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7話 倉庫街のボス


 俺はフードを目深に被り、レオンはサングラスを掛けて、ふたりでゆっくりと近づいた。


「なあ君たち、ちょっと尋ねたいんだが」


 若者達が一斉に振り向く。


「なんだお前、どっから入ってきた!」

「いえね、近くで騒ぎがあって、逃げていたら道に迷ってしまったんだよ」


 そう言うと、彼らは集まってヒソヒソと話す。すると(おもむろ)にナイフを(かざ)威嚇(いかく)を始めた。


「迷ったんだよな? ならあの世に送ってやるよ」


 若者たちがニヤついた顔で(にじ)り寄る。レオンはニヤリと笑って微動だにしない。


「そうイキがるな、オレらは怪しい者じゃない」


 いや、十分に怪しいと思うよ。


「はあ? どう見たって怪しいだろ、何者だ?」


 だよね、だからってあの世に送るのはどうかと思う、俺はあの世の者だから別にいいけど。


 そこへ若者の背後から野太い声が発せられた。

 

「やめろ、怪しいのは俺らも同じだ。その金髪の兄さんは軍警さんだな、で、俺らに何の用だ?」


 声の主はあのバイクに乗った人物だった。若者達が一斉に(ひざまず)く。

 そこらの(やから)とは違う雰囲気で、車からでは気づかなかったが、頬に大きな傷を持つ浅黒い肌の粋な男だ。


「ボス、こいつが騒ぎがどうとかって聞いてきたんで、黙らせてやろうかと」


 この集団の首領か、同じボスでも奈來とはだいぶ違うな。


「まあ待て、お前らが太刀打(たちう)ちできる相手じゃない。まずは話しを聞こうか」

 

 ボスは値踏みするかの様に俺を眺めながら言う。


「ちょっと迷ってしまってね」

「ほう、ならモール街でも迷って暴れたか?」


 なるほど、あの現場を見られていた、おそらくこのボスが見回っていたんだろう。

 知られついでだ、少し揺さぶってみよう――


「フッ、なんだ、手を貸してくれたら良かったのに。もしかして、お宅らの獲物だったか?」


 ボスは(あご)無精髭(ぶしょうひげ)を撫でながら応える。


「そうだなあ、獲物には違いないが、少し意味が違う。この倉庫街は俺の縄張り、当然だが貸倉庫もあるわけだ、客を選んでる余裕はないんでね」

「なら近くのガレージも余所者(よそもの)に貸しているとか?」


 ボスの眉がピクリと動いた。どうやら余所者を知っていて隠している、といったところか。


「お互い詮索はやめようや。それより、軍警さんが見回りとは大層なこって。お偉いさんはどうした、目的は何だ?」


 どうやら奈來と面識があるようだ。だがレオンは軍警と接点はないと言った、なら私的な問題に関与するつもりはない。

 でもレオンは何か言いたげに身を乗り出す。


「ボスは関係ないし目的なんかねぇよ、オレに手を貸したのはあの子供達のためか? 縄張りならもっと見張りを付けろ、無防備にも程がある」


 なんだ、喧嘩でも始めるのかと思ったら説教とはな、まあ子供を思ってのことなんだろうが、もっとソフトに言おうよ。


「――ハァ、もういい、失せろ」


 ほらみろ、ヘソを曲げてしまったぞ。だが俺にはまだ聞きたいことがある。


「退散はするよ、でもその前に、フィギュアのネット販売について何か思い当たることはないか?」


「ネット販売?」


 と言いながら俺のソードに目をやる。


「いやなにね、襲われたとき、ぬいぐるみやら剣やらと聞かれたんで、何か知ってるかと思ってさ」


 ボスは平然とした様子で話す。


「そんなことか。コレクターにとっちゃ年代物は貴重品だ、それが曰く付きなら尚更さ。では逆に聞こう、お前の()()は本物か?」


 剣はいつの時代でも貴重な代物だ。だが問題はそこじゃない、曰く付きとは話すぬいぐるみのことなのかだ。


「まあ一応な。ならもうひとつ、佐伯というフィギュアの創作者を知っているか?」


 一瞬ボスが目線をそらした、だが直ぐ呆れたように苦笑いで応える。


「お前、マジで聞いてんのか? フィギュア界で佐伯といえば有名人だ。言っとくが、俺はフィギュアなんかに興味はない、ただ、客の中に熱烈なファンはいるけどな。おっと、お喋りが過ぎちまった」


 まるで倉庫を探せと言っているように聞こえるが、これ以上深入りすると角が立ちそうだ、ここはいったん引き下がろう。


「そうか、ではそろそろ退散するとしよう」

「フッ、また会うことも無きにしも非ずだ、俺は大河(たいが)・フェルモントだ、じゃあな」


 自ら名乗るということは、名乗っていけと言いたいのだろう、仕方ない、礼儀だ。


「俺はリュカ・アークスだ。あまり広めないでもらおう」

「オレは依澄レオンだ。同じく拡散拒否で」

「いいだろう、さっさと行け」


 俺たちが(きびす)を返すと、背後で手下が声を荒げる。


「ボス! このまま帰していいんですか! 奴を()っちまえば金目の物が手に入ったかもしれませんぜ!」

「バカ野郎! 俺らは強盗でも物乞いでもない、御託を並べてないでしっかり見張ってろ」


 俺はゆるりと歩きながら話の内容に聴き入った。ギャングといえど、それなりに苦労してるようだ、

なら――


「おい、そこの若僧、ほら情報料だ。悪いがまたくるからな、そのときはよろしく、じゃあな」


 俺はそう言って、無限袋から紙幣を1束掴み、若僧の(ふところ)にねじり込んだ。リベート的なあれだ。

 若僧は満面の笑みで嬉しそうに札束を受け取る、ボスは呆れた顔で俺に手を振る。

 

 あの大河という男、ギャングというより自衛団に近い考えを持っている。昔のギャングといえば、敵あらば抹殺が当たり前だったのだが。

 時代の流れか、複雑な世の中になったものだ。


 俺達は倉庫街を抜け、車で他の地域へ向かって走る。そういえばと、レオンに話を振る。


「なあレオン、奴はネット販売やコレクターに詳しいようだったが、事件に関係あると思うか?」

「んー、その辺はオレにもわかりません。ただ奴の倉庫を利用する客に一般人はいないかと」


 それとなく敵を匂わすレオン。このままレオンと合同捜査もいいが、その前に、やはり奈來とラパが心配なので、いったん地下基地(ジオ・フロント)へ戻ろう。

 

 あ、レオンはラパを知っているだろか、まあどうでもいいか――


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