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転生皇女セラフィナ  作者: 秋月真鳥
三章 セラフィナの婚約

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13.婚約の話

 ティールームでラファエルお兄様とアルベルト様が真剣に話している。

 苺のタルトを食べ終わったミカは、つまらなくなってしまって子ども部屋に帰っていた。


「ラファエルはいいよね。社交界デビュー後の最初のダンスの相手が決まっていて」

「もちろん、わたしはアンリエット嬢に申し込むよ。アルベルトは?」

「わたしは相手がいないから壁際でじっとしているよ」

「それはもったいない。誰か誘いたいひとはいないのか?」


 新年のパーティーでアルベルト様とラファエルお兄様は社交界デビューをする。その日の夜会ではラファエルお兄様はアンリエットお義姉様を誘ってダンスをするだろうが、アルベルト様には誘う相手がいなかった。


「誘うつもりもないし、誘われても断るつもりだよ」

「アルベルトもそろそろ結婚相手を決めた方がいいんじゃないか?」

「わたしは結婚するつもりはないとずっと言っているよ」

「ベルンハルト公爵家の嫡男として、それはどうかと思うな。セルフィナ伯爵家のような輩が出てこないとも限らないんだから」


 セルフィナ伯爵家の名前に、わたくしは耳を澄ませてしまう。

 セルフィナ伯爵家はベルンハルト公爵家の遠縁で、アルベルト様がいなくなればベルンハルト公爵家を継げるのではないかと考えてアルベルト様の馬車を襲うようにルナール男爵家に指示をした容疑かかかっている。

 そのことをはっきり言ったわけではなかったが、情報を集めていたわたくしには分かってしまった。


「セラフィナと……」

「え?」

「セラフィナとダンスができたらいいのに」


 ぽつりと呟いたアルベルト様に、わたくしは両手で頬を押さえる。

 アルベルト様はダンスの相手にわたくしを求めてくださっている!?


「セラフィナはダメだよ! アルベルトにも渡さない! なにより、セラフィナはまだ五歳だよ」

「分かってるよ。セラフィナだったら誰にも誤解されることはないし、ラファエルと皇帝陛下が絶対に反対しそうだからお相手してもらっても大丈夫と思っただけだ」


 なんだ、そうだったのか。

 ちょっとがっかりしてしまった自分に、わたくしは戸惑っていた。

 わたくしがアルベルト様を守れるのならば守りたいが、まだ五歳の身では何もできない。


「アルベルト、真剣に答えてほしい。セラフィナが好きなのか?」

「セラフィナのことはこの世で一番かわいい女性だと思っている。恋愛感情かと聞かれたら、よく分からないけれど、わたしが気になっているのはセラフィナだけだよ」

「セラフィナに結婚を申し込むつもりがあるか?」

「ラファエル、正気か!? セラフィナはまだ五歳だよ」


 真剣な表情で詰め寄るラファエルお兄様に、アルベルト様の方が戸惑っている。


「セラフィナもいつかは誰かの元に嫁がなければいけないのは分かっているんだ。でもできるだけそれが遠くでない方がいい。わたしはアルベルトが本気なら、セラフィナとの仲を認めてもいいと思っている」

「セラフィナは、まだ五歳……」

「皇族では五歳でも婚約が決まることはよくある。ストラレイン王国やカラステア王国の王族から求められてからでは遅いんだ」


 ストラレイン王国とカラステア王国はこの国、セレスティア帝国の属国である。属国とはいえ、主従関係というよりも同盟国のような扱いで、セレスティア帝国がこの大陸を統一したときに協力した国である二国は、セレスティア帝国の皇族との婚姻関係も深かった。

 わたくしがストラレイン王国やカラステア王国の王族と結婚する可能性がある。

 それはちょっとした恐怖だった。

 わたくしはセレスティア帝国の中でも狭い地域の中から出たことがない。ストラレイン王国やカラステア王国はセレスティア帝国とは風習もマナーも全く違うと聞いている。

 そんな場所に嫁いでしまったらラファエルお兄様ともミカともお父様ともお母様とも、アルベルト様とも会えなくなってしまう。


 アルベルト様との婚約の話が現実的ではないとはいえ、わたくしは他国に嫁ぐくらいならばこの国の貴族と結婚したかった。


「わたしは……結婚しないつもりで生きている。それなのに、セラフィナがストラレイン王国やカラステア王国に嫁ぐと思うと、どうしようもない気持ちになるのはどうしてだろう」

「セラフィナをかわいいと思っているのだろう?」

「かわいいと思っているけれど、わたしたちは従兄弟で、セラフィナのことは妹のように思っている。セラフィナと結婚なんて……結婚なんて……」

「想像したな?」

「ちょっとだけ」


 ラファエルお兄様の表情に負けず劣らず、アルベルト様も真剣な表情になっている。


「一生セラフィナがそばにいてくれて、セラフィナと過ごせるのならば悪くないと思ってしまった」

「セラフィナはかわいいからな」

「それ以上に、セラフィナはわたしの心を癒してくれた」


 アルベルト様が悩まし気にため息をつく。


「わたしはわたしを庇って亡くなったメイドが好きだったのだ。あのメイドでなければ結婚などしないと思っていた。あのメイドを亡くして、わたしは生涯結婚しないことを誓った。生涯許されなくていい。贖罪の人生を送ろうと思っていた」

