笑った。


…イジメにも理由があるって事か…



 

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