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転生皇女セラフィナ  作者: 秋月真鳥
三章 セラフィナの婚約

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20.ミカエル、三歳

 春が過ぎ、季節は初夏に入る。

 夏の日差しを存分に受けるために、袖なしのサマードレスに衣装が変わり、ミカも半袖シャツとショートパンツを着ている。

 初夏にはミカの誕生日がある。

 ミカは今年で三歳になる。


 三歳というのはとても大変な年齢だというのをわたくしは知っていた。

 魔の三歳という呼び方がある。

 三歳になると反抗期が来て大変だというのだ。


 わたくしもリヴィア嬢も大変なイメージはなかったが、ルカ様は大変だった。ルカ様は一歳のときから大変だったし、今も反抗期の真っただ中という感じなので、わたくしやリヴィア嬢とは少し違うのかもしれない。

 ミカがどうなるかはわたくしはドキドキしていたのだが、ミカの反抗期は激しいものではなかった。


「もっとたべう」

「ミカエル殿下、食べ過ぎでございます」

「ちょーだい!」

「これで最後ですよ?」


 相変わらず、食べ物に対する執着は激しいが、それ以外はミカはおっとりと育っている気がする。

 ミカのイヤイヤ期が穏やかなようで、わたくしは少しほっとしていた。


 ミカの三歳の誕生日は、家族とベルンハルト公爵家の一家とアルマンドール公爵家の一家とルクレール公爵家の一家と一緒に祝うことになった。

 リヴィア嬢とも久しぶりに会うことができて、わたくしはそれをとても楽しみにしていた。


「セラフィナ殿下、ごこんやく、おめでとうございます」

「ありがとうございます、リヴィア嬢」

「アルベルト様もごこんやくおめでとうございます」

「ありがとうございます」


 かわいい背中に大きなリボンのついたサマードレスを着ているリヴィア嬢に挨拶をされて、わたくしはリヴィア嬢のサマードレスに目線が釘付けになってしまう。とてもかわいらしい。リヴィア嬢のストロベリーブロンドの髪に合うピンクのリボンがとてもよく似合っている。


「リヴィア嬢、そのサマードレス、とてもかわいいですね」

「わたくしのお気に入りなのです。今日はどうしてもこれが着たくて、お父様とお母様にお願いしました」

「とてもお似合いです」

「セラフィナ殿下も同じデザインであつらえたらどうですか? わたくしとおそろいになりますよ」

「いいのですか?」

「セラフィナ殿下とおそろいだなんて、こうえいです」


 リヴィア嬢に許可をもらって、わたくしは背中にリボンを飾ったサマードレスを誂えてもらおうとわくわくしていた。


「ミカエル殿下、お誕生日おめでとうございます」

「あいがちょごじゃまつ」

「ミカエル殿下も背が伸びられましたね」

「みー、おっちくなった!」


 ベルンハルト公爵家の叔父様と叔母様に挨拶をされて、ミカは照れながら返事をしている。お祝いされるのも、成長を認められるのも、ミカはとても嬉しそうだ。


「ミカエル殿下、自分のことは『みー』じゃなくて、『おれ』って言うんだよ」

「ルカ! 何を教えているんだ! ミカエル殿下、今のは聞かなかったことにしてください」

「えー! かっこういいじゃん、『おれ』」

「格好よくないんだよ。貴族は自分のことは『わたし』というものなんだ」

「つまんねぇ」


 ルカ様は絶賛反抗期の真っただ中のようである。ルカ様の反抗期が終わるのはいつなのだろうと疑問に思ってしまう。


「みー、おれ?」

「ダメですよ、ミカ。ミカは、自分のことは『わたし』というのです」


 ルカ様の言ったことを信じそうになっているミカに、わたくしが訂正する。


「わたち!」

「そうです。とても上手です」

「わたち、じょーじゅ!」


 上手に言えたことを褒めれば、ミカは胸を張っていた。


 ミカとわたくしは三歳近く年齢差があるはずなのだが、ミカはものすごくよく食べるので、わたくしとミカの身長は変わらないくらい大きくなっている。かろうじてわたくしの方が大きいが、そのうちに抜かされてしまいそうだ。


 男女の差があるのでいつかはミカに身長を抜かされるだろうと思っていたが、こんなに早いだなんて予想外だった。


「ミカは大きいですね。わたくし、抜かされてしまいそう」

「わたくしも抜かされてしまいそうです。同じですね」


 リヴィア嬢に言われると、ミカが大きすぎるだけでわたくしは標準の身長なのだと安心できる。リヴィア嬢の方が少し背が高いが、わたくしとリヴィア嬢はそれほど変わらない身長差だった。


