5話 敵の正体
勢いよく出て行ったラパが早くも奈來を連れて戻ってきた。どうやら自分専用の通路を確保したようだ、流石はネコ。
「おはようリュカ、良く眠れたかってお前……ローブがないと普通のイケメン野郎だな」
いきなり何なのだ――
「リュカちんは覚醒したのだ! 凄いのだ!」
そんな単細胞のラパを愛おしげに見る奈來は、持参してきたビニール袋をテーブルに置き、大量のサンドイッチを取り出して喉を鳴らす。
「腹が減っては何とやらだ、お前らの分もあるから好きな物を選んで食え。それとほら、報告書だ」
奈來はそういってポンっと紙をテーブルの上に置いた――
――駐輪場爆破事件――
被害者の男は内臓破裂と全身打撲で死亡。仕掛けられた爆弾は盗難品、同時刻の目撃者は不明、通報者は爆破の音を聴いた某会社の寮に勤務する警備員。容疑者の特定には未だ及ばず、爆弾テロ、怨恨の両面で捜査中――
それともう一枚、身上書と書かれた紙だ――
佐伯匡孝 享年25才。
玩具メーカーに勤める会社員。
両親は既に他界。親族、婚歴無し。
趣味はフィギュアの創作。
コレクターの間では神と崇められた存在。
会社の寮で生活し、爆破事件にて没――
この身上書で気になった事がある、勤め先と趣味のフィギュアだ。奈來の話だとフィギュアとはアニメやゲームのキャラクターで、人形やぬいぐるみとして人気の高い商品だとか。
だが俺の着目点はちょっと違う、佐伯という男が人形の創作者というところだ。魔術師も傀儡の創作者、全く関係がないとは言い切れない。
それと、あの「伝言」に人形というワードがある限り、無視はできないだろう。
考えすぎかもしれないが、いろいろ面倒そうな事件には違いない。
「それで、わざわざ飯を食いに来たわけじゃないだろ、おい、聞いてるのか?」
と、奈來に目を向けると、親切にサンドイッチをちぎってラパに与えている。緊張感のない人間と猫、怒りを通り越して呆れる。
「いいなあ、俺もこんな小動物が欲しいなあ〜」
奈來が気持ち悪いほどの笑顔でにんまりと言う。なんだろう、この失望感……そうだ、奈來をラパの世話係として任命しよう、この際、地下基地に常駐させても良い。ここなら全てフルオート、独身貴族にはおいしい話に違いない。
「うんうん、わかるよ、今から君を地下基地でラパの世話係に任命しよう、良いよね?」
「世話係? 良いのか? おう、任された!」
随分と軽々しく返答するものだ、軍警はそうとう暇らしい。だが俺としは好都合、ラパは敵から狙われている可能性が高い、俺が連れ歩くよりは大人しく留守番がラパのためだ。
任務成功にはリスクも無駄も最小限が基本だ。
ではその可能性を確かめにいくか――
「さてと奈來、後はラパと話してくれ、じゃあ」
「えっ? ちょっと待ってくれよ、そう俺を邪険にするなって」
別に邪険にしているつもりはないが、馴れ合うつもりもない。とはいえ、俺の正体を知る数少ない人間ではある、ここは大人しく従っておくか。
「俺と話しがしたいってことか?」
「当然だ、仕事の話しなんだからな。この事件は意図的に仕組まれた殺害だと俺は思っている」
奈來も被害者の死に疑問を持っている、ちょっと考えれば事故ではないと気づく事件だ。
あの時間帯で無人の駐輪場を爆破させる意味とは何か。ただの嫌がらせ、まあ、あり得なくはないが、もし、警備員のいた建物が佐伯の住む寮で、他の住人が犯人の一味だとしたらどうだろう。
つまり、これは被害者がその時間に通ることを知る人物の犯行、目撃者無しといった偽りの報告、すなわち、内部に犯人がいるってことだ。
おそらく奈來もそのことに気づいた。
「なあ奈來、お前も内部に犯人がいると?」
「フッ、考えていることは一緒か」
「それで、捜査は進んでいるのか?」
「爆弾テロも踏まえて軍警にも話しは回ってきたが、そもそもこの手の事件は県警の管轄だ、捜査書類があるだけ有難く思えよ」
なるほど、軍警は管轄外だから捜査には介入できないってことか。わからなくもないが、敵の特徴を伝えれば何らかの情報は得られるはずだ。
「まあそう不貞腐れるな。ちょっと聞くが、奈來は黒帽子とエアバイクに心当たりはあるか?」
「黒帽子にバイクか……多分、回収屋のことだろう。個人で売り買いできるネット販売が人気なんだが、買い手は主に企業で、その品を会社に運ぶのが回収屋の仕事なんだよ」
俺が目撃したあの黒帽子の男達が回収屋、だがあのショッピングモールが会社とは到底おもえない。
「――なら黒いスーツと廃墟のショッピングモールはどうだ?」
「廃墟のショッピングモールだと? あそこは闇の組織が牛耳る地域で危険地帯だ」
やはり悪党の仕事場か、潰して正解だったな。
「その組織とは強盗の類いか?」
「いや、マフィア系の何でも屋だ。確か『漆黒のイントルーダー』だ、お前、何か知ってるな?」
イントルーダーか――侵入者という意味だが、ならあの黒帽子の男達は回収屋を装ったと考えるのが妥当か。
それより今は奈來だ、さて、どこまで話したらいいか――
そこへ、ラパがまた性懲りもなく口を挟む。
「あのね、ラパを人形って言った、リュカちんのソードも欲しいって、だからやっつけたのだ!」
こいつ、余計なことをペラペラとまあ……。
「ラパくん、情報は小出しにするのが基本だよ」
「わかった。奈來ちん、聞かなかったことで」
それを後の祭りというのだ。可愛いからってモフモフだからってなんでもかんでも許されると思うなよ、冥界に帰すぞ!
「あっ、だから昨日ふらっと帰ってきたのか、まさかあの大量殺人の現場に……大人しくしていろと言ったはずだ、お前は野良犬か!」
さっそく怒られてしまったぞ。
よし、小言が増える前に退散しよう。
「当たらずも遠からずだ。悪いがもう少し佐伯の情報を集めてくれ、俺は外の様子を見てくる」
「わかった、情報は部下に集めさせよう、俺は連絡が来るまでラパとここで待機してるよ」
ほう、やけに素直だな、相当ラパが気に入ったらしい。思う存分ラパを愛でるが良い――
「――あっそ。じゃあラパをよろしく」
俺は早々に地下から高速エレベーターで地上へと上がった。




