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僕らの革命 【改訂版】  作者: 片山 碧
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最初








どこから話しようか…



話はあまり得意じゃないんだ。












僕には夢があった。


幼稚園の頃から将来、絶対にある職業につきたいと思ってたんだ。


周りの同級生はサッカー選手とか、パイロットになりたいと言うのが多い中で、僕の夢はあまりに具体的すぎて、先生からは苦笑いしながら『他の仕事とかは興味ない?』と念を推して聞かれる程だったんだ。


そう簡単にはなれない職業で夢だったんだよ。



でも僕には目標だったから。


それになる為の努力は惜しまず、他の事は犠牲にしたんだ。

例えば漫画だとか、連休の遊びに行くこととか、日曜日の寝坊とかさ。


でも、勉強ばかりじゃなく友達もスポーツも大事にしたよ。

…おかげで中学までは成績もトップクラスだったし、スポーツは一通りはできたんだ。



先生からはいつも誉められ、周りから不良と云われてた輩達にも一目置かれていたし、そんなグレた友達も何人もいた。


クラスでは人気者だったし、中学三年では生徒会長もした。


いつも友達に囲まれてたよ。


プライベートでも安泰だった。両親にも信頼されてたし、彼女もいた。



小学校の時から週に5日は塾に通って、週末はスイミングスクールとサッカー教室。

ちなみに水泳は選手養成クラスでサッカーはフォアードでレギュラー。


毎日深夜まで勉強。

疲れ果てて机で突っ伏して寝ちゃう事もしばしばあったよ


だからテレビとか観る時間無いし、遊びなんかも解らなくてさ。

友達のテレビやゲームの話には全く付いて行けなかったね。

でも寂しくはなかったよ。



周りには沢山友人がいたからね。



何の心配も苦労もなかった。








そう…高校に入るまではね。





高校は近隣でも有名な進学校に進んだ。


街でもその学校の制服を見るだけで「格好いいよねー」とか言われる学校だよ。



僕も両親も初めからこのA高校に行くつもりだったから当たり前と言えば当たり前だったんだけどね。


受験は考えてたより易しかったよ。ああ、こんな物かと思うくらいさ。

勿論、人知れず同年代の人の何倍も努力をして沢山の他の犠牲を払ったんだからと思うんだけどね。


こんな言い方すると嫌な奴みたいに聞こえるよね。でも嫌みとか自慢じゃないんだ。


当時は本当にそう思ったんだよ。


入学して最初の学力試験は1位。

最初だから気合いも入れたんだけど、そんなに難しくは感じなかった。


バタバタした数ヶ月を経て中間テストは4位。


その後の実力テスト38位。


業者テスト150位。


成績は急降下した。先生は心配し、親は驚き悲しんだ。


「学校で何かあったのか?」と何度も聞かれたけど何もないと応えたよ。





理由は簡単。



いじめが始まったからさ。







最初の試験で1位を穫ってからのある朝、学校行ったら上履きが無かったんだ。



後からビリビリに裂かれた状態でゴミ箱に捨ててあったのが見つかった。


翌日には机にマジックで『死ね』『学校辞めろ』とか沢山書かれていた。

ロッカーには女子の生理用品が入っていた。



分かり易いイタズラだ。


更に翌日には置いて帰った参考書に『死ね』とびっしり書き込まれてた。


昼には弁当が無い事に気付いた。蓋を開けてゴミ箱に捨ててあった。



毎日何かしらのイタズラは続いた。

クラスのみんなは最初にイタズラがあった日から誰も近付かなくなり、口を利かなくなった。


露骨に無視されるのが始まった。流石にこれには堪えたよ。


中学までは人気者だったからね。


いたずらは日々悪化していったんだ。


ある日先生に職員室に喚ばれたんだ。


「なぁ、蒲生、お前クラスのみんなに嫌がらせしてるらしいな。何人からも苦情来てるぞ」


…してる?

