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転生皇女セラフィナ  作者: 秋月真鳥
三章 セラフィナの婚約

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15.初めてのチョコレート

 わたくしとアルベルト様の婚約が決まってから、アルベルト様が以前以上に宮殿に来られるようになった。


「セラフィナ、帝都で有名なお菓子店のチョコレートを持ってきたよ。セラフィナはチョコレートは好き?」


 アルベルト様に聞かれてわたくしはすぐには答えられない。

 わたくしはチョコレートというものがあるのは知っていたが、それをはっきりと意識して食べたことがなかった。


 前世のクラリッサのころはそんな高価なものは口にできなかったし、今世ではまだ小さいのでチョコレートが解禁されていなかった。チョコレートは小さな子どもには食べさせないものなのだ。

 わたくしはまだ食べたことはないし、ミカが食べられないので食べたいとも思っていなかったが、アルベルト様が持ってきたきれいな缶に入っているチョコレートは一口サイズで、様々な形のものがあった。


「これが紅茶のチョコレート、こっちはキャラメルのチョコレート、こっちはミントのチョコレート、こっちはミルクのチョコレート。セラフィナはどれが好きかな?」


 缶を開けてわたくしに進めてくださるアルベルト様に、ラファエルお兄様が聞こえるように大きなため息をついている。


「婚約が決まってから、アルベルトはセラフィナに甘いのを隠さなくなったね」

「元からこうだったよ」

「そうだけど、さらにセラフィナを甘やかして!」


 呆れた様子のラファエルお兄様に、アルベルト様はミカンの入った箱も持って来させる。


「ミカエルはまだチョコレートは食べられないから、ミカンを持ってきたよ」

「ミカエルにまでありがとう。セラフィナだけじゃなくてミカエルも落とすつもりかな?」

「落とすだなんて人聞きが悪い。かわいい従兄弟にプレゼントだよ」


 ミカにはミカンがあるようでわたくしは安心する。

 紅茶のチョコレートを一つ食べてみると、紅茶の香りが口の中に広がってそこに甘くてほろ苦いチョコレートの味が加わってとても美味しい。ミルクティーを飲みながら食べていると、アルベルト様が教えてくれる。


「チョコレートは食べ過ぎるとよくないから、一日に量を決めて食べるようにしてね」

「はい。わたくしは五歳だから、何個くらいがいいのでしょう?」

「一日三個くらいかな。食べ過ぎると鼻血が出るって聞いたこともあるし」

「鼻血は困ります」


 一日三個を守って食べようとわたくしは心に決めていた。

 ラファエルお兄様はアルベルト様がわたくしに甘いのがちょっと不満な様子だった。

 わたくしがもっと小さなころから、ラファエルお兄様はアルベルト様にわたくしを取られないか気にしていたのだ。

 結果としてわたくしはアルベルト様と婚約することになったし、それはラファエルお兄様の発案だったが、それでも気に食わないものは気に食わないようだ。


「セラフィナ、チョコレートはとても甘いから、食べたら歯を磨くんだよ」

「はい、お兄様」

「セラフィナが虫歯になったりしたら大変だからね」


 ちらちらとアルベルト様を意識しつつ、ラファエルお兄様が言うのに、わたくしは素直に頷いた。


 アルベルト様からいただいたチョコレートの缶は侍女に保管させておいた。


 カラステア王国からの使者が来たのは、新年のパーティーから三日後だった。

 わたくしはその席に出席しなくてよかったが、お父様とお母様が陰鬱そうな顔をしていた。


「ストラレイン王国の王族もしつこかったが、カラステア王国の使者もしつこかった」

「セラフィナと自分たちの王子を婚約させてほしいと何度も言っていました」

「セラフィナにはもうアルベルトがいるというのに」

「ひとの話を聞かない相手は困ります」


 夕食の席をご一緒したお父様とお母様はわたくしに向き直って笑顔を作る。


「セラフィナは何も心配しなくていいからね」

「どれだけストラレイン王国とカラステア王国が騒いだとしても、反乱を仕掛けてくるようなことはありません」

「セレスティア帝国とストラレイン王国、カラステア王国の力の差ははっきりしているからね」


 お父様とお母様がそう言うのならば安心だが、わたくしは一抹の不安を取り払えなかった。


 事件は新年のパーティーの四日後に起きた。

 息を切らせて侍女がわたくしの部屋に駆け込んできたのだ。


「宮殿で火事が起きました。セラフィナ殿下、急ぎ避難をしてください」


 火事!?