「アルベルト……」

「セラフィナがタンポポの花をくれたとき、わたしはあのメイドのことを思い出した。あのメイドはわたしに生きていたほしかったのだと実感した。わたしはセラフィナに何度も救われている。セラフィナのことを誰よりも大事な相手だと思っている」


 アルベルト様の告白に、前世のクラリッサの記憶も蘇ってきてわたくしは頬を押さえる。

 アルベルト様がクラリッサと結婚まで考えてくれていた。それなのに、クラリッサはアルベルト様を残して死んでしまった。


 アルベルト様は生涯結婚しないことを誓ったが、わたくしの存在に心が揺らいでいる。


「わたくし、アルベルトお兄様のことが、好きです」


 気が付けばわたくしの口から言葉が漏れていた。

 それはアルベルト様を兄のように慕っているという意味なのか、恋愛的に好きという意味なのか、自分でもよく分からない。

 それでもわたくしの心はアルベルト様に傾いていた。


「父上と母上に相談しよう」

「ラファエル、早すぎるよ」

「こういうのは早い方がいいんだ。セラフィナを遠くに嫁がせたくないだろう?」

「それはそうだけど……」


 わたくしも家族を置いて遠くに嫁ぎたいとは思っていない。

 できれば国内の貴族で、皇族に近い相手の方がいい。


 アルベルト様とわたくしは従兄弟同士で、年も十歳離れているが、皇族の結婚はこういうことも珍しくはなかった。


「とりあえず、ベルンハルト公爵家に戻って、父上と母上に話してみる」

「そうしてくれ、アルベルト。正式な婚約はセラフィナがもう少し大きくなってからになるかもしれないが、内内で話を進めることはできる」


 アルベルト様とラファエルお兄様がどこまでも本気の様子なのに、わたくしは胸がどきどきしてきた。


 アルベルト様が帰ってから、ラファエルお兄様は夕食をお父様とお母様と一緒に食べられるように手配をした。

 新年のパーティーまでにこの話をある程度纏めておくつもりなのかもしれない。


 夕食の席に現れたお父様とお母様に、ラファエルお兄様は伝えた。


「アルベルトがセラフィナとの婚約を考えています。アルベルトとセラフィナは年は少し離れていますが、家格的にも相応しいし、セラフィナを他国に嫁がせずにすみます」


 その話について、お父様もお母様も取り合わないのではないかと思っていたが、意外にも真面目な顔で聞いていた。


「実は、セラフィナが生まれたときからストラレイン王国とカラステア王国の王族から申し込みが絶えないのだ」

「セラフィナをどうしても王家に迎え入れたいようです。ずっと断っているのですが、諦めが悪くて」


 わたくしは生まれたときからストラレイン王国とカラステア王国から求婚されていた!?

 衝撃の事実に、わたくしがフォークを握り締めて硬直していると、お父様とお母様の視線がわたくしに向く。


「セラフィナはどう思っている?」

「わたくしたちもセラフィナをストラレイン王国やカラステア王国に嫁がせたくはありません。あの二国が素晴らしい国であるのは間違いないのですが、嫁いでしまえばセラフィナとなかなか会えなくなります。セラフィナには国内の貴族と結婚してほしいと思っています」


 五歳のわたくしに意見を聞くほどお父様とお母様は二国から激しい要求をされているのだろうか。


「わたくし、結婚はよく分かりませんが、アルベルトお兄様のことは好きです。お父様とお母様、ベルンハルト公爵家の叔父様と叔母様のように、アルベルトお兄様とずっと一緒にいられるのならば、嬉しいと思います」


 恋愛感情はまだわたくしには難しい。

 でも、お父様とお母様のような関係にアルベルト様となれるのならば率直に言って嬉しい。

 わたくしが正直な気持ちを口にすると、お父様とお母様が顔を見合わせている。


「コンラートに話をしてみよう」

「ストラレイン王国とカラステア王国を黙らせるためにも、セラフィナには婚約をしてもらうしかないかもしれませんね」

「あの二国は本当にしつこいからね。セラフィナがセレナにそっくりだということも情報を掴んできて、将来は美女になるだろうと狙ってきている」


 苦々しいお父様の表情に、わたくしはお母様の顔を見る。

 銀髪に菫色の瞳、長身ですらりとしたお母様はとても美しい。わたくしもお義母様に似ているのでびっくりするくらい美しい幼女なのだが、頭の中では自分のことをクラリッサだったころの平凡で地味な姿と思っているところがあるので、鏡を見るたびに驚いてしまう。

 このまま成長していけば、わたくしはどのような少女に育つのだろう。

 それが楽しみなような、怖いような気分になってくる。


「アルベルトは新年のパーティーで社交界デビューをする。それまでに何とか話を纏めておきたいな」

「ベルンハルト公爵夫妻に相談してみましょう」

「そうだね」


 新年のパーティーまであと一週間ほどしかない。

 その間にわたくしは人生の大きな問題を決めなければいけない。


 結婚を拒んでいるアルベルト様がわたくしでいいのだったら、わたくしはアルベルト様と結婚したい。

 クラリッサだったころでも、アルベルト様に申し込まれていたら、わたくしは了承していただろう。


 それが愛情なのかどうかは分からない。

 けれど、アルベルト様がわたくしにとって大事な方だというのは間違いなかった。

読んでいただきありがとうございました。

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