1話 死神の仕事
俺はリュカ・アークス。師匠である死神をマスターと呼び、今は冥府が俺の住処だ。
俺は稀人、いわゆるファントムなのだが、ただの亡霊とは少し違う。それは俺が食べたキノコによって能力が備わったからだ。
ノーム爺さん曰く――
赤いキノコが〈力〉、紫が〈変化〉、白が〈創造〉なんだとか。あの白虎がまさに創造物、そして樹海の番人だった。
その番人を引き継いだ俺は創造物となった、つまり肉体を授かったわけだ。
そして〈変化〉の能力で、自由自在に《亡霊》として姿を消すこともできる。
まったく便利な体になったものだ、マスターが怪人と言ったのも納得できる。
しかも白虎の影響で、髪は銀髪、瞳は黒、動物では稀な白変種だ。
それはさておき、死神の仕事とは魂の案内人だ。俺みたいな亡霊にならないよう冥府へ送る役。
俺は稀人ゆえか、魂から伝言を託されるようになった。なので厄介にも、他方面から重宝される事もしばしば。まあ、こんな能力で役に立つなら、騎士のときより楽に感じる。
それと冥界に来た当初、冥王から《霧》という扉があると言われた。地上へ行く者が各自保有する扉で、冥府と地上を繋ぐ橋みたいなものだ。しかも暗号化されている。
俺は《ナイト》、マスターは《ホロウ》、簡単明瞭この上なくだ。
「お〜い、仕事に行くぞ〜」
おっと、麗しのマスターからお呼びが掛かった。何を隠そう、俺はマスターをこよなく愛する崇拝者である。あの骨ばった骨格といい、歩くとカタカタという足音、爛々と輝く瞳、透き通った低い声――ああ、スケルトン最高です。
「はーい、いま行きまーす!」
そこへ図々しくも、俺の前に飛んでくる厄介で面倒くさい奴が一匹――
「ひゃっほーリュカちん! 仕事だ、仕事!」
別に呼んだつもりはないんだが――
「ブホッ! だから、顔に張り付くなって何度いえば……ハァ、ラパも呼ばれたのかな?」
「そうなのだ、ラパも認められたのだー!」
俺をリュカちんと呼ぶこいつの名はラパ。冥界の妖精で魂の管理人、なのだが、言葉を喋る猫というか、手の平サイズの小動物? みたいな生意気で奇妙な生き物だ。
ラパの言う認められたとは、おそらく魂の回収を手伝ったとき、マスターに褒められたことを認められたと捉えているんだと思う。
いちおう管理人なので魂の扱いは上手いが、だからといって認められたかどうかは別の話だと思うのだが……。
マスターがニコニコと上機嫌なので許そう。
「マスター、ラパも連れて行くのか?」
「まあそう邪険にするな。さて出発だ」
俺はマスターと同じ黒いローブを纏い、ラパをフードに忍ばせていざ出発――
「《ホロウ》」『承認』――
「《ナイト》」『承認』――
各自の《霧》が開く――
「マスター、目的地は?」
「今回は厄介な問題を抱えた小さな国だ、以前より状況が悪化しているらしい」
「――了解」
問題のない国など今の地球上にありはしない。俺はただ淡々と仕事をするだけだ。
「死神ちん、ラパも、ラパもー!」
マスターがフードを覗き応える。
「んー、ラパはそうだなあ、魂の判別をお願いしようかな。できるか?」
ラパが首を傾げる――
「えっと、色別?」
「そうだ、頼んだぞ」
「わかったのだ! 任せるのだ!」
色別とは、魂には2種ある。白く光る魂と、澱んで薄黒い魂だ。いわゆる善魂と悪魂、腸内環境かよ、と当初は思った。
当たり前だが完璧な人間などこの世には存在しない、どれだけ悪意を持って生きてきたかで決まるわけだ。
――――――
地上界は真夜中、暗闇の空間に《霧》が開く――
マスターがさっそく作業を始めた。大きく両手を広げ唱える。
『今宵、運命の死を遂げた魂よ集え』
そして大鎌を振るう――
今宵も大量の魂が集まってきた。ラパは松明の炎で魂を誘導する、俺もせっせと捕獲する。
以前は一人一人の体から魂を案内したものだが、いやはや、前世紀からやたらと死人が多くて困る。
なので俺達もつい、時間と労力の短縮化で流れ作業的な扱いになっている、慣れとは怖いな。
「死神ちん、こっちも白が多め、ヤバくない?」
ラパがうんざりとした顔で言う。
「――この国は戦争すら無いが、何かの闇に支配されているのだろう。困ったものだ……」
マスターが厭わしく呟く。白い魂が多いということは、悪が蔓延っているということだ。
そこへ地上から静けさを破り、爆音と燃え上がる炎が道路を埋めた。それは火の塊となった駐輪場だった。
マスターがさっそく俺に告げる。
「リュカ、様子を観てこい――」
「――わかった」
街路樹のてっぺんに降り立ち様子を窺う。どうやら近くを歩いていた男が爆発に巻き込まれ、外壁に叩き付けられた模様、座り込んだまま動かない。
次第に男は迫り来る豪火の熱風に押され、身体は地に伏し血溜まりの中、瞳は光を失いつつあった。
その様子を黒い帽子を被った何者かが、男のそばに近寄り顔を覗いて嘲ると、踵を返し立ち去った。
男は血の滴る唇を小刻みに何度も動かす。まもなく瞼は閉じられ、くちびるも動かなくなった。
俺は息絶えた亡者に寄り添い語りかける。
「随分と酷い死に方だ、俺は魂の案内人で伝言引受人だ。何か言いたいことがあったんだろ?」
亡者の胸に手を添え耳を傾ける――
「ほう、『小さな嘘と人形』か、これはまた奇妙な伝言だ。しかしたったそれだけでこの顛末とは、気の毒な奴だ。まあゆっくり眠れ、今から肉体と魂を分離する、《魂》」
俺が添えた手を離すと、白く光る魂が体からふっと浮かび上がった。
「ここからは空虚の魂だ、輪廻の時を待て。さあ案内しよう、冥界へ」
――時代は流れる、そして物語がある。戦争と平和、愛と憎しみ、出会いと別れ。
今では個々の欲望からくる妬み、故意なる責苦、自殺、虐殺が主流のようだ。
さて昔と今、とちらがどう良くて悪いのかなんて俺にはわからない、それこそ時代を生きた者たち次第なんだろう。
俺は死神で騎士で亡霊、これからも時代を歩く者。
そう"死神ナイトウォーカー"として――




