16.婚約式の準備
「ストラレイン王国とカラステア王国には困ったものだ。建国の折りに共に戦った国ではあるし、ストラレイン王国は食料資源が、カラステア王国は鉱物資源が豊富なので、切り捨てるわけにはいかない」
「セレスティア帝国は戦争をするつもりもありませんからね」
お父様とお母様と、ベルンハルト公爵家の叔父様と叔母様の話は続いている。
同席していたラファエルお兄様とアルベルト様が二人して声を上げた。
「春になればわたしとアルベルトの誕生日が来るでしょう」
「ラファエルとわたしの誕生日はとても近いです。二人の誕生日を合同で行うのはどうでしょう」
「その日にアルベルトとセラフィナの婚約式をしてしまうのです」
ストラレイン王国とカラステア王国への牽制の意味も込めて、わたくしの婚約式はできる限り早く行わねばならないとラファエルお兄様もアルベルト様も考えているようだった。婚約は決まったとはいえ、婚約式を挙げるまでは正式に婚約したことにはならない。婚約式を挙げるのは皇族や貴族でも高位のものだけだが、皇女であるわたくしと皇族であるアルベルト様は絶対に婚約式は挙げなければいけなかった。
「セラフィナの六歳の誕生日まで待つというのはどうだろうか」
「ヘリオドール様、セラフィナを手放すようで寂しいのは分かりますが、カラステア王国は実力行使にまで出ようとしたのです。危機感を持ってください」
「それはそうだが、セラフィナがあまりにも幼すぎないか?」
「五歳も六歳も同じようなものです。セラフィナは心は決まっているのでしょう?」
わたくしに問いかけが飛んできた。
わたくしは姿勢を正す。
「わたくしはアルベルトお兄様と婚約します」
気持ちが決まっていることを告げれば、お父様が寂しそうな顔をしている。
ストラレイン王国とカラステア王国の手前、わたくしを婚約させるしかなかったのだろうが、本心では寂しく思っているのだろう。
「婚約ですからね。まだ嫁いでいくわけではありません」
「分かっているが、セレナ、もう少し後でもよくないか?」
「セラフィナの身の安全を考えてのことです」
渋るお父様をお母様が説得している。
身の安全という言葉を聞いて、わたくしはアルベルト様が気になった。
アルベルト様は馬車を狙われて暗殺されかけている。
わたくしと婚約することでストラレイン王国やカラステア王国から憎まれるというようなことはないのだろうか。
「アルベルトお兄様は大丈夫なのですか?」
心配するわたくしに、アルベルト様が微笑みかける。
「わたしは馬車の事件以来、護衛が増やされているから平気だよ」
警護が厳しい皇帝一家の住まう棟にもカラステア王国から買収された侍女が駆け込んできてわたくしを攫おうとした。どんなことも絶対ではないのだと思うが、アルベルト様は大丈夫だと言っているのでそれを信じるしかない。
「お父様、お母様、お兄様とアルベルトお兄様の合同誕生会で婚約式を挙げさせてください」
わたくしが言えば、お父様とお母様も納得した様子だった。
「セラフィナ殿下、アルベルトと婚約をする気になってくださってありがとうございます」
「アルベルトにとってはセラフィナ殿下はずっと特別でした」
「妹のように大事に思っていると言っていました」
「最初は妹のようでも、セラフィナ殿下が成長すれば、アルベルトもセラフィナ殿下を愛するようになるでしょう」
両手を握られてベルンハルト公爵家の叔父様と叔母様に感謝されて、わたくしはちらりとアルベルト様の方を見る。この婚約はアルベルト様が望まなければ成立しなかった。結婚や婚約を拒んでいたアルベルト様が、わたくしならば構わないと思ってくれたからこそなのだ。
「決めたのはわたくしではありません。アルベルト様です」
わたくしが言えば、叔父様と叔母様は「セラフィナ殿下が受けてくださったからこそです」と返してきた。
話し合いが終わった後で、ベルンハルト家の叔父様と叔母様とアルベルト様、お父様とお母様とラファエルお兄様とわたくしでお茶をした。
