12話 恩恵
俺とラパはマスターの膝に座り、魔法と恩恵の説明を聞いた。
「ではリュカよ、神聖魔法とは癒す効果や治癒、それから聖者の防具への強化が主だ。だが我の魔法は根源を持つもの自体を消滅させる魔法なのだ。その役目を担うのがこの大鎌、戦いや狩りのときはこの大鎌に魔力を乗せるて使う、と言ったほうがわかりやすいか」
なるほど、案内人のときは魔力無し、戦いや狩りのときは魔力有り、救済と制裁の両刀か。
流石はマスター、俺とは次元が違う。
「やっぱりマスターは凄いなあ、俺も剣を使いこなせるように頑張るよ」
「うむ、その意気だ。それと魔法の恩恵だが、お前の想造魔法には属性がない、そこで四大精霊の属性である火、土、水、風を取り入れるようにしたのだ。わかるか?」
「んー、例えば?」
「そうだなあ、火の場合、炎を連想する物を攻撃に使う。例えば松明、人を木の棒とするならば、頭が突如発火し炎に焼かれる。攻撃が見えない分、驚異の魔法となるだろう」
言われて気づく驚異の想造魔法。そうだあのとき、お試して石飛礫を使ったが、突然どこからともなく弾丸のような石が降ってきたら、誰だって驚くだろう。
まるで天変地異みたいだ――
「――なんかさ、自然界の呪いみたいだよな」
「可笑しなことをいう、リュカが稀人となり、敵を倒すのと何ら変わらないと思うがな。何を躊躇う、攻撃は最大の防御だ、そうはいえ、お前は元人間、魂が震えることもあるだろう、だが我の弟子である以上、迷いは断たねばならん」
ああ、確かにそうだ、ついこの間まで平然と敵を倒していたじゃないか、何が呪いだ、俺自体が呪いみたいなもんだろ、今さら何に躊躇うことがあるというのか――しっかりしろよ俺。
マスターの言う通り、俺は亡霊であってもう人間じゃないんだ。
立ち直りかけた俺にラパが追撃を喰らわす。
「リュカちん、今さらなのだ。ラパは妖精で死神ちんは死の神でリュカちんは稀人なのだ。えっと、ことわるなのだ!」
ラパの陳腐な応えにマスターが苦笑いで言う。
「フッ、おいラパ、それをいうなら理の間違えだ。なあリュカよ、この世の理をねじ曲げることは不可能、お前は神に必要とされてこの世に蘇った稀人、己を信じろ」
そう言ってマスターがスッと4色に輝く指輪を差し出した。
「これは?」
「四大精霊の魔力が込められた指輪だ。常に精霊と共にあることを忘れるなよ」
「うん、忘れないよ……あのさ、これからもマスターと一緒に仕事ができる?」
俺がそういうと、ラパがマスターの肩に乗り、声を荒げて言う。
「こらリュカちん! 死神ちんとラパはリュカちんとずっと一緒が良いのだ! ずっとずっと決まってるのだー!」
流石は単細胞のラパくん、単刀直入が君の長所だ。俺も負けてはいられない、恥も外聞もかなぐり捨てようじゃあないか。
「よーし、ラパくん、俺ら死神親衛隊が旗を掲げる時がきた、何としても仕事の座は譲らない!」
「了解なのだ! 死神チームは負けないのだ!」
「「エイエイオー!」」
俺達のパフォーマンスが面白かったのか、マスターが大声で笑う。
「カッカッカ! 一致団結は良いが、死神チームではなく、我らは『伝言』討伐チームだ」
「えっ? 我らってどういうこと?」
「ん? 我もチームの一員だぞ、なんだ、裁判神から聞いてないのか?」
ええ、まったく全然これっぽっちも聞いてませんね。あの打ち合わせはなんだったのか、だが極上のサプライズを頂いたので良しとしよう。これで俺の負担も減る、と良いな。
それからああだこうだで、俺とラパが歓喜に踊る中、マスターによる副音声的な解説が流れた。
冥王による冥府の「特別指令」は、俺が少しでもマスターと釣り合うようにと、冥王が"六つの神託" を与えたという。
そして俺を完璧超人にするべく、冥府に小芝居を頼まれたらしい。嬉しいようなちょっと腹立たしいような、気分はこの上なく複雑だ。
そんな思いに耽っていると、木々の騒めきに辺りを見渡せば、もうどっぷりと闇夜の中。
マスターに風邪でも引かれてはと、急ぎ地下基地へ戻ろうと歩み始めたとき、マスターが訝しげに訊ねる。
「リュカよ、なぜ《霧》を使わんのだ? 目的地が定まっているなら使用可能だぞ」
「えっ、そうなの?!」
なんで俺はそういう重要なことを知らされていないのか……きっと冥王も知らない、絶対。
「フッフッフッ、ラパは知っていたのだ、リュカちんより物知りなのだ!」
こいつ……ならもっと早く言えよ!
「これこれ、そうリュカをいじめるな。ああそうだ、ラパにもローブを作ってきたぞ」
マスターがそう言って小さいローブを胸元から取り出した。
ラパは顔を紅葉させてローブを抱きしめる。
「ああ、死神ちんの温もりが、匂いが……」
う、羨ましい……。
「これでラパも身を守れる、ついでに透明化もできるようにもしておいた。このチームなら潜入捜査も容易いであろう。それでだ、我も地下基地に寝泊まりするのでよろしく頼む」
話を聞いた俺とラパはハイタッチで大喜び。するとラパが――
「じゃあ、チームのボスは死神ちんだ!」
と言うと、マスターは、
「いいかいラパ、このチームは皆がボスなんだ。それぞれが異なった能力と力を持つ、チームとはお互いを支え合う仲間なのだよ」
「んー、じゃあチームのボスは冥王様?」
「うん、その通りだ、良くできました」
ちょっと、ふたりで仲良し小良しとかやめてくれたまえ。なら俺も――
「ならマスターと俺は師弟関係だよね?」
「リュカは我の弟子であるが、弟子とは兄弟や家族と同じで、強い絆で結ばれた関係だな。リュカは我の良き弟といったところか、カッカッカ!」
よし、勝った!
「えー、ラパもラパもー!」
「これラパ、ハァァ、やれやれ……」
ということで、ラパに追撃されたマスターが退避とばかりに《霧》を開いた。
「《ホロウ》」『承認』――
「《ナイト》」『承認』――
かくして俺達は一旦、地下基地へと戻った――




