8話 絡む疑惑
地下基地の休憩所――
あのあと、レオンは腹が減ったと言って、帰り道に大量のハンバーガーを買っていた。
奈來といい、レオンといい、節度という言葉を知らないらしい。俺の腹はまだ未消化のキノコで満杯なので、残飯整理を頼まれてもお断りします。
雑談をしながらテーブルに着くと、ハンバーガーの匂いに誘われてどこからかラパがやってきた。
「リュカちんお帰りー! 良い匂いなのだー!」
当然、顔への張り付き対策は万全だ。スッとレオンを盾にする。
「ブハッ! な、なにが起こった……!」
レオンよ、ハンバーガーよりモフモフを味わえ。
「あれ? ラパ、奈來は?」
「サンドイッチ食べ過ぎて部屋で寝てるのだ。ん? リュカちんがもうひとり……」
「どけ! この妖怪もどきが!」
レオンは言ってラパを引き剥がす、だがラパに驚いている様子はない。これはもしかして、レオンもラパと面識があると考えたほうがよさそうだ。知らぬは俺ばかりなり……まあいいか。
「レオンはネコ系が嫌いか?」
「はい、オレはイヌ派なんで。特に大型犬が……リュカさんみたいな綺麗で可愛い大型犬が……」
ちょっと何を言ってるのかわからない。俺は中立派だけど、冥王の忠犬ケルベロスは苦手。
「あー! ラパをバカにした! リュカちんはラパのなのだ! リュカちんはネコ科なのだー!」
またいい加減な……俺はヒト科の亡霊種だよ。まあ確かに白虎はネコ科だけど。
と思っていると、突然レオンが席を立った。
「あ、オレは車に戻ってます、ボスに見つかると困るので、じゃあ」
「まあ待て、俺がお前をここへ連れてきたんだ、臆する必要はない」
さて、合同捜査の要が揃ったわけだが、そういえば忘れていた、佐伯の「小さな嘘」とは何に対してだろう。
人か、それとも物か、あるいはその両方か。あまりにも情報が少な過ぎて考えが及ばない。推測や憶測はその場のアドリブでしかない、些細なことでもいい、確実な情報が欲しいところだ。
「あ〜、リュカちんがまたひとり世界してるー」
おっと、つい考えに耽ってしまった、俺の悪い癖だ――騎士団長だった頃はあれこれ戦略を考えるのが普通だったからな、今もその癖が抜けないでいる。
「ラパ、ちょっと奈來を起こしてきてくれる?」
膨れっ面をして面倒くさそうにラパが応える。
「え〜、フガフガうるさいからヤダ」
「じゃあ、踏んづけても蹴飛ばしても良いよ」
「――わかった、引っ掻いて起こすのだー!」
「目立たないところにね、よろしくー」
しばらくしてラパが戻ってきた、尽かさず手を洗ってハンバーガーを頬張る。
後から奈來が匍匐前進で床を這ってきた。おそらく被害は尻、目立たないけど逆に動作が奇妙で目立つ、やれやれ。
「奈來、さっそくだが情報を聞かせてくれ」
奈來は涙目で椅子に座る――
「リュカ、ラパに起こし方の教育をしろ」
「了解した。それで?」
「……佐伯の詳しい情報がわかった。彼は偽名を使ってネットオークションに参加していたらしく、落札金を使って会社を設立する準備をしていたようだ」
オークションか、佐伯は有名な創作者、企業にも名は知れているはず。
資金調達のためだけにオークションに参加したのであれば、偽名のほうが何かと都合が良かった、就職の前か後かは定かではないが。
奈來が話を続ける――
「それと、佐伯の葬儀の喪主は女性で、付添いも参列者も断ったそうだ。その女性は佐伯と名乗り、打ち合わせから葬儀代まで全て請け負ったと、葬儀会社の従業員が語ってくれたという」
「う〜ん、でも身上書には身内も婚歴も無かったと思うが」
「ああ、そこなんだよな……」
そうなると、佐伯が偽名を使った意図は他にあると考えたほうが良さそうだ。
もしも、その女性が佐伯の妻だったと仮定して、「伝言」の"小さな嘘"と女性の繋がりはあるのか、ないのか――
あれこれ考えても仕方がない、機械に疎い俺は敵のアジトを探りに、ネットオークションと玩具メーカーは奈來に任せるとしよう。
「なあ奈來、ここからはお互い得意分野で捜査しないか? 時間は有効活用しないとな」
俺の言い方が癇に障ったのか、奈來は威嚇するような眼で訴える。
「――ほう、お前は無敵だから余裕で敵地へか、俺らは完全防備の室内でハイテク機能相手に検索しろと、おい、軍警を舐めてんのか?」
「ああ? 生身のお前らには限界があるだろ、だからお得意の機能とやらで情報を集めろって言ってんだよ。お前、俺にケンカ売ってんのか?」
「「むむむ!」」
そこへ無鉄砲なレオンが割って入る。
「まあまあ、お互い様ということで……」
「「お前が言うな!」」
凹むレオンを慰めるラパ。そんなふたりを前に、奈來は大きく溜め息吐く。
「ハァァァ……別にケンカを売ってるわけじゃない、無敵なお前を見ていると、俺らは小っぽけな存在だって思い知らされるんだ、悪かったな……」
部下の前で頭を下げる奈來――俺は団長として、部下に弱い自分を見せることは決してなかった。
戦乱の中、弱音や愚痴は団員の士気を下げる行為で敗北に繋がる。王国に支える身として敗北は許されない厳しい時代だった。
でも今の時代、自分の思いを素直に言える者のほうが価値があるのかもしれない。
不要な圧力は逆効果というべきか。時代を歩く者として、俺も考えを改めたほうが良いのだろう。
「俺も言葉が足りなかった、お前が優秀なのは知ってる、ほらあれだ、適材適所ってやつさ。まあここを自分の書斎だと思って自由に使ってくれ、とにかく俺は敵を探りに行く。奈來、後は頼んだぞ」
「……了解した、情報収集は任せろ」
俺が席を立つと、ラパは状況を察したのか、勢いよくフードに飛び込んできた。
「さあリュカちん、ラパと仕事なのだー!」
いつも通りを装ってくれるラパ、有難い存在だ。ちょっと邪険にして悪かったな、もう少し優しくしてやろう。しつけは別の話だけど――




