11話 恩師と神託
外へ出て俺は気づく、そうだ、ラパを森に残したままだったと。なのでレオンには先に帰るように言って別れた。
さて、日も暮れ始めた、また走り周るのも面倒くさい……。
「おーいラパくーん、どこですかー、気分は良くなったのかーい? 迎えに来ましたよー!」
と叫んだ瞬間、モフモフが顔に張り付いた。
「あ、ラパくん、元気そうでなにより」
「リュカちん、待ちくたびれたのだ、もうここで野宿するのだ、ワクワクドキドキなのだー!」
それもそうだ、ここなら良い気分転換にもなる。慌てる乞食は貰いが少ないと、昔の人は良く言ったものだ。
「ククッ、ああそうだね、ワクワクドキドキだ」
「キャハハ! レッツゴーなのだー!」
さて、いい意味でドキドキとワクワクがあることを願って――
俺はラパと一緒に沈む夕陽を眺め、木の根に横たわり穏やかな時間を過ごす。ラパが早くも大あくびで俺のフードを寝床にして眠りに就く。
木々のざわめく音が子守唄に聞こえて、俺も早い眠りに就いた。
瞼を閉じたそのとき、辺りが無音と静寂に包まれた。俺は不思議に思い瞼を開けると、そこは俺が迷い込んだ樹海そのものだった。
そこへ、懐かしい声が俺に話しかける――
「これ、そんなところで寝ると風邪を引くぞ」
声の主はなんと、夢か現か幻か――俺の恩師であるノーム爺さんだ。
「わーい! ノーム様だ!」
「うそ……マジ……?」
「ホッホッホ、元気そうでなによりだ、ラパも相変わらずだな。で、マジって何じゃ?」
ああ、昔と変わらない何でもすぐ聞くその姿勢、知らない事は素直に聞けと、ノーム爺さんの口癖だった。そのノーム爺さんがいま俺の目の前にいる。
俺はたまらずノーム爺さんを抱き上げて、強く抱きしめて、そして涙を堪えてゆっくりと説明した。
「あのね、マジって本当にって意味で、驚いたときに使う……言葉……」
説明に詰まる俺を、ノーム爺さんは優しく頭を撫でてくれる――
「おいおい、話すか泣くかどちらかに……うんうん、また逢えて儂は嬉しい」
「うん、俺も……凄く嬉しい……逢いたかった」
俺の頭の中で、何百年も前の思い出が、走馬灯のように駈けめぐる。
なぜだろう、死んで良かったと思う気持ちが溢れてくる。きっとそんなことを思う俺を、愚か者と貶む者もいるだろう、でも、死んだ人間にしかわからないこともあるんだ。
嫌な思い出は忘れられないけど、充実した日々が上書きしてくれたように、心は幸福で満ちている。
と、感傷に浸ってばかりはいられない。
「ねえノーム爺さん、ここはあの樹海? ラパがノーム様って呼ぶのはどうして?」
「いきなり質問責めか? 樹海は精霊の領域、ここは別世界なのだよ」
「えっ? 俺は別世界に迷い込んだってこと?」
「そうだよ。それと、妖精は精霊のエネルギーを元に生まれてくる生命体だ。つまり、ラパにとって儂ら精霊は神と同等の崇める存在なのだ」
精霊は妖精の神か、でもラパのあの甘え様は神というより、父親的存在ではないだろうか、俺と同じように。
「なるほど――で、俺はなんで呼ばれたの?」
「ああ、そうだった。それがついこの間、冥界から使者が訪ねてきて『"六つの神託"を完結させよ』と言われてな」
「六つの神託?」
「リュカは既に五つの神託を授かっておる」
「神託って、あのキノコから得た能力のこと?」
「そう、冥界から託された能力だ」
またキノコか、食材の選択肢はないのかよ。
「もうキノコは飽き飽きなんだけど……」
「安心せい、最後は四大精霊の恩恵を受ければ完結だ」
四大精霊――神話として聞いたことはある。大地の精霊、水の精霊、風の精霊、火の精霊だ。
「その前に、リュカは剣を持っておるだろ?」
「このソードのこと?」
「うんそれだ。冥王からリュカの剣に名を与えよとの命でな、お前が稀人となったことで悪魂を消滅させることができるようになった」
「ああ、あれか、黒い塊が砂みたいに消えたからちょっと驚いたよ、そうか悪魂だったのか……」
「うむ、だが黒キノコの発生を断つことはまだできておらん。そこで剣のグレードアップだ」
裁判神の言っていたグレードアップって、俺のソードのことだったのか。
「剣に名を与えることで、邪素の黒キノコと悪魂の両方を断つ力を持つようになる。剣の名は《不滅の蟻地獄》だ。これでお前も黒キノコに悩まされることもないだろう」
なんだか随分と立派な名前を付けてもらったが、少々気後れしてしまう。でもマスターの弟子としては誇れるのではないだろうか。しかもあの黒キノコを見ずに済む好待遇、冥王に感謝だ。
そういえばラパの昔話に、マスターが神聖魔法を使って黒キノコを根絶したとされているが、神聖魔法とはどのような魔法なのだろう。
「なあノーム爺さん、マスターは神聖魔法を使うって聞いたけど、どんな魔法なの?」
「ハァ、お前は自分のことより死神に関心があるのか、やれやれ――だそうだ死神よ」
……え?
「カッカッカ! これは嬉しい誤算だな。ようリュカ、地上の暮らしはどうだ?」
と、麗しく愛しい俺のマスターが、大きな壁のように俺達の前に聳え立つ。
いつからそこに、と思うより疾く、俺とラパはマスターにしがみ付く。
「死神ちん、ラパは良い子にしていたのだ!」
「俺だってちゃんと任務を遂行してるよ!」
「よしよし、ふたりとも元気そうだな。ノームよ、世話を掛けたな、ありがとう」
「死神よ、お前から魔法と恩恵の説明をしてやれ。これで儂の役目も終わったな、良いかリュカよ、戦いは戦略が基本、仲間と共に柔軟な対応を心掛けよ。ああそれとな、神託の使い方や用途は工夫次第で無限だ、頑張るのだぞ」
そう言って恩師は俺達3人を地上の森へと送った。また必ず逢えると笑顔で手を振って――




