2話 特別指令
今度は魂が俺に寄り添い、《霧》で冥府へと戻った。
さっそく冥府の裁判神が、回収した魂から記憶を抹消し、そして妖精が魂を浄化して保管する。ここまでが一連の流れだ。
俺も死神の弟子として、随分と現世にも慣れてきた。ハイテクな機器や乗り物、娯楽でいえば音楽やテレビにゲーム、そしてなによりも、パソコンとか携帯とかに人々は依存し、殆どの情報を画面で得る時代。
俺は現状を目で見て感じるほうが実感も湧くし、情報で惑わされることもないと思うのだが……。
まあ「伝言」もある意味、不確定な情報には違いない。
数日後――
不機嫌そうに目を細めたマスターが、俺に冥府の裁判神に会えという。
俺が何か粗相をしたのかと聞くと、そうではなく仕事の話なんだとか。
なんだろう、きな臭い匂いがぷんぷんと……。
冥府の特別控室――
「やあ、裁判神、悪いが敬語は使わないよ」
「ああ、構わないよ。そういえばこの間、地上で事件に遭遇したそうだが、やはり『伝言』を?」
「爆破事件のことか、ああ、聞いたよ、酷い死に方だった……」
「そうか……リュカも大変だな。それはそうと、冥王から"特別指令"が下された。多忙な君にまた責務を頼んで悪いな」
特別指令――亡霊の俺だけに適用される指令、つまり地上へ行けということだ。
「地上ねえ……」
「今回はリュカのグレードアップも兼ねてだ」
「グレードアップ?」
「魂の案内にも慣れたと思うが、リュカには『伝言』とう仕事もある、冥王も今後の君に期待していろいろ考えているのさ。とにかく頼むよ」
難しいことはよくわからないが、要するに、世のため人のため冥界のために、増えすぎた悪魂の元凶を狩れということだ。
なるほど、マスターが渋い顔をしたのは、俺にこの仕事が回ってきたからだろう。
「『伝言』の捜査か」
「そういうことだ。しばらく滞在してもらうことになる。あっと、これを渡すようにと――」
そう言って裁判神が無限袋を差し出した。必要な物を自由に出し入れできる便利アイテムだ。
それと、「君には毒耐性があるから大丈夫だね」と謎の告知をされた。いったい何があるというのか、意味不明だ。
そして何やら俺をジロジロと眺めて言う。
「なあ、そのローブを着て行くのか? 確か全ての攻撃を無効化する不思議なローブと聞く」
「死神の正装だからな。しかもマスターが俺用に、ローブも透明化できるようにしてくれたんだ」
「ほう、死神もそうとうリュカを気に入ってるようだ。あ、それとな、ラパも補佐役として一緒だからそのつもりで」
今度は厄介者の押し付けか、別にラパが嫌いなわけじゃないが、自由奔放すぎて調子が狂う。
なのでここはやんわりとお断りしよう。
「なあ、別に俺だけでいいんじゃないか、マスターだって大変なんだし」
「実は、地上と合同で捜査することになったんだよ、だから君にも補佐役が必要だと思ってね」
「合同って、また奴とか……」
「地上でいちばん頼りになる男だ。それに、我々をよく知る者のほうがリュカも助かるだろ?」
「ハァ、わかったわかった、指令だったな」
まったく、次から次へと肝心なことを後回しに話すのはやめてもらいたい。
俺は今にも悪態を吐きそうな口にチャックをして、無限袋をベルトにぶら下げ、ソードを剣帯に差し、踵を返し一歩足を踏み出すと、ドアが勢いよく開き、裁判神の従者達が押し寄せてきた。
「リュカ様! どうかくれぐれも無事のご帰還と、お困り事やご要望あらば我ら親衛隊が飛んで参りますゆえ、ご遠慮なく!」
親衛隊? ちょっと何いってるかわからないが、いちおう応援ということで――
「……あ、ありがとう、では行ってくる」
俺は熱い視線を背に《霧》を開く――
「《ナイト》」『承認』――
「もうリュカちん! ラパを忘れてるのだ!」
おっと、今のうちにと思ったんだが、流石は鼻の効く小動物、見つかってしまったぞ。
また顔に張り付かれる前にと、飛んでくるラパをわし摑み、フードに忍ばせていざ出発――
瞬時に地上界へ降り立つと、"地下基地"という所へ向かえとラパに言われた。どうやらいち早く下調べをしていたらしく、意外と丁寧に説明してくれた。
ここは都心にある隠れ家で、冥王が絶対領域を確立させた司令部だという。まずはフロント内を確認したいと言ったら、ラパが早く地上を見学しようと急かすので、仕方なく高速エレベーターに乗り地上へ向かう。
薄明りの差す扉を開いて表に出た。隠れ家は、廃墟となったビルの裏手にある、小さな納屋が玄関口だ。見渡せば高い塀と木々に囲まれ、いちおう立ち入り禁止区域になっているらしい。
石畳みを歩き道路に出ると、電子音と共にエアバイクが通り抜けて行った。運転していたのは、黒い帽子を被った男だ。
「あれは確か駐輪場にいた……」
俺は尽かさず民家の屋根に上がり、犯人と思しき男のバイクを追跡する。
そこへフードから罵声が飛ぶ。
「こらリュカちん! 走ったら落ちるのだ!」
聞かなかったことにして無視を決め込む――
「あっ、ラパを無視するなー!」
「喋ると舌噛むよ」
ということで、沈黙したラパと一緒にバイクを追う――