されてるんだけどな。



でも僕は何も言わなかった。


自分が苛められてる話をすればきっと報復が酷くなるから。



職員室に喚ばれた日の放課後、僕はクラスのみんなから言われて、みんなの前で土下座させられた。


「ごめんなさい。許して下さい」と言えと言われてさ。


屈辱だったよ。


しかも、先生、それ見て笑ったよね。僕忘れないよ。



その時解ったんだ。


武田という奴が僕を苛めてるリーダーだと。


何でもみんなが言うには、武田の親が会社の社長で金持ちな事を羨んで僕が陰湿な悪戯をしているという筋書きらしい。


最初は土下座なんてしたくないから抵抗したんだけどクラス中から罵声を浴びせられて、最後には抑えつけられて謝らされた。

悔しくて涙が出た。



その時の武田の顔が頭にこびり付いたんだ。


土下座をした僕を見てニヤリと笑ったんだ。



その日からは開き直った様にイジメは悪化した。


無視されたり教室で殴られる蹴られるは当たり前。

トイレの個室に閉じこめられて上から水を掛けられたり、体操服の背中が切り取られたり、モップで顔を拭かれたり…。


数学の教科書は無くなり(多分捨てられた)、ノートは引きちぎられて何ページも無くなり、参考書はマジックで真っ黒に塗られてた。



嫌がらせは家にも来た。




着払いの宅急便が届いた。

僕宛で。

何だかピンと来て母親には頼んでいた参考書が来たんだと嘘を言って部屋に持って上がった。箱の中には枯れた花と腐った猫の餌とマジックで黒い縁取りがしてある僕の写真。広告の裏に死ねと書いた紙。



