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転生皇女セラフィナ  作者: 秋月真鳥
一章 セラフィナ誕生する

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9.ルカ様の来訪

 わたくしのところにルカ様が来るまでにはひと悶着あった。

 お父様とお母様がわたくしを心配したのだ。


「ユリウスのところならば大丈夫だとは思うのだが、小さい子は病気を持っていて、それをうつしやすいと聞く」

「セラフィナが病気になるのは困りますわ」


 そうだった。

 わたくしも六歳で平民の通う学校に通い始めたころ、たくさん病気をもらった。風邪とか嘔吐とか下痢とか色んな病気を持った子どもたちが学校に通って来て、そこからうつってしまうのだ。

 病気になったら狭く汚い屋根裏部屋に押し込められていて、治るまでは出してもらえなくて、何とか水やカチカチのパンや薄いスープは届けられていたが、わたくしは死んでしまうのではないかと思って治るまで毎日泣いていた。

 あのころのことを思い出すとぞっとする。


「病気になったらわたしが看病します」

「ラファエルまで病気になっては困る」

「まだセラフィナは小さくて免疫力がないので心配です」


 これでわたくしがルカ様に会うのは無理になってしまうかと思っていたのだが、ラファエルお兄様が頑張ってくれた。


「セラフィナははっきりと『ルカたま』と言ったのです。セラフィナはわたしが年が離れているせいで、年が離れた相手としか触れ合ったことがありません。同年代の友達がほしいと思っているかもしれないではないですか」


 それに心動かされたのはお母様だった。


「わたくしもラファエルを産んだ後で、すぐにセラフィナを産んであげたかった。わたくしがなかなか妊娠できなかったから、ラファエルとセラフィナは年が離れてしまいました」

「セレナのせいではないよ。子どもは授かりものだ。年が離れていても、セレナがセラフィナを産んでくれたことがわたしはとても嬉しく幸せだ」

「ですが、そのせいでセラフィナには年の近い知り合いがいません」

「そうだな。ルカを呼んでみるか。ただし、ルカもセラフィナも体調のいいときで、セラフィナの部屋に入るときには、全員服を着替えて、手も消毒するように」


 お父様の許しが出て、わたくしはルカ様に会えることになった。

 同年代の男の子とはどんな感じなのだろう。

 期待していたわたくしだったが、ルカ様が来てすぐに後悔することになった。


「どーん! どかーん!」


 ルカ様は楽しそうにわたくしの積み木を投げている。

 その前は、わたくしが一生懸命積み上げた積み木をあっという間に崩してしまった。

 積み木を投げるのに飽きたルカ様が、本棚の方に行くのに、ユリウス様が急いで止める。


「ルカ! セラフィナ殿下の本を破いてはいけない!」

「やー! ぎゃああああ!」


 けたたましく泣き始めたルカ様に、ユリウス様が頭を抱えている。

 泣いているルカ様を慰めようとわたくしがぬいぐるみを差し出すと、それは投げられてしまう。投げ付けられたぬいぐるみがわたくしの頭に当たって、わたくしは涙が出てきた。


「ふぇ……」

「セラフィナ、大丈夫?」


 ラファエルお兄様がすぐに抱き締めてくれるが、一歳児のわたくしは泣き止めない。

 ルカ様はユリウス様に抱っこされてじたばたと暴れていた。


「セラフィナ殿下、本当に申し訳ありません。ルカはこの通り、いうことを全く聞かなくて」

「男の子は活発すぎるな。セラフィナには大人しい女の子から会わせた方がよかったかもしれない」

「ラファエル殿下も本当に申し訳ありません」

「わたしたちの我が儘に付き合ってもらったのだ。ユリウスが気に病むことはない」


 お兄様は大らかに受け流していたが、わたくしを抱っこから降ろさないのを見ても、ルカ様とわたくしをこれ以上接触させる気はないようだった。

 泣き止んで抱っこから降ろされたルカ様は、部屋中を走り回って、転んでまた泣いている。

 ルカ様とわたくしの初の顔合わせは大失敗に終わってしまった。

 それでも、わたくしは一歳児がどのように振る舞うものなのかは学んだ。


 わたくしは一歳児の中では相当大人しい方のようである。


 ユリウス様とルカ様が帰ってから、ラファエルお兄様はわたくしを抱っこから降ろして、ため息をついていた。


「男の子があんなに大変だなんて思わなかった。ユリウスがセラフィナをいい子だっていう意味が分かったよ」

「にぃに」

「セラフィナは大人しいからね。とってもいい子だ」


 撫でられてわたくしはラファエルお兄様に微笑みかける。

 ラファエルお兄様はわたくしのふわふわの髪を撫でて、微笑み返してくれた。


 その後で、その日は家族でお茶会をした。

 お父様とお母様が一緒のお茶会にわたくしはルカ様とのことは忘れて、喜びに胸が満ちる。

 少しだけお茶が注がれたカップに、大量に牛乳が注がれて、ほとんど牛乳のミルクティーを飲みながら、わたくしはお茶菓子に手を伸ばす。まだフォークやスプーンは上手に使えないが、手掴みで食べていいお菓子は食べることができるようになっていた。


