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転生皇女セラフィナ  作者: 秋月真鳥
三章 セラフィナの婚約

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21.初めての旅行

 ミカのお誕生日が終わって少し経つと、学園は夏休みに入る。

 次に学園が再開されるのは、新年度だ。

 ラファエルお兄様もアルベルト様もアンリエットお義姉様もユリウス様も五年生になるのだ。

 わたくしは年が離れているので学園に入学するまでにまだ六年くらい時間が必要で、秋の始めの生まれなので、秋から始まる学園では月齢的に下の方になってしまう。

 学園に行くのは楽しみだったが、わたくしだけが小さくて目立ってしまわないかは心配だった。


 バロワン先生の授業は滞りなく続いている。

 わたくしは難しい単語も理解できるようになっていたし、歴史や政治についても勉強してきた。算数も学校で習った程度の問題は簡単に解けるようになっていた。


「セラフィナ殿下は非常に優秀ですね。新しい教科書を用意しましょう」

「はい、お願いします、バロワン先生」


 バロワン先生の授業は厳しくはあるが、バロワン先生は非常に冷静でわたくしが間違っていても、その部分を指摘してもう一度考えさせることで正解に導くタイプだった。


 ルナール男爵家でマナーを教えていた家庭教師とは比べ物にならない。

 ヒステリーを起こしてわたくしの腕を定規で叩いた家庭教師に関しては、わたくしは許されないと思っている。

 バロワン先生のように理知的に教えてくださる方が家庭教師でなければ、あのマナーの家庭教師のやり方が正しいと思い込んでいたかもしれない。


「セラフィナ殿下が六歳になられましたら、午前中の授業を二時間に増やしていただきましょう。午後の授業はこれまで通り一時間で」

「はい! よろしくお願いします」


 学べる時間が増えるというのは嬉しいので、わたくしが弾んだ声で返事をすれば、バロワン先生は教科書を片付けて優雅に一礼して部屋から退出して行った。


 授業が終わってバロワン先生を見送ってから、部屋で復習をしようとしていると、ラファエルお兄様がドアをノックして部屋に入ってきた。


「お兄様、どうされましたか?」

「父上と母上が休みを取って、旅行に出かけようと言っているんだ」

「旅行ですか?」

「わたしとセラフィナとミカエルと一緒に」


 家族水入らずの旅行という話に、わたくしは椅子から身を乗り出した。


「お父様とお母様とミカとお兄様と一緒に過ごせるのですか?」

「父上と母上はそう言っていたよ。今日の夕食のときにセラフィナとミカエルにもはっきりと伝えるんじゃないかな」


 ラファエルお兄様の言葉に、わたくしは夕食が楽しみになっていた。


 ミカエルも三歳になったので家族で食事ができるようになった。

 椅子にお行儀よく座っているミカエルは、食べるのは前から上手だったので、心配はしていない。

 料理が運ばれてきて、食事を始めると、お父様とお母様がわたくしたちに話してくれた。


「ずっと忙しかったから、家族で旅行に行ってもいいのではないかと思っていてね」

「せっかくですから、家族水入らずで山にある別荘に行きましょう」


 旅行の意味が分かっていないのか、もりもりと夕食を食べるのに夢中なミカエルだが、わたくしとラファエルお兄様は旅行の報せにわくわくしている。

 わたくしは前世では旅行に行ったことがない。旅行というものがどういうものか知ってはいたが、経験するのは初めてである。


「旅行って、馬車に乗って見知らぬ土地に向かって、そこで泊まって過ごすのでしょう。わたくし、初めてです」

「わたしも小さなころに一度行っただけかな。ミカエルも初めてだね」

「りょこー?」

「遠くに行くのですよ」

「お泊りするんだよ」

「とーく? おとまり?」


 ミカは本当によく分かっていないようだが、旅行に行けば分かってくるだろう。

 翌日から旅行の準備が始まった。