お茶菓子にはアルベルト様が持ってきてくださったチョコレートが出されていた。
三つしか食べられないと分かっているが、美味しいのでついつい手が伸びそうになるのをわたくしは我慢する。
「アルベルトは新年のパーティーでダンスを断っていたね」
「セラフィナとの婚約が発表されたから、『婚約者に不義理はできません』と断ることができたよ」
晩餐会と夜会にはわたくしは参加していないが、今年社交界デビューしたアルベルト様とラファエルお兄様は参加していた。アルベルト様はダンスの誘いを全部断ったようだった。
「お兄様はアンリエットお義姉様と踊ったのですか?」
「もちろん。アンリエット嬢とずっと踊っていたよ。アンリエット嬢以外と踊りたいと思わないからね」
ラファエルお兄様とアンリエットお義姉様の仲は非常によいようだった。
「わたしもセラフィナと踊りたいな」
「後十年後の話だね」
「いや、誕生日のお茶会で踊れるかもしれない」
お茶会に楽団が用意されてダンスができるのだったら、わたくしはアルベルト様と踊りたい。体格が違いすぎるが、アルベルト様はそれも考えて上手に踊ってくれるのではないだろうか。
わたくしがアルベルト様を見上げていると、アルベルト様がわたくしの手を取る。
椅子から降りて軽くステップを踏むアルベルト様に、わたくしは必死について行く。身長差がありすぎるので一緒に踊るのはなかなか難しい。
「アルベルト、セラフィナとファーストダンスを踊るのはわたしだよ!」
「ファーストダンスは婚約者のわたしが踊るに決まっているだろう」
「セラフィナはわたしのかわいい妹だよ!」
「わたしは婚約者だよ」
張り合っているラファエルお兄様とアルベルト様に、わたくしもお父様もお母様も叔父様も叔母様も笑ってしまっていた。
学園の冬休みが終わると、わたくしも忙しくなった。
婚約式のためのドレスを誂えることになったのだ。
ラファエルお兄様とアンリエットお義姉様の婚約式と、ユリウス様とレティシア嬢の婚約式くらいしかわたくしは知らなかったが、アンリエットお義姉様もレティシア嬢も白いドレスを着ていた。
わたくしも清楚な白いドレスを着たいと思っていた。
「春ですので、デザインは七分袖で、首元があまり開いていないものにしましょう」
「色は白がいいです」
「そうですね、純白にしましょう。純白に銀糸で刺繡を入れて、仕上げてもらいましょう」
お母様と一緒に衣装を選ぶのはわくわくして楽しい。
仕立て職人たちがわたくしの採寸をして、春ごろにはもう少し大きくなっていることを考慮して誂えてくれる。
「セラフィナはティアラよりも白薔薇の造花の花冠がいいかもしれませんね」
「わたくしのティアラは小さすぎますし、その後も使えるわけではないのでもったいないです」
ティアラよりも花冠を進めてくれるお母様に、わたくしも同感だった。
白薔薇の造花の花冠だったら、その後に加工して髪飾りにすることも、コサージュにすることもできる。
「アルベルト殿も一度お呼びして、衣装合わせをしなければいけませんね」
「アルベルトお兄様はどんな格好で来るでしょう」
純白のタキシードでも、黒いタキシードでも、ダークブルーのタキシードでも似合いそうな気がする。アルベルト様は背が高くて格好いいので何を着ても似合う気しかしない。
「セラフィナの花冠に合わせて、白薔薇のコサージュをつけてもらいましょうか」
「おそろいですか?」
「そうですよ、お揃いです」
アルベルト様とお揃いにできると思うと、わたくしは胸がどきどきしてくる。
アルベルト様のことが好きなのは確かだが、これが恋愛感情かは分からない。それでも、アルベルト様とずっと一緒にいられるのは、前世のメイドだったころのわたくしの夢でもあって、それが叶いそうになっている現実が嬉しかった。
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