10話 関係性
レオンのいうタレコミとは、おそらくイントルーダーの連中が邪魔な女盗賊を排除するため、軍警というハードルを置いて足止めをした。
当然、足止めを喰らった女狐は俺達を相手にするしかない、上手い狩猟だ。
しかし疑問がひとつ――
「レオン、そのタレコミは軍警にか?」
「はい、基地周辺に怪しい女がうろついていると。前に彼女達が軍に忍び込もうとしたことがありまして、それ以来、監視対象にはなっていたんです」
「へぇ――でも何でお前ひとり?」
「えっと、ボスに監視役を命じられたんですが、今回もお前ひとりで大丈夫だろって……はい」
「ふ〜ん、奈來がねぇ――」
そこへ、ライダースーツ姿のお嬢さんたちがやってきて、あっという間に囲まれてしまった。
「出たなこの覗き野郎ども、今日は逃がさん!」
えっ、今日はって、まさかのエブリデイ?
「おや、軍警の坊やじゃないか、お仲間も一緒とは。ボスは……さすがにいないか、まあいい」
と、あの女リーダーがレオンに顔を近づけてニヤリと笑う。こいつも奈來を――
「ほう、お仲間は奇妙な格好をしているが、連行途中で私達の監視とは、随分と舐められたものだ」
どうやら俺を犯罪者と勘違いしているようだ、もうこのパターンは慣れたのでそれはそれとして、この立場を利用しようじゃないか。
ここはレオンを犠牲にして話を引き出そう。
「待ってください! 俺は無理矢理に連れてこられただけなんですよ、勘弁してください!」
俺の芝居にレオンは鳩が豆鉄砲を食ったような顔で俺を見る。敵を欺くにはまず味方からだ。
「何にせよ、黙って帰すわけにはいかないね」
そう言って俺達はナイフを突き付けられ、縄で拘束されたあげく、校舎の一室に放り込まれた。
チラッとレオンに目をやると、俺に裏切られたとでも思ったのか、意気消沈と、罠に掛かったネズミの様に大人しい。
なので俺はレオンに小声で指示をだす――
『レオン、そのまま黙って聞け。あのリーダーと佐伯には繋がりがある、俺が話を聞き出すからお前は適当に話しを合わせろ、いいな』
レオンは察したのか、パッと頬を赤く染めて、満面の笑みで小さく頷く。ちょっと怖いぞ……。
そこへ、リーダーがレオンに問い掛ける。
「随分と潮らしいじゃないか、私たちを監視するのは結構だが、最近は大人しいと思うがね」
「へえ、そうかい、だがな、密告があったんだよ、お前が何か嗅ぎ回ってるってな」
流石は警務官、上手い返しだ。
「ほう、密告ねぇ――さて、何のことか」
惚けるのは想定内、だがとっ掛りはできた、これから尋問という駆け引きを始めよう。
俺は立場を翻し、リーダーの意図を探る。
「では俺から質問しよう。俺はある組織を追っているんだが、君は佐伯という人物を知っているか?」
そう訊くと、リーダーの顔から笑みが消えた。
「お前、罪人じゃないな……軍警か?」
「さあ、君の返答次第と言ったら?」
「――お前には関係ない」
「ほう、では質問を変えよう。君はある寮へ忍び込んだ、何を探していた?」
「なんだと?」
部屋の中が一瞬ざわつく。この重い空気は俺に対しての威嚇なのか、それともリーダーに対しての疑惑なのか、あの単独行動はもしかすると個人的か。
すると横からレオンが茶々を入れる――
「軍警を甘く見てもらっちゃあ困るな」
その一言が癇に障ったのか、仲間のひとりがレオンにナイフを向けた。
「貴様ー! そっちこそ甘くみるなよ!」
俺は仕方なく想造魔法を使う。
"『毒蛇の威嚇』"――
「邪魔だ、退け」
レオンの前に突如あらわれた毒蛇は、眼光鋭く女に牙を向けると、女は悲鳴と強張った顔で身体を震わせ、よろよろと尻もちをつく。
「今度レオンにナイフを向けたら容赦しない。さて、茶番はこのくらいで本題に入ろう」
俺は言うと同時に縄をぶち切り、机に腰掛けてリーダーを睨みつけた。
黙って様子を見ていたリーダーは唇を噛み、諦めたのか静かに告げる。
「クッ……わかった、仲間は外へ出す、それで良いか? しかしお前はいったい……」
仲間思いのリーダーを装っているのか、悪ぶっているだけなのか、物分かりが良すぎて拍子抜けだ。
「俺は軍警ではない、とだけ言っておこう」
リーダーは仲間に部屋から出るよう指示をだすと、ひとり壁に寄り掛かり腕組みをして俺を睨む。
そしてまた静かに口を開く。
「――何を知りたい」
「君と佐伯の関係性だ」
「まかさお前……リュカか?」
おっと、これは驚きだ。俺の名前を知っているってことは、誰かが情報を流した。考えられるのは軍警、警察、もしくはギャングのボスだ。
そういえばギャングのボスも佐伯を知っている様だった、だとすると、女盗賊とギャングは繋がっている、これは面白い展開だ。
なら事件絡みというより、昔からの顔見知りと考えたほうが良さそうだ。
「ほう、これは興味深い。もしかして大河と知り合いか? なら3人の関係性は昔からってことで良いかな?」
リーダーが口元に手を置く。人は知られたくないことがあると口元を隠す、長年の勘だが。
「――3人とは?」
「おいおい、惚けるなよ、大河に佐伯に君だ。あの規制テープの張られた寮で、君は佐伯を親しげに匡孝と呼んでいただろ?」
リーダーは不思議そうに眉を顰めて訊く。
「なぜそれを――あの場に居た? 気づかなかった……だから何を探しているのかと訊いたのか」
リーダーが悔しげに爪を噛む。
「そういうことだ。ではひとつ教えてやろう、俺は佐伯の最後を見届けた男だ。どうだ、少しは話す気になったか?」
リーダーは言葉を忘れたのか、それとも飲み込んだのか、口元はわなわなと震えている。
「どうした? 君が話さないのなら、俺も佐伯の情報を教える気はないがね」
そこへ食い入るように話しを聞いていたレオンが、要らぬ口を挟んできた。
「あ、それって"伝言"のことですよね?」
こいつは……ラパといい、レオンといい、駆け引きとか戦略を知らないのか、まったく、帰ったら奈來に教育的指導を叩きつけてやろう。
「伝言……」
リーダーはそうポツリと言って項垂れてしまった。奈來との繋がりも気になるが、今夜はこのくらいで退散しよう。
「話す気になったらレオンに連絡しろ、じゃあ」
俺はレオンを経由するように言って、部屋を後にした。サッと道を開ける女達、ほう、毒蛇の威嚇はまだ効いてるようだ、でも魔法だからそのうち消える、と思う。