 冬なので宮殿では暖炉に火がともされている。そこから火が移ったのだろうか。

 学園は休みの日だったので、ラファエルお兄様も隣りの部屋にいるはずだった。それなのにわたくしにだけ声をかけるのは何かおかしい。

 わたくしが動けずにいると、侍女がわたくしを抱え上げようとする。


「お待ちなさい! あなたはどこの配属の侍女ですか?」


 そばにいてくれたマティルダさんが冷静に声をかける。


「わたくしは宮殿本殿の侍女です」

「それはおかしいですね。何か起きた場合にも、皇帝陛下のご一家の棟には入れるものが限られているはず」

「緊急事態なのです」

「緊急事態ならばなおさら、この棟の護衛の兵士に伝えられるはずです。護衛の兵士、そのものを捕えなさい」


 凛として対応するマティルダさんに、わたくしはその侍女に捕まえられないように部屋の隅に逃げていた。この体はとても小さいので大人が攫おうとしたら簡単に持ち上げられてしまうのだ。


 侍女はカラステア王国の使者に買収されたものだった。

 わたくしをカラステア王国に無理やり連れて行こうとしたのだ。


 お父様とお母様にすぐに報告がいき、カラステア王国の使者は捕らえられて罰せられることになった。


 アルベルト様と婚約が決まるまで、カラステア王国とストラレイン王国がこんなにもわたくしに執着しているとは知らなかった。

 どちらの国も、セレスティア帝国との繋がりを持ちたいのだろう。

 そうだとしても、無理やりにわたくしを攫って連れ帰るなどしたら、セレスティア帝国との関係が悪くなると思わなかったのだろうか。


 カラステア王国に関しては、お父様から厳重注意がされたようだった。


「セラフィナ、怖い目に遭わせてすまなかったね」

「カラステア王国が実力行使に出るとは思いませんでした」

「宮殿の侍女も今見直している」

「今後はこのようなことがないようにします。セラフィナが無事でよかったです」


 わたくしを心配してくれたお父様とお母様が部屋を訪ねて来てくれて、わたくしを順番に抱き締めてくれた。

 わたくしも怖かったのでお父様とお母様にしっかりと抱き着いて、今後こんなことがないように祈っていた。


 学園の冬休みはまだ続いている。

 新年のパーティーでわたくしとアルベルト様の婚約が発表されてから、ベルンハルト公爵家の叔父様と叔母様とアルベルト様が、お父様とお母様とわたくしを訪ねてきた。


「兄上、義姉上、アルベルトとセラフィナ殿下の婚約を認めてくださってありがとうございます」

「慕っていたメイドが亡くなってから、ずっと婚約も結婚もしないと言っていたアルベルトが、セラフィナ殿下ならばと思ってくれたのです。セラフィナ殿下もアルベルトのことを慕ってくれていて、この度はとてもいい縁組をさせていただいたと思っております」


 叔父様と叔母様に、お父様とお母様が頷く。


「アルベルトのことは我が甥なのでとても心配していた。アルベルトの心境に変化があったのならばよかったと思う」

「セラフィナもアルベルト殿のことが大好きなようです。このまま育っていけば、アルベルト殿と少し年の差はありますが仲睦まじくなれることでしょう」


 お父様とお母様もこの縁組に賛成している旨を伝えている。


「婚約式はいつにしますか? アルベルトの成人のときにしましょうか? それともセラフィナ殿下が学園に入学されるときに?」

「それだと時間がかかりすぎる。もう少し早めてもいいのではないかと思うのだが……セラフィナをこんなに早く婚約させると思っていなかったから、わたしたちの心の準備も必要だな」

「もう少し話し合って決めましょう」


 叔父様の提案に、お父様とお母様ははっきりとした答えは出さなかった。

 アルベルト様が成人のときに婚約式をするのだったら、わたくしは八歳、わたくしの学園入学のときに婚約式をするのだったら、わたくしは十二歳だ。それまでにまだ何年も時間がある。

 それだけ時間を空けてしまうと、ストラレイン王国やカラステア王国がまた動き出さないとも限らない。それを考えてお父様もお母様も婚約式を急ぐつもりなのかもしれない。

 けれどわたくしはまだ五歳。

 婚約式を挙げるには早すぎる。


 お父様とお母様の結論はまだ出ないようだった。


読んでいただきありがとうございました。

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