表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/11

9話 魅惑な女盗賊


 俺はラパと一緒に地下基地(ジオ・フロント)を出たはいいが、どうにも気分が乗らない。なんとなく自分だけが焦っているように思えて脚が重い。

 この国の要である警察組織は、書類片手の聴き取りが主な仕事、余裕というかスローペースで歯痒いばかりだ。

 まあ、地道な調査があるから俺らも動けるわけだが――そんな俺を知ってか知らずか、ラパがフードからある方向を指差す。


「リュカちん、駐輪場なのだ、現場百遍(げんばひゃっぺん)なのだ」

「現場百遍? ああ、奈來だな」

「自慢話がウザかったのだ」


 現場百遍か、俺は佐伯が殺される現場にいた、何か見落としてはいないか――そういえば、ラパも犯人を見たと言っていた。


「なあラパくん、あの爆破現場でさ、犯人が被害者の顔を覗いていたのは覚えてるか?」

「ん? 覗いてないのだ、()いていたのだ」

「何だって?!」

「えっと、『片割れはどこだ』と言っていたのだ。ラパは耳が良いのだ、間違いないのだ!」


 片割れとは何だろう、フィギュアのことか、それとも……。

 考えているより俺達も現場百遍だ。


 

 夕刻――


 俺達は爆破のあった駐輪場へやって来た。ビルの屋上から辺りを見回す、人通りはない。

 駐輪場にはポリスと描かれたテープで囲われている。その裏手に「寮内立入禁止」と描かれた立札を見つけた。たぶん、佐伯の住んでいた会社の寮だろう。

 そこへ髪の長い人影が、立札を無視して寮の中へと入って行った。


「――あれは、女か」


 俺は《亡霊(ファントム)》で姿を消し、ラパに口を(つぐ)むように言って女の後を追った。


 女は裏口から足音を忍ばせて、テープの貼られた部屋へ迷わず入る。おそらく佐伯の部屋だろう、そして何かを探し始めた。引出しの裏、冷蔵庫の下、トイレのタンクに天井に床下までも念入りに。

 まさに執念だな。目的は組織の男と同じだと思われる、まさかの女マフィアか?


「クソッ! 匡孝(まさたか)の奴、片割れをどこに……」


 大層な悪態を吐くが、それより佐伯を下の名前で呼んだことのほうが驚きだ。

 女と佐伯の関係性とはいったい――

 

 さてどうするか、どうもこうもない、せっかくの獲物、女の正体を確かめる。


 女は諦めたのか、部屋を出て向かいの路上に止めてあるエアバイクに(またが)がると、後ろ髪を引かれるようにゆっくり発進した。

 バイクは人里離れた山の方角へと走り出す、俺はビルの屋上を伝い後を追う。街並みを越えて、木々の鬱蒼(うっそう)と茂る森の中を走る。

 

 フッと、余りにも静かなラパに話し掛ける。


「ラパ、もう喋ってもいいよ」


 そう言うと、ぬっとフードから顔を出して、不機嫌そうに言う。


「ラパは気持ち悪かったのだ。もの凄〜くドス黒い空気が漂っていたのだ……ウゲッ」


 ドス黒い空気とは部屋のことなのか、それとも女からなのか、多少の違和感はあったがさほど気にはならなかった。妖精と亡霊の違いか?

 

 そう悶々と考えてながら後を追っていると、急に開けた場所に出た。そこには廃墟と化した校舎が(そび)()つ。

 校舎の窓から明かりが見える、女はエアバイクを降りて校舎へ向かって歩く。どうやらここが女の拠点のようだ。


 暗がりでよく見えなかったが、ピッタリと体に張り付く黒のライダースーツが、何とも艶めかしく色香を漂わす。けっこう若い女だ。


 中央の玄関口から、同じライダースーツに身を包んだ女性達がぞろぞろと現れ、女の前で(ひざまず)く。


「リーダー、お帰りなさい。お疲れ様でした」


 ほう、彼女はリーダーか。こんなことならレオンを連れてくればよかった、いろんな意味で。

 ハーレムはいつの時代も癒しである、俺はもう興味ないけど。なんたって愛しのマスターが俺の癒しなのだから。


 さてと、今のうちに校舎の周りを探索しよう、とその前に。


「ラパくん、このまま一緒に来る?」

「う〜ん、ラパは女狐はキライ、森に隠れているのだ。終わったらリュカちんが迎えに来るのだ」

「ハァ、はいはい……」


 ということで、先ずは裏手から。一室の窓から賑わう声が聞こえる、それと湯けむり。

 1階に風呂場とは、覗いてくださいと言っているようなものだ、ほら、観客が――


「……あ」

「……あっ!」


 うーん、もしも俺がこの観客の立場なら、きっと罪悪感と羞恥心(しゅうちしん)と今すぐタイムスリップしたい衝動で、心臓の鼓動は張り裂けんばかりに踊るだろう。

 さて――


「こんばんは、覗き上手のエロヤンキーくん」

「えっと、その、あの、こ、こ、これには色々と事情とか事情とか事情とかありまして……」


 ほう、人間って驚きと焦りで混乱すると、冷や汗ダラダラで言語崩壊するっていうけどほんとだ。


「うん、わかるよ、男なら一度は通る道だよね、俺にはなかったけど。で、何してんの?」


 レオンは目をキョロキョロと挙動不審者さながらに、言い訳を始める。


「これはそのう……ちょ、調査であって、け、け、決して変な想像とかはしないで……くださいね?」

「ん? やだなあ、変な想像なんかしてないよ、ただ現実を直視しているだけさ」


 レオンは諦めたように項垂(うなだ)れる。若いって良いねえ、俺も若いけど、たぶん。


「ハァァァァァ……あのですね、オレがここへ来た目的は、タレコミがあって、その情報を確かめるためなんですよ。そりゃ、ちょっと興味も……」


「外部から情報があったってことか?」

「はい。彼女達は『パンドーラ』といって女盗賊グループです。希少な骨董品や美術品の所有者を騙して奪う、悪質な連中なんですよ」

「盗賊か……」


 佐伯を有名なフィギュアの創作者と知って近づいた。目的は組織と同じ「片割れ」だ。

 その「片割れ」がいったい何なのか、「伝言」の人形、あるいは傀儡(くぐつ)の片割れという意味なのか、まずはそこからだ。


 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