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僕らの革命 【改訂版】  作者: 片山 碧
22/45

1時

まーくは幾つかの薬とナイロン袋、チューブを持ってきた。


「特別に選ばせてあげるよ。空気、水、塩…どれがいい?」


まるでお菓子を子供に勧める様な静かな落ち着いた言い方だ。…正直その方が怖い。


勿論、田頭が選ぶ筈がない。


「…僕が選んでいいんだね?」


反応のない田頭にまーくが言った。

「じゃあ空気にしようか。」


まーくとヨシは暴れる田頭を壁際に置いた椅子に座らせた。


ガムテープで足を椅子の脚に巻き付ける。 括ってある後ろ手も腰も椅子の背もたれに括り付け固定する。


動けなくしてからガムテープで目隠しをして武田に使ったヘッドホンをつける。

そして頭にナイロン袋を被せた。

「始めるけど…女の子は見ない方がいいと思うよ。」


ヨシはクーをモニターのウォッチに行く様に言って、女三人組は倉庫に入れて扉を閉めた。


クーは不服そうだったが僕が頷くと黙って調整室に入った。


頭からナイロン袋を被せてあるだけだから直ぐにはどうという変化はない。


でも田頭は何が起こるのか分かったのか叫び始めた。


「やっ…やめろーっやめてくれー」

くぐもった声がナイロン袋から漏れ聞こえてくる。


「叫ぶと空気がすぐ無くなるよ」


田頭はヘッドホンをしているから聞こえる筈は無いんだけど、まーくは普通に話しかける。

まーくは職員室の倉庫から掃除機を持ってきた。

ナイロン袋を深く被せ直して首の所に掃除機の吸い口を入れて紐で括る。


まーくはニコリと笑うと掃除機のスイッチを入れた。


くぐもったモーター音と共にナイロン袋が田頭の顔の形に収縮していく。

直ぐにナイロン袋の中の空気は無くなる。


「…クワッ…」


「ほら、口を開けるから…肺の空気も無くなっちゃうよ」

田頭は椅子に縛り付けられたままバタバタと暴れた。


暴れる姿をじっと見て、スイッチを切る。

掃除機の吸い口から空気が逆流して田頭の肺にも酸素が行き渡る。


ナイロン袋の中で田頭が少ない空気を貪り吸うのが解る。


また掃除機のスイッチを入れる。


「!」


今度は直ぐに暴れない。


「息を止めてるんだね?いつまでもつかな?」


ナイロン袋がぴっちりと田頭に吸い付く。

モーター音が高くなる。その音の中にシュウウ…という音が混ざっているのが聞こえる。

肺の空気が抜けているんだ。


田頭はそれと同時にまた椅子の上で芋虫みたいにもがき暴れる。


またスイッチを切る…


空気を得た田頭が肩で息をしながら言う。

「だ‥だず…げでく…」


しゃべりきる前にまたスイッチを入れる


「グッ…」


スイッチを入れたまま まーくが話す。


「スイッチ切って空気が入って来てもさ、慌てて吸えばナイロンが鼻や口にへばり付いて呼吸できないんだよ。ゆっくり吸わないとね。

…あ、聞こえないか。

でもさ、ヘッドホンしてないと鼓膜が破れちゃうんだよ。」

平然と話すまーくは冷静だった。


「…殺さないでいいよ」


「解ってるよ。」

まーくはそう言ってスイッチを切った。

田頭がガクガクしながら空気を求めて暴れる


まーくは遠い目をしながら呟く様に言った。

「…虐められてる頃、頭の中で色々想像して、方法考えてさ…何人も殺してきたんだよ。どうしたら相手を苦しめるだけ苦しめられるか。…大丈夫この位じゃ肉体的には死にゃしないさ。」


伊東には聞こえているのだろう、目を瞑ったまま汗をかいてブルブルと震えている。


「…次は君だよ。

…絶対死なないという保証はないけどね。」


そう言いながら、また田頭の掃除機のスイッチを入れた。


すでに田頭は叫ぶ力もない。

ただもがくだけだ。


「…肺の中の空気まで吸われると生命は死を感じて、恐怖がピークに達する。そうなると本能的に脳は思考回路を全て遮断してパニックになるんだ。…弱いとパニックで死ぬ事もあるからね」



それを聞いていた伊東は目を見開き大声で命乞いを始めた。


「やっやめてくれーっ!おっ俺が悪かった。謝るっ!謝るから許してくれっ!頼む!頼むっ」

優しい目でまーくは見下ろしている。


「じゃあ、次にこいつな。俺が始末してやるよ。」ヨシが僕を殴った鉄パイプをガリガリと引きずりながら近くに寄った。


それを見た伊東は白眼を剥いて失神した。


情けない奴だ。




「ああ、忘れていたよ。」

伊東を見ていたまーくがゆっくりと掃除機のスイッチを切る。


田頭はがっくりと前のめりに倒れ込む。


「あれ?もう限界かい?」


まーくはナイロン袋を外してやる。

田頭の顔は赤紫色になり唇は真っ青だ。

苦しくて口の中を噛んだのか大きく開けた口から血を垂らしている。


ヒューヒューと音を立てながら肩で息をしてるから死んではいない。


まーくはヘッドホンを外してナイロン袋を耳元でクシャクシャと丸めた。

そしてまたヘッドホンをつける。


「今のは?」


「定義付けさ。

パブロフと一緒。

こいつは今、死の縁を見てきたんだ。強烈だったから定義付けはすぐできるよ。

これから先、もし生きてても掃除機の音とかナイロン袋の音がするだけでさっきの死の恐怖が蘇るのさ。」


「まーく、お前、鬼だな。こいつコンビニに行けなくなったぜ」

ヨシはそう言って笑った。


「そいつはどうする?恐怖からくる過呼吸で失神してるだけだから、すぐ目を覚ますよ。」


「やっぱりしといた方が良くないか?片方だけじゃ不公平だろ」

ヨシはそう言って伊東の頭を靴の先で小突いた。


「じゃあどれがいいかな。綿、煙草、塩、アルコール、爪、割り箸…。」


「塩?割り箸?…」


「ああ。これだよ。」


普通のどこにでもある割り箸だ。それをどう使うんだろう…

まーくの事だから普通には済まないだろうな。


「まーく、後にしようか。」

僕は言った。


…助けてやろうとしたんじゃないんだ。

意識の無い相手にするのは卑怯な気がしたんだ。


僕らは二人を放置しておく事にした。


友田がどうなったのか心配になったんだ。




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