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僕らの革命 【改訂版】  作者: 片山 碧
19/45

21時

「最悪ってどういう事?」

クーが聞く


「その粉ってのが、メタケイ酸ナトリウム…シリカゲルか…生石灰…消石灰かもな」


「?」


「眼球を乾かすか、熱で焼くか、アルカリで溶かすつもりなんだよ」


「!」

クーは手で口を隠す。


「…確かに最悪だな。でも、どこからそんなもの手に入れたんだ?」

ヨシが窓ガラスを壊しながら言う。


「多分あれだよ」

まーくはさっき友田が食べてたせんべいの空き袋を持ってきた。


「この中にあった乾燥剤だろうな。…シリカゲルならまだ時間があるけどそれ以外なら…」


ガラスの向こうでは柴田が痛がっているのが見える。叫んでいるのだろうが声は聞こえない。

…調整室だからどれかスイッチを入れれば音声は聞こえるのかもしれない…

事実、パネルにはスタジオ音声モニターというスイッチもある。


複雑な心境だった。

友田の気持ちは解る。

僕が友田で相手が武田なら間違いなく同じようにしているだろう。


…でも苦しんでる声は聞きたくない。


それは今までの僕らの声そのものだったから。

相手の痛みも解ってしまうんだ。

虐められた者にしか解らない感情だ。


いつもの奴らの様に、楽しんで笑って聞く位の太い神経なら楽なのにと思った。


多分ヨシもまーくもクーも同じように思っていたはずだ。



だからスイッチは入れなかった。


声を聞いて精神的に追い詰められたり…最も怖いのは逆に自分も友田の様に…となってしまったら計画は終わってしまうから。


…恐怖には対峙するよりも受け入れるか同化する方がずっと楽だから。


僕らの目的は個人の復讐ではなく、いじめに対しての大きな抑止力となる事。


その為には世間に広く知ってもらって僕らの行動を理解してもらわないといけない。

小さな犠牲は必要だが命を奪っては世論は味方につけられない。世論を味方にしなければそれこそ犬死だ。


何でだろう…この時、僕は特にクーに聞かせるのは躊躇われたんだ。

クーには聞かせたくないと思った。


…今思うと僕の中でクーの存在が仲間というカテゴリーから違う者になりつつあったんだと思う。







友田は続けて倉庫からBクラスの女の髪を引っ張って連れてきた。




「もうすぐ開く!」ヨシは矢をガラスに突き立てながら僕らに言った。


友田は女の腕を留めていたタイラップをナイフで切って外した。

ショットガンを突きつけて何か命令している。


友田はこっちを振り返ると僕らに歪んだ顔で一言一言解る様に口をゆっくりと動かした


ミ テ ナ ヨ ス ト リ ッ プ サ セ ル カ ラ サ


それを見たクーは操作パネルのマイクのスイッチを入れた


「友田!止めなよっ。…女が要るならあたしが代わるから!」


友田はニヤリと笑い


ヤ メ ナ イ


と口を動かした。


銃口を使って脱ぐのを急かす。


女は泣きながらブラウスのボタンを外しはじめた




「開いたっ!」

破片で切れたのだろう腕を血だらけにしたヨシが叫ぶ。


僕はその5センチ程の穴にボウガンをセットして照準を友田の額に合わせた



まーくがマイクを通して友田に言う。


「友田、警告だ。すぐ止めろ。ボウガンで君を狙っている。すぐその女を倉庫に戻せ。」


ガラスに開いた穴から南のくぐもった様なうめき声や柴田の叫び声に混じって友田の声が聞こえる。



「お前らだって見たいだろっ?

今なら何でも許されるんだっ!

…何ならこのクズ女を犯してから殺す所も見せてやろうかっ」


女は泣きながら怯えている


…友田は狂った と思った


どうする?

引き金を引けば友田は死ぬ…いや、やると決めたら一発で殺さなくてはならないんだ。

…失敗したら…怪我をする程度で済んだら、腹をたて火炎瓶を割るかもしれない…


友田はガラス越しに僕らを睨みつけていた。


「…解ったよっ!偽善的どもめっ!」


友田は叫んで女の手首を近くのコードで縛りなおし、倉庫に蹴り込んでから振り向いて言った。


「但し、俺はこれからお前たちとは別に行動するからなっ」


そう言って携帯をどこかへかけ始めた。


僕はガラスの穴からボウガンを引き抜いた。




友田はスタジオの真ん中に座って電話を続けた。


僕らもどうしようもなく静観していた。…ヨシが手入れの済んだ散弾銃で友田を撃とうとしてたのをみんなで止めたりもした。




中に火炎瓶が数本ある以上、下手に動けない。


20分位、友田は誰かと話をしてた。

途中興奮して携帯を叩きつけたり立ち上がったり笑ったりしてた。


急に電話を切ると、苦しんでる南と柴田の髪を掴んで立ち上がらせた。


南を拘束してたタイラップを切り、近くにあったマイクスタンドを渡して自分で立たせた。


南の片膝はズボンの上からでも解る位パンパンに腫れ上がっていたよ。


足首が真横を向いて、ぶらぶらしてたから、多分膝は砕けてたんだと思う。


柴田の右目も腫れ上がり、時折痛さに見開く目は真っ赤になってどこが黒目か解らなかった。

友田はやっと立っている南のズボンのポケットに火炎瓶を一つ入れた。


不安定な南が転んだら火だるまだ。




左手でガラス越しに置いてあった火炎瓶を持ち、右手で銃を構えたまま二人を先に歩かせててスタジオから出てきた。

ヨシは舌打ちしたが友田を見る事もしなかった。


クーは「…止めなよ」と呟いた。


僕の横を過ぎる時にショットガンを投げるように寄越した。


火炎瓶でゴツゴツと柴田の頭を軽く殴りながら


「門を開けろ。こいつの頭で火炎瓶を叩き割るぞ」


その時、僕はふと気付いたんだ。

友田の目つきが違う


さっきとは変わってた。

…悲しそうな…ツラそうな

少なくとも狂気な目じゃなかった。


まーくが職員室へ行き、操作して校門を開けた。

三人は放送室を出ていった。


門からパトカーが一台入って来て昇降口の前に停まった。

コンビニのトラックの少し左手だ。


友田は警察とどんな取引をしたのだろう…。


テレビも各局中継に切り替わっている。

LIVEの文字のついた画面、正門の奥に赤いランプのパトカーが停まってるのが見える。


「…自首じゃねぇのか?」

ヨシが吐き捨てる様に言う。


モニターに三人の姿が見えた。サバイバルナイフを南の首に突きつけている。



音声のボリュームを上げた


《…9月革命と名乗る犯人グループの一人と思われる男が出てきましたっ。人質を連れている様です!

三人共に学生風ですっ。

人質はまともに歩くのも難しい様ですっ。

先ほどパトカーを要求したという情報が入りましたが、それ以上の警察発表は今の所ありせん…》


やたらと張り切って実況してるアナウンサーにちょっと吐き気がした。

お金掛けたショーみたいだった。


どうせ視聴者の殆どが人質の事なんかどうでもいいんだろう。

この台本の無いドラマの展開を観てるだけだ。



僕らの目的はマスコミを利用して広く社会に主張をする事だった。


だけど…友田のとった行動が…飢えたマスコミに間違った餌を与えただけで、僕らに対する批判に繋がるのは間違いないだろうと思うと、がっかりしたり腹が立ったりした。


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