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僕らの革命 【改訂版】  作者: 片山 碧
15/45

16時



一人で考えたい事もあったのだけど、すでに動き始めた歯車は止まらない。


…瞬時に間違いない判断をしなくてはならないと云うことなんだ。

僕は最終的には消えるんだから助かろうとは思っていない。


…むしろ怖いのは自ら幕引きをするんじゃなくて、警察やその他の人間に無理やり舞台を引きずり下ろされる事だ。


それは僕の意に反する。


それを行わせない様にするには常に先を読んで進まなくてはならない。


自分にいい聞かせる。主導権はこちらにあるんだと。



二階に降りてヨシに様子を聞く。

「変わりない。ただ、トイレに向かう奴らはみんなアレ見てビビってるよ」



廊下でもがいている武田を顎で指した。


「目障りだよな。

動かなくなったら教えてくれ。運ぶから」


トイレ前にいる友田に手を上げると、笑いながら手を上げて返事をする姿が見えた。




「ガモくんお帰り」


「何も無かったみたいだね」


二人に迎えられて放送室に戻った。


本来の予定では今頃マスコミと話をしているはずなんだよな…。


僕はどうしたらいいか悩んでたんだ。


そしたら声を掛けられたんだ。

「なぁガモ、焦っちゃダメだよ」

振り向くとまーくが笑ってた。

「焦る気持ちは解るけど、焦った所で判断ミスが起きるだけだよ。

警察は虎視眈々とこっちの綻びを探してるんだからさ」

「そうそう。慌てる乞食は何とかって言うでしょ?」


クーが横からペットボトルのお茶を渡してくれながら言った。


苛々してるのが解ったんだな。


僕は二人からそう言われて少し落ち着いた。

やっぱり焦りがあったんだな。相手より先に進まなくちゃと思い過ぎると足を掬われる…



「なぁ、クー、タバコ一本くれないか?」


クーは驚いた様な顔をしたけどすぐに笑顔になってブラウスからタバコを出して渡してくれた。


一本くわえて借りたライターで火を点ける。

一瞬、むせそうになったけど感覚を思い出してゆっくり吸い込む。

細く吐き出した青白い煙はゆらゆらと上に上がっていった。

頭がクラクラした。



この感覚久しぶりだ。



ちょっと肩の力を抜かなきゃな…


「ガモくんタバコ吸うんだねー」

クーが楽しそうに言う


「ああ。中学時代に友達が吸っててさ、その姿が何だか格好良くてね。

練習して吸える様になったんだよ。

でも何年も吸って無かったんだ。

けどさ…クー見てたら欲しくなった」


…そう。タバコはコージに教わったんだ。

コージもどこかでこの事件を知ってるだろう。



「ガチガチのエリートだと思ってたから驚いちゃった。でもタバコ仲間が増えて嬉しいよ」


そう言ってクーは笑った。




深呼吸して自分を落ち着かせる。


さて…どうするかな


楠戸はもう無理だ。



誰か他を捜すか…


誰を?

こんな現場にまで一人で来てくれて話を聞いてくれて僕らの本音を偽り無く、ちゃんと世間に伝えてくれる社会的にも名前の知れてる人…。


いるか?そんな人




吉岡から連絡が入っているだろうが敢えて携帯は繋がない。


連絡がなければ警察も焦るだろうし手も出せないだろう。



考えてたらまーくが言った


「ガモ、そろそろSITが待機してると思うんだよ。」


SITってのは人質立てこもりなどがあった時の警察の専門部隊だ。


「ああ、もう来てるだろう。多分図面みながら突入の計画たててると思う。

…多分夜になってから学校の電源を落として、スタングレネード撃ち込んで来てから、

屋上と一階と渡り廊下から突入…って感じだろうな」

僕は以前に調べた立てこもり事件の顛末を思い出して言った。


「狙撃はどうだと思う?」



「恐らくない。

…さっきの件で中に警官が居てこっちの状況を全て把握してなければね…まず無理だろうけど。


犯人の人数が解らない以上、もし犯人を一人撃てば残りの犯人は逆上して人質に乱射するかもしれないからな」



「…あたしにはさっぱり解らないわ」

クーがお手上げのポーズをしてみせた。


「…唯一解ったのは電気停められたら警察が入って来るって事だけ。…どうするの?」


「ああ。それは考えがあるから大丈夫。警察は絶対電気停められないんだ。次の電話で話するよ。…一旦みんなで会議したいんだ。二階に行こう。」




人質を見張らなきゃならないから二階廊下で話をするしかない。


廊下の端にに5人で集まる。


ヨシの話ではトイレ行脚も終わった様だ。


「これからの事を相談したい。」


「何をだ?」

ヨシが言う。


「さっき警察の妨害でマスコミとの接触に失敗してるんだ。次は失敗できない。」


「何人か見せしめを出せば?

