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僕らの革命 【改訂版】  作者: 片山 碧
12/45

12時

携帯電話の電源を入れた途端に着信ランプが点きっぱなしになった。


そろそろ、出てみるか…。


『…蒲生清くん…だね?』

電話に出たのが意外だったような反応だ。


「はい。あなたは?」


『警視庁の吉岡という者だ。けが人はいないか?』


「…今のところは。ちょっと今は忙しいから。」


僕はそれだけ言って電源を落とした。


長時間の会話は危険だ。相手のペースに乗らない様にしなくては…。






さっき、まーくとクーに頼んだサイトを確認する。




《9月革命》

白く明るい画面に赤い文字で書いてある。


下に僕がクーに渡した文章が載っている。




《理由もなく単にフラストレーションのはけ口として苛められている者の代表として、皆の怒りと恨みをここに行動として表します。


これはいじめを行う者、見て見ぬ振りをした者、止める力があるのに放置した者への単なる復讐が理由ではありません。


この行動で皆がいじめに対してもっと真剣に考えてくれる事を希望します。


これから我々がとる行動は今後のいじめに対しての何かの変革ができる、いや、この行動で改革しなければならないと考えています。


極力暴力は使いたくないと思いますが人質は元より、周辺の方や警察の出方によっては最悪の事態を招く可能性もあります。。


武器は豊富にあります。


決して冗談やはったりでない事は解放された人達の話で解ってると思います。


これからの我々の要求に素直に正直に応えてくれる事を希望します。


意見があれば下記に記入してください。ただ、警察も監視してる筈ですので訳の解らない文章や意味のない書き込みは捜査妨害になる可能性がある事を警告しておきます》


…うん いいかな。


下には僕の苛められた写真や友田が脅されてる音声がアップしてあり、その下には意見が書き込める様になっている。



「上出来だよ。」

まーくからURLの書いてある紙を受け取った。


まーくに同じ内容を、幾つか違う会社のレンタル掲示板に作成してもらう。


写真を出すのは本当は嫌なんだ。…だけど仕方ない。現状を知ってもらわなくちゃな…





調整機器室にはテレビがある。

クーに言ってスイッチを入れる。

ヘリからの空撮の画面が写る。この校舎だ。


さっき窓から見た様に学校の周りには沢山の警察の車両が赤いライトを点滅させて停まり、その隙間を青い制服警官や銀色の盾を持った機動隊の姿が見える。


少し離れた所にはパラボラアンテナを挙げた中継車が何台も見える。


学校をぐるりと取り囲む様に様々な車両や人が集まっているが、今のところ中には入っていない様だ。


チャンネルを変えてもどの局も似たような画面ばかりだ。


教育局と民放の某局だけがお昼の通常番組をしていたが字幕で《高校立てこもり事件以前膠着状態続く》とテロップを流していた。


お膳立てはできた。


「さぁ始めようか」


クーがうなづいた。




クーにテレビのウォッチングを頼んだ。


マスコミはこういう場合には役にたつ。


世間の知りたいと言う要求は僕ら対象においても同じだ。

特に僕らには外の情報は多ければ多いほど有利になる。


それにマスコミの論調から僕らが世間にどう思われているのかの判断もできる。


元警視庁警視、弁護士、児童心理の先生…コメンテーターとしてあらゆる専門家が僕についての分析や警察の動きを逐一話してくれる。


僕らがテレビを観ているとは思ってないのだろうか。


少し見ていて解ったのだけど、情報が錯綜しているみたいだ。

本来、立てこもり事件は報道は控えられる事が多いのだけど、今回は人質の人数が多く、学校立てこもりという事態だからか、各局挙って報道している。


怪我人が多数いるとか、中東のテロリストだとか、僕ら犯人グループが20人だという局まで現れた。


情報の錯綜と言うより捏造だ。マスコミはいい加減なんだということも、これをテレビで観て事実だと思う視聴者もいるんだろうなとも、僕自身もマスコミ情報を過信しない様にしないといけないとも思った。