「ラファエル殿下も大きかったですからね」

「ユリウスと同じ年とは思えませんでした」


 ルクレール公爵家の伯父様と伯母様がユリウス様とラファエルお兄様を比較して言っている。ユリウス様は平均的な十五歳の男性の身長なのだろうが、ラファエルお兄様とアルベルト様と比べると頭半分以上小さかった。


「わたしは標準で、ラファエル殿下とアルベルト様が大きいのです」

「皇族の血を引くと体が大きくなるようですからね」

「特に男性は」


 ラファエルお兄様とアルベルト様、それにミカは皇族の血を引いた男性だ。わたくしは女性なので、平均程度の身長しかないのかもしれない。


「ラファエル殿下も皇帝陛下のように大きく逞しくなられるのでしょうか」

「大きく逞しいわたしは嫌いですか?」

「いいえ、素敵だと思います」


 アンリエットお義姉様に言われて問いかけるラファエルお兄様に、アンリエットお義姉様はうっとりとした目でラファエルお兄様を見つめている。アンリエットお義姉様とラファエルお兄様は本当に愛し合っているのだと実感して、わたくしは二人に憧れのような感情を抱く。


 お互いに愛し合って婚約するというのはどんな気分なのだろう。

 わたくしは、ストラレイン王国やカラステア王国からの申し込みを避けるため、アルベルト様は煩わしい婚約の申し込みを避けるために、婚約した。

 わたくしとアルベルト様の間に愛情があるのかはまだ分からない。

 わたくしが幼すぎて愛というものがよく分からないのだ。


 それでも、ラファエルお兄様とアンリエットお義姉様の間には愛情があるように思えて、羨ましく感じられる。


「セラフィナ、抱っこしようか?」

「は、はい」


 アルベルト様に手を差し伸べられて、わたくしは両腕を広げてそれを受け入れる。アルベルト様に抱っこされるのは心地よくて幸せだ。

 アルベルト様はわたくしを抱っこして、窓際に歩いて行った。


「セラフィナは、わたしが怖くない?」

「怖い、ですか?」

「わたしは体も大きいし、力も強い。小さなセラフィナには怖いのではないかと思って」

「そんなことはありません。アルベルトお兄様は大きくて力も強いですが、わたくしの嫌なことはしません」


 皇族が体が大きく逞しく育ってしまうというのを、アルベルト様は気にしていたのかもしれない。

 確かに、クラリッサとして初めて出会ったときの小さくて細いか弱いアルベルト様とはイメージが違ってしまったが、育ったアルベルト様もわたくしは格好いいし、大好きだった。


「わたくし、アルベルトお兄様が大好きです」

「わたしもセラフィナのことが大好きだよ。この世で一番かわいいと思っている」


 囁きかわして、わたくしはアルベルト様の逞しい胸にぎゅっと抱き着いた。

 アルベルト様に抱っこされているとわたくしは安心するし、落ち着くのだと思っていた。


「もいっこ、ちょーだい!」

「ミカエル殿下、食べすぎです」

「ちょーだい!」


 ミカが誕生日のケーキのお代わりをほしがっている声が聞こえる。

 相変わらずミカは食いしん坊のようだ。

 わたくしも椅子に座って、アルベルト様も席についた。


「今日だけは特別にしてやってくれないか。もうひと切れだけケーキを」

「皇帝陛下がそう仰るのでしたら」


 お父様が許可したので、オレリアさんはミカにケーキをもうひと切れお皿に乗せていた。ミカは目を輝かせてケーキを食べている。

 わたくしはケーキを食べながらちらちらとアルベルト様の方を見ていた。

 アルベルト様はきれいな所作でケーキを食べ、ティーカップを持ち上げている。


「わたくしよりミカの方がいっぱい食べるのですよ。もう少しでわたくし、ミカに追い越されそうです」


 ため息交じりにわたくしが言えば、アルベルト様が微笑む。


「セラフィナはセラフィナの速度で大きくなればいいよ。ミカエルと比べることはない」

「姉として、もう少しミカより大きな期間が長ければと思っただけです」

「ミカエルは男の子だからね」


 皇族の男性は早く大きくなる。成人するころには見上げるほどの長身で、大きく逞しくなってしまう。

 アルベルト様もそうなのだろうと思うと、わたくしの身長がどこまで伸びるか心配になってしまうが、わたくしが小柄でもアルベルト様はそんなに気にしない気がする。

 お父様とお母様も、ベルンハルト公爵家の叔父様と叔母様も、体格差があるが、とても仲のいい夫婦だ。


 わたくしもいつかアルベルト様と夫婦になる。

 その日を思うと、落ち着かないような気分になって、わたくしはミルクティーを飲むことでそれを落ち着けた。

読んでいただきありがとうございました。

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