俺たちをバカにするとこうなるぞって。

何人か撃ったらいいんじゃないか?」

と友田



「気持ちは解るけど、それは短絡的で安易過ぎるだろ。

警察には僕らがそうするかもしれないと思わせておいた方がいいよ」

まーく


「ぬるいよっ!元はあいつ等に罰を与えるのが目的だろ!撃って見せしめにしたらいいんだ。一石二鳥だろ!」


友田が真っ赤な顔をして力説する。


「友田、落ち着けよ」

まーくが冷静に言う。



「マスコミに対して何を言うんだよ?もう犯行動機はネットで流してるしさ。それ以上必要か?」

ヨシ


「…映像が必要かなって思うんだよ。映像になればその映像は僕らが居なくなっても、これから先、一人歩きしてくれる。

世間はいじめに対する話をする時必ず画像を思い出す。」


「…そうかな…敢えてこのまま膠着させといて…」まーくが話してる途中でガラスが割れる音がして廊下に破片が散らばった。

外からじゃない。

教室側からだ。


Cクラスっ。


銃を持って走る。

廊下の真ん中で倒れてる武田が邪魔だ。


Bクラスの辺りに着いた時、ドアが開き、人が転がる様に出てきた。

南と柴田だ。


南はまだ後ろで手が固定されているが柴田はフリーだ。

タイラップが取れたのか?


「止まれっ!」

僕が怒鳴ると殆ど同時ヨシが発砲した。

散弾が飛び散るのが解った。


廊下の床の一部に剣山で擦った様な痕が付いたのが見えた。


それとほぼ同時に柴田がつんのめる様に倒れ、南はバランスを崩して消火器にぶつかって転んだ。


「いてぇー!いてぇよおー!」

柴田は脚を抱えて転がる。

廊下には血の跡がある

弾が当たったんだ。

起き上がろうとした南は痛がる柴田を見てガタガタと震えてる。

南は怪我はないみたいだ。

まーくが暴れる柴田のズボンの下を捲る。

5ミリ位の黒い穴が幾つか開いてそこから血が出ている。


何があったんだ?


僕はCクラスに入った。

教室の前の2人を繋いでいた机の下にライターと溶けたタイラップが落ちていた。

…タイラップは熱に弱いんだ。


僕は銃を腰で構えて言った。


「撃つと言ったのに逃げるから撃ちました。さて…誰が二人の手伝いをしたのかな?」


「…」


誰も反応がない。


「南か柴田が誰かにやらせたんだろ?」


水をうった様に静かな教室の中


「私です!」

稟とした声が響いた


集団の中からメガネを掛けた痩せた女の子が一歩前に出て言った。


「みんなで話し合いしたの。あの二人が友田くんをいじめた相手なんでしょ?その二人が居なければ私たちには関係ないわよね?

だから落ちてたライターを渡したわ。そして出て行くように言ったのよ!」


「…理路整然としてるな…と言わせたいんだろうけど間違えてるよ。」


「何がよ?」

不満そうに聞いてくる


「今まで何ヶ月も見て見ぬ振りをしたのだから同罪だろ?」


「…」


「君たちは友田が殴られてる時、どうしてたんだ?なぜ助けなかった?」


「…じゃあ、あなたはあの2人に関わって、ややこしい事に巻き込まれてもいいわけ?」


「…」


「五人の人がいたら一人は嫌いな人がいるって言うわ。でもいちいちそんな嫌いな人に突っかかって行く様な人に意見して通じると思う?

虐められてる姿を見て何も思わなかった訳じゃない。何か言えば自分に矛先が向くのが解ってるのに何ができるって言うのよ!」


調子に乗って言いたい放題だな。


「そんな事は解ってるんだよ、お利口さん。だから何が自分たちにできたのか考えてくれって言ったんだ。誰も当事者を逃がせとは言ってない。」


僕がそう言うと相手は少し膨れてちょっと黙った。


確かに当たらず障らず、適当に相槌打っておけば被害は少ない。被害者をわざわざ増やさなくてもいいだろう。

でも、見て見ぬ振りが虐めを増長してるのは確かなんだ。



「に、逃がした訳じゃないわ。私たちクラスの『いなければいいのに』という気持ちとあの二人の『逃げたい』という意見が一致しただけよ。当事者が居なくても話はできるわ」


散弾銃の銃口を目の前にこれだけ話せるってスゴいな。僕は正直、その方に感心したよ。


「じゃあ話をして貰おうか。ちゃんと答えを出さないと君に責任を取ってもらうからね。」


そう言うと急に青くなったよ。

感情に任せて話すとロクな事にならないって解ったかな?


僕は廊下に出た。



今の事で一つ心に決めた事があった。


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