…でも僕はマスコミを利用するつもりなんだ。




携帯の電源を入れる。


着信が入った途端に出る。

相手が話し始める前に話す。


「警視庁の吉岡さんを出してください。今後は吉岡さんとだけしか話しません。」


相手は何か言いたそうだったけど、何も言わずしばらく沈黙が続いた。


二分位経った頃、ボソボソと話し声の後、繋がった。


『吉岡だ。指名かい?』


「はい。」


『光栄だな。で、何でそんな事をしてるんだい?』


「要求があるからです。」


『うん。そうだろうね。で、要求は?』


「とりあえず三つあります。」


『多いな。二つにしてくれよ』


「…いいですよ。ではまず二つ聞いてください。

一つはこれから言うサイトをマスコミに公表してください。どちらのサイトも閲覧制限をしないこと。もう一つは民放テレビ局の代表を一社決めておいてください。

難しい事では無いですよね?


この二つを10分以内にお願いします。5分遅れる毎に一人づつ撃ちます。URLは……」


僕は《A高校裏サイト》と《9月革命》のURLを伝えた。


『解った。ちなみにあと一つ要求があったな?それは何だったんだ?』


「人質たちの食事ですよ。でも要求は削られたからお昼は抜きですね」


僕はそう言って電源を切った。




サイは投げられた。


警察はどういう対処をとるだろう…まずは言うことを聞いて、その見返りに人質の解放をしろって言ってくる…なんだかんだと言って要求には一切応じないか…


警察の対応は普通なら一切の取引に応じないと言うのがセオリーなんだろうけど、どうだろう?


今回は普通とは違う。

・人質の数が多い。

・武器は火器を含む多数。

・僕ら犯人は複数で少なくとも交渉してるのは未成年。

・首謀者の顔も名前も解ってる。



まーくに言ってサイトの閲覧数を見てもらう。

要求を呑んだなら閲覧数が上がるはずだ。


10分過ぎる頃、まずはテレビが一斉にURLの情報を流し始めた。



それと呼応する様に閲覧数が恐ろしい勢いで増えはじめた。


多分すぐにこのサーバーはパンクするだろう。


それはそれで仕方ない。


解ってた。


だからまーくに同じ文面、構成のサイトを違う会社のレンタル掲示板のいくつかに作って貰ったんだ。

《9月革命》と検索すればどこかで引っかかるはずだ。 《A高校裏サイト》は他の掲示板を作りたくても手がない。


…だから《9月革命》に僕の画像をアップしたんだ。


…要求呑んだんだな。


僕は凄く冷静だった。


要求から15分後、携帯の電源を入れる。


さっきと同じ番号から電話が掛かって来た。


「吉岡さん、民放は決まりましたか?」


『ああ。テレビジャパンがやるらしい。』


「解りました」


『なんだ?会見でもするのか?』


「どうですかね?」


『そろそろこっちの要求を言ってもいいか?』


「人質の解放ですよね?いいですよ。では、ひとクラス解放しますよ」


僕は電源を切って裏門を半分開けた。

ヨシにトランシーバーでDクラスを解放する様に指示した。


二階から走る足音が聞こえてきた。

威嚇の為にヨシが発砲して走るのを煽っているのも聞こえる。



テレビの空撮の映像を見てDクラスの最後の一人の生徒が出るのを確認してから門を閉める。

校外に出た元人質達は警官や救急隊に囲まれる様にして画面の外に消えていく。

籠から出された鳥みたいだ。


他局では走り出て来る人質達を地上から撮影していた。

泣いている生徒もいる。


彼らの情報は音だけだったから事情を聴かれても解らないだろう。

犯人は何人だったか?とか。

校内の様子とか。



警察と世間に僕らの出方を知らせる為にも最初にある程度の人数解放は必要だったんだ。


僕らとの約束を守れば、僕らもちゃんと約束を守るという事。

…伝わればいいけど。



その時イヤホンからヨシの声がした。

『ガモ、ちょっと来てくれ』



なんだか嫌な予感がしたんだ。



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