深夜に鳴る電話も始まった。

家の電話が深夜に鳴る。出ると切れるか、親が出ると僕に代われという。僕が代わると切れる。

一晩に何度も掛かって来るんだ。


携帯なら電源落とせばいいんだけど家の固定電話はそうはいかない。

子機もあるんだけど先に親機が先に鳴るタイプだったし、親宛ての電話もあるかもしれないから音を消す訳にもいかないし。

鳴る度に親に迷惑かけるから薄暗い廊下の電話の横に座って朝まで起きてた事もある。



…こんな状態で勉強なんかできる訳ないよ。





流石に夜中の電話や成績の低下、何度も学校用具を買い直す事、腕や脚の青あざ… こんなのが続いて親に気付かれない訳ないよね。


ある日両親に問い詰められたんだ。


仕方ないから話したよ。


親は激怒した。

学校に電話入れたり、担任や学年主任に面会したりしてくれた。


…でもさ、体裁を取り繕う学校は認めなくてさ。

『苛められてる事実はない。』

『寧ろ他の生徒が迷惑している。』

『虚言癖がある。』

と言われて、逆にうちの教育と躾が悪いからだと言われたらしい。


親がクレームをつけた事が学校側から目を付けられる原因になって教師達は僕と関わりになる事を避け始めたんだ。


父親は『お前がツラいなら他の高校へ転校するか、辞めて大検受けたらいい』って言ってくれた。

だけど母親は『絶対負けるな。歯を食いしばって頑張れ、いつか苛めた奴らを見下してやる位になれ』ってスタンスだった。


父親と母親の喧嘩が増えたのはそれが原因だよ。

毎晩の様に喧嘩してた。

声が聞こえるたびに僕はツラかった。


僕がイジメなんかに逢わなければ二人の喧嘩なんか無かったのに。


だから極力、学校の事は両親にも話さない事に決めたんだ。


その代わりにノートに何かあれば書き込む事にしたんだ。


日付と内容と心境。


そうしたら毎日書き込む事になってさ、日記みたいになってたんだけどね。


毎日が苦しかった。

辛かった。

逃げ出したかったけど、耐えた。


不思議なんだけど死のうとかは思わなかった。


学校だって一日も遅刻も休みもしなかったよ。


だって、そうしたらあのニヤリと笑った武田に負けを認めた事になるじゃないか。



時間っていうのは、そんな日々でもちゃんと進むんだよね。

それが、とてもゆっくりとしていたとしてもさ。


そうして散々な期末テストの後に夏休みが始まったんだ。



夏休みに入ったら電話は急に来なくなった。


イジメも夏休みかな…



夏休みは予備校の夏期講習の予約もしてたんだけど行けなかった。


武田の手下の伊東と田頭が同じ予備校に通ってるから。

学校以外でまで苛められたくは無かったんだ。


部屋に閉じこもってテレビ観たり本読んだりして過ごしてた。


そんな時、中学時代に付き合ってた彼女から電話があった。

高校受験で忙しくなって別れてしまった。彼女は隣の市の女子校に進んだんだ。


会いたいって。


待ち合わせは隣の市のネットカフェ。


彼女の指定の店だ。


店で久しぶりに再会したのに何だか反応がおかしいんだ。


殆ど何も話をしないでブースに入ると彼女は慣れた手つきでパソコンを叩いてサイトに接続した。



ケバケバしい色合いの中に気持ちの悪い男の顔が浮かんできて上から刀みたいなのが落ちてきてその顔がパカッと割れる。


幼稚な造りなのか画面が荒れてるのが逆に気持ち悪さを増していた。


その、頭の割れ目から字が出てきた。


〔A高校裏サイト〕


…僕の学校だ。


裏サイトっていうのは聞いた事はあったけど見たのは初めてだ。


彼女は1ーAとあるバナーをクリックする。


…そこには僕の写真があった。細い目線は入っているが僕であることは一目瞭然だ。


土下座させられてる写真。 顔を踏まれてる写真。

顔にマジックで悪戯書きされた写真…


書き込まれた文に目をやる


『なぁ、あいつ予備校来てないけどタヒんだのかな?』


『マジ逝ってくれたらいいのに』


『終業式の日にさ、あいつの靴に死んだゴキブリ入れたのS君かな?』


『見た見たwww。

なんか凄い顔してたなーwww』


『匂いキツくて死んだという設定なんだが』


『夏休みで自宅にいると思うからエロDVD送ってやろうかな。透明なビニール袋でさ』


『てか貼り紙よくね?顔写真も載せてさ、失踪人って書いてさ。駅の横の過激派の手配書の横に並べてさ』


『テラワロスwwwww』


『まじあいつムカつくんだよ。早く辞めねぇかな』


……




髪の毛がザワザワと逆立ったのが解った。


「…由紀…ありがとう」



由紀は何か言ってたけど何も耳に入らなかった。



僕はすぐ家に帰った。


今まで検索位しか使ったことないパソコンを立ち上げる。


さっき見たサイトに接続する。


画面にはさっき見たニヤニヤ笑いの頭の割れた男が出て来た。


それから2日間、部屋に閉じこもってサイト内を全てチェックしたんだ。


自分の事だけでなく、他のクラスや先生のや…


自分のは全てプリントアウトして何度も読んだ。


…これで解った事。


…解っていた事だけど…


武田がリーダー。

伊東と田頭がサブ。


他に取り巻きは何人かいるけど、この3人が元凶だ。



書き込みに名前は無いから誰かの特定はできないけど、話の流れや内容からするとクラスの三分の一位が書き込みをしてるみたいだった。


みんなは、学校ではイジメを受けてる僕を見て笑い、帰ってからも僕の写真を見て笑ってたんだ…


自分の事が手一杯で知らなかったけど他のクラスの二人もイジメの対象になってた。


倉井さんと友田くん


うちの学年ばかりだ。



虐めて何が楽しいのか…





倉井さんは隣のクラスの女の子だ。


名前だけは知ってた。


1ーBの書き込みも酷いものだった。


Aクラスと違うのは書き込みに女が沢山参加してることだ。


画像に至っては明らかに加工してあった。ヌードの体の写真に倉井さんの顔がコラージュしてあるのも何枚もある。


ビンタされてたり、髪をハサミで切ろうとしてる写真まであった。


『倉井今日も暗い(´Д`)』


『陰気な妖気って言うか何だかあの子の周りだけ空気重いよね』


『ああいうのに限って淫乱なんだぉ』


『ダークヤリマンwwww』


酷い文字が並ぶ。


恐らく何の根拠もない誹謗中傷。

酷い。

この時は自分の事も忘れて頭にきたよ。


友田くんはCクラス。

学校で見た事があったような気がする。


太ってる。成績も良くはない様だ。


上半身裸で縄跳びの紐でぐるぐる巻きにされてる写真と『ボンレスハムwww』の文字


想像通り『豚』『臭い』『馬鹿』の文字が大量に書き込まれている。

一学期途中から学校には来ていない様だ。


『転校すんじゃね?』


『あの世に学校あんのかな』


『死んでやるとか言った日にはビビったよ』


『あいつの家の近くで最近見た』


『まだ居たんだ…この世に』



酷い話だよな…。



僕もこの二人も一緒だ。



イジメからの逃げ道はない。

暗くて深い危険な森に迷い込んだみたいだ。




…いつか抜け出せるんだろうか。

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