「ママ、んま! んま!」

「美味しいですか? 一度にたくさん口に入れないのですよ」

「あい!」


 少しずつだが会話が成立して来ているのが嬉しい。わたくしが一生懸命発する言葉を、お母様もお父様もラファエルお兄様も読み取ってくれようとしていた。


「ルカとセラフィナを遊ばせてみましたが、全然遊びにもなっていませんでした。まだまだ難しいのでしょうね」

「ルカが教育を受けて、六歳でお茶会デビューするころになったら、セラフィナと遊べるようになるかもしれない」


 この国では平民は六歳から学校に通うが、貴族は六歳からお茶会にデビューする。皇族はもっと早いのだが、わたくしは今からでもお茶会にデビューすることに不安はないし、それだけのマナーは叩き込まれているつもりだった。


 前世でわたくしは平民の通う学校で勉強していたが、いつかどこかの高位貴族の家に厄介払いとして奉公に行かせるために、最低限のマナーは習っていた。高位貴族が下位貴族を雇うのは、行儀作法が身についているからに他ならない。いい就職先にわたくしを売り飛ばすために先行投資をしただけだったのだろうが、それが今世でも役に立つとは思わなかった。


 カップは取っ手の部分を摘まむようにして持つとか、お茶菓子は自分の取り皿に取って食べるとか、膝の上に置いたナプキンで口を拭った後はそこを折っておくとか、そういう簡単なマナーしか教え込まれていないが、ゼロから始めるよりはずっと楽だった。


 とはいえ、一歳児のわたくしはどれも実行できなくて、ラファエルお兄様やお母様やお父様に助けてもらっているのだが。


「セラフィナのふわふわの髪もかわいいが、大きくなるにつれて真っすぐになっていくのだろうね」

「そうですね。わたくしも幼いころは髪がふわふわでしたが、長じるにつれて真っすぐになりました」

「そうなると、セラフィナがますます美しくなってしまう。今ですら、婚約の話を持ち掛けられるのに」


 婚約!?


 お父様とお母様の話を聞きながらわたくしは驚いて、食べかけていたクッキーをぽろりとテーブルの上に落としてしまった。

 わたくし、まだ一歳半になろうとしているところです。

 婚約はさすがに早すぎませんか!?


 ラファエルお兄様もまだ婚約されていないのだ。

 一歳半にもなっていないわたくしが婚約するのはどう考えても早すぎる。


「セラフィナはこの国の皇女ですからね。相応しい相手としか結婚させません」

「ラファエルの言う通りだな。他国からの申し込みもお断りだ。セラフィナが他国に行くなど考えられない」

「ラファエルとヘリオドール様は心配性ですこと。まだまだセラフィナは小さいのです。セラフィナがせめて学園に入学するころに婚約を考え始めないと」


 学園に入学するころといえば、十二歳だ。

 ラファエルお兄様はどうなのだろう。

 ラファエルお兄様も春には十二歳になられるが、婚約が決まっているのだろうか。


「にぃに、にぃに」

「どうしたの、セラフィナ?」

「にぃに」


 ラファエルお兄様の婚約者はどうなっているのですか?


 聞いてみたかったがうまく喋れないわたくしの代わりに、お母様がその話題を口にしてくれた。


「ラファエルの婚約者もそろそろ決めないといけませんね」

「わたしはまだいいです。わたしは学園で好きな相手ができるかもしれないではないですか」

「わたしがセレナと出会ったのも学園だったな。セレナは聡明で美しく、この国の皇后に相応しい女性だと思った」

「ヘリオドール様と初めてお会いしたのは学園でしたね。ヘリオドール様は大人のような堂々とした体躯で、素晴らしく格好よくて、わたくしはこの方がこの国の皇太子殿下なのかと驚いたものです」


 お父様とお母様の出会いは学園だった。

 お母様は確か皇族の血を引く公爵令嬢で、お父様と身分も釣り合っていたので結婚できたのだと思っていたが、お互いに好き合って、恋愛結婚だったとは知らなかった。


「わたしも父上と母上のように好きな相手と出会いたいものです」


 皇族に生まれて好きな相手と結婚出来るだなんて、どれほど難しいか。

 それをお父様とお母様は成し遂げていた。


 ラファエルお兄様もお父様とお母様に憧れて、自分の好きな相手を探すのだろうか。

 ラファエルお兄様にいい出会いがあればいいと思うのと同時に、わたくしは気付いてしまった。


 高位貴族は学園に入学するころに婚約者を決めることが多い。

 アルベルト様も婚約者を決めるのではないだろうか。

 アルベルト様は学園に通えば宮殿に来ることはなくなるだろうし、婚約者が決まればわたくしと会うこともなくなるだろう。


 わたくしは自分が感じている寂しさが何なのかよく分からなかった。


読んでいただきありがとうございました。

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