 わたくしは旅行のためにサマードレスを誂えてもらって、サンダルも買ってもらった。皮のサンダルは柔らかく履き心地がいい。

 後ろがリボンになったサマードレスを荷物に入れてもらって、サンダルも荷物に入れると、旅行に行く日が楽しみになってくる。


「お兄様は山の別荘に旅行に行ったことがありますか?」

「一度だけあるよ。近くに川が流れていて、釣りをして遊んだよ」

「釣り! わたくしもできるでしょうか」


 子ども部屋でわたくしとミカと過ごすラファエルお兄様の言葉に、わたくしは釣りをする様子を思い浮かべる。

 川面に釣り糸を垂れて、魚がかかるのを待つのだろうか。


「ちゅり?」

「棒の先に糸をつけて、糸の先に針をつけて、魚を捕まえることだよ」

「おさかま! おいちい!」

「おいしい魚が釣れるかどうかは分からないけれどね」


 不思議そうに聞いてくるミカにラファエルお兄様が説明をしている。ミカは分かったのか、分からないのか、頷きながら「ちゅりちゅり~」と歌っていた。


 出発の日までにわたくしはバロワン先生に別荘の場所やその地域の気候を聞いていた。


「別荘があるのは山の中腹で、山自体が皇帝陛下の持ち物で、気候はこちらよりやや涼しいと聞いています」

「川があるのですよね?」

「はい。山には川が流れていて、雨の量も多いです。川の水は澄んでいて、麓の村では飲み水としても使われています」


 どんな山なのか、どんな別荘なのか、予習するわたくしに、バロワン先生はたくさん教えてくれた。


「森の木々は、ブナ、ナラ、スギなどが多く、森にはリスや鹿が生息しています。かつてはクマやイノシシもいたと聞いていますが、最近は見なくなったそうです」

「クマやイノシシ……」

「ここ十年は出ていないのでご安心ください」


 大きな生き物を想像すると怖くて震えてしまうが、バロワン先生はわたくしを安心させるように静かに告げた。

 本当にクマやイノシシが出たら怖いが、ここ十年出ていないのならば安心だろう。


 バロワン先生の予習も終わり、別荘に出かける日になった。

 大きな馬車に乗り込んだわたくしはお父様のお膝に、ミカはお母様のお膝に抱っこされている。ラファエルお兄様はお父様の横に座っていた。

 ミカが馬車の窓の外を見て金色の目を輝かせている。


「はやーい! どこ、いくの?」

「山の別荘に行きますよ」

「おうまたん、ぱっかぱっか!」


 馬車に初めて乗るミカはそれだけでもはしゃいでいる様子だった。

 わたくしはお父様に抱っこされて大人しくしていたが、ミカがあまりにも身を乗り出そうとするので、ラファエルお兄様がしっかりと捕まえてしまった。


「ミカエル、母上が困っているだろう?」

「ママー!」

「ママではなく、『お母様』と言ってごらん」

「おかあたま!」


 お母様よりもラファエルお兄様の方が体格がいいので、ミカも抱っこされて安定している。

 ミカは三歳にして五歳のわたくしを越しそうになるくらい体が大きいので、お母様には少し大きすぎたようだ。それでもお母様は抱っこできる間はミカを抱っこしておきたいようだった。


「ミカエル、わたくしのお膝に来ますか?」

「母上、ミカエルは大きくなりすぎました。わたしの膝で抱っこします」

「わたくしもまだまだ抱っこできますよ」

「母上はセラフィナを抱っこしてあげてください」

「セラフィナはわたしが抱っこしているから問題ない」


 お父様とお母様とラファエルお兄様で、わたくしとミカの取り合いになっている。

 それくらい愛されているのだと自覚して、わたくしは幸せな気分になっていた。


「休憩したらわたくしにセラフィナを抱っこさせてくださいね」

「そのときは、わたしはミカエルを抱っこしよう」

「父上も母上も、セラフィナとミカエルを取り合わないでください」


 笑っているラファエルお兄様に、わたくしとミカも笑う。


 旅の始まりは順調だった。

読んでいただきありがとうございました。

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