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転生皇女セラフィナ  作者: 秋月真鳥
三章 セラフィナの婚約

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11.ベルンハルト公爵家での過ごし方

 五歳になったわたくしは、ほとんどお昼寝をしなくてもよくなっていた。体が成長したのもあるが、わたくしの行動範囲ではあまり運動はしていないし、体力を使っていないようだった。

 昼食後も起きていて新聞を読ませてもらった後で、わたくしはラファエルお兄様とアルベルト様に準備しておいたハンカチを渡した。アルベルト様のハンカチは白地にタンポポの刺繍を入れていて、ラファエルお兄様のハンカチは白地にクローバーの刺繍を入れておいた。

 手渡すと、ラファエルお兄様とアルベルト様の表情が明るくなる。


「セラフィナは最近刺繍を練習していたんだったね。わたしのために刺繍をしてくれたの?」

「はい、お兄様」

「これはタンポポだね。セラフィナがわたしに初めてくれた花だ」

「アルベルトお兄様はタンポポ、お兄様はクローバーにしてみました」


 刺繍の施された部分を撫でてラファエルお兄様が微笑んでいる。アルベルト様も嬉しそうだ。


「ありがとう、セラフィナ。大事に使うよ」

「セラフィナ、嬉しいよ。ありがとう」


 ラファエルお兄様とアルベルト様にお礼を言われてわたくしは誇らしく胸を張っていた。

 アルベルト様がボードゲームを持って来て、わたくしとラファエルお兄様とアルベルト様はボードゲームで遊んだ。

 サイコロの目で進む距離が決まるボードゲームで、運の要素が強いので、わたくしでも勝てる可能性がある。

 三回勝負して、わたくしが一回、アルベルト様が二回勝った。負け続きのラファエルお兄様は悔しそうだった。


 遊びながらわたくしは思い出す。

 前世でわたくしが死んだとき、わたくしが十五歳だった。

 今のラファエルお兄様とアルベルト様は十五歳で、わたくしが死んだ年齢と同じになっている。

 十五歳の三人がボードゲームをして遊べたような気がして、わたくしはすごく満足していた。


 ラファエルお兄様とアルベルト様は来年には十六歳になって、再来年には十七歳になって、死んだクラリッサの年齢を追い越していく。

 死んでしまっているのでクラリッサが年を取ることはなく、同じ年でいられるのは今だけだと思うと、もっとラファエルお兄様とアルベルト様と遊びたい気持ちがわいてきて、わたくしはもう一回ボードゲームをさせてもらった。

 結果はアルベルト様の勝ちで、負けたラファエルお兄様はものすごく悔しそうだった。


「アルベルトはサイコロに細工をしているんじゃないか?」

「そんなことはないよ。偶然勝っただけだよ」

「一度も勝てなかったなんて悔しいな。セラフィナ、アルベルト、ミカエルには内緒にしていてくれよ」


 ラファエルお兄様はミカには格好付けたい様子だった。

 内緒にすると約束すると、ラファエルお兄様は機嫌を取り戻した。


 お茶の時間には、ティールームに行ってラファエルお兄様とわたくしとアルベルト様でお茶を飲んだ。

 ラファエルお兄様はアルベルト様に相談していた。


「ミカエルが来られないのを悲しがって泣いていたのだが、何かいいお土産がないかな?」

「ベルンハルト公爵領で採れた苺は?」

「苺はミカエルも大好きだな。もらっていいか?」

「用意させるよ」


 ラファエルお兄様とアルベルト様が話していると、身長が成人男性くらいあるせいか、男同士の話という感じがする。初めて出会ったころには高い声だったアルベルト様も、声変わりして低い声になっている。ラファエルお兄様もわたくしが生まれたころにはまだ声が高かった気がするのに、今は低い声になっている。


「お兄様とアルベルトお兄様が話していると、大人同士みたいです」


 わたくしだけが小さくて子どもに見えると小さく呟くと、ラファエルお兄様とアルベルト様が顔を見合わせる。


「セラフィナはまだ五歳だからね」

「五歳だけど、立派なレディであることは認めるよ」

「そうだよ、セラフィナはレディだよ」


 五歳でもわたくしを馬鹿にしたりせず、レディとして扱ってくれるラファエルお兄様とアルベルト様がわたくしは大好きだった。

 体は五歳でも、クラリッサの記憶があるのでわたくしの魂は十五歳なのかもしれない。いや、クラリッサが生きた時間にセラフィナが生きた時間を合わせると二十歳になるのだが、さすがにその年齢に精神が到達しているとは言えなかった。


 お茶の時間の後で、わたくしとラファエルお兄様は順番にお風呂に入った。

 客間に戻って客間のバスルームで体と髪をマティルダさんに洗ってもらって、暖炉の前で長い髪を乾かしてもらう。入れ違いにバスルームに入ったラファエルお兄様は、髪をタオルで拭いていた。


 夕食にはベルンハルト公爵家の叔父様と叔母様もご一緒した。

 叔父様と叔母様は食事をしながら葡萄酒を飲んでいた。

 この国では保護者と一緒ならば年齢制限なくアルコールが飲めるし、食事と一緒ならば外でも十六歳からアルコールが飲めるようになっている。

 さすがに五歳のわたくしは葡萄酒は飲まなかったが、ラファエルお兄様とアルベルト様は進められて少しだけ飲んでいた。


 夕食後にはコートを着て、マフラーと手袋を身に付けてアルベルト様の部屋のテラスに出た。テラスにも雪は積もっていたが、テラスのテーブルと椅子は雪が払ってあって、きれいに拭っていた。

 椅子に座って温かい紅茶を飲みながら星を見上げる。

 空は暗く、冷たい空気の中、星が輝いていた。


「星座に詳しくないのが悔やまれるな」

「星座の本を用意しておけばよかった」

「あの一番大きく光っている星、名前がありそうですね」

「今度調べておくよ、セラフィナ」


 星座の名前も星の名前も分からなかったけれど、満天の星空は美しく、わたくしたちは白い息を吐きながら天体観測を続けていた。


「お兄様、星座ってなんですか?」

「星を繋いで色んなものに例えて名前を付けて呼んでいるものだよ」

「星座……わたくし、そんなものがあるなんて知りませんでした」


 前世のわたくしは空を見上げるような余裕はなかったし、今世では夜は眠ってしまって外に出ることがない。

 わたくしは星をしっかりと認識して見たのは初めてかもしれない。


「エリカの星座もあるでしょうか?」

「狼座とか、ありそうだね」

「ヒースの星座もあるでしょうか?」

「ヤマネコ座なんかはありそうだ」


 エリカの星座やヒースの星座があるか確かめるわたくしに、ラファエルお兄様もアルベルト様も馬鹿にせずに答えてくれた。


 星を見た後で、わたくしはヒースに会った。

 ぱやぱやの毛が生えていた小さなヒースは、驚くほど大きくなっていて、毛が長く伸びていた。真っ白だった体には顔の中心部分と足の先が色が濃くなっていて、子猫のころの面影はあまりなかった。


「ヒース、おいで」

「なうん」


 アルベルト様が呼ぶと返事はするのだが、ヒースはわたくしたちのところに近付いてこない。知らない相手だから警戒されているのかもしれない。


「ヒース、お前を助けてくれたセラフィナだよ」

「なぁん」


 アルベルト様が話しかけても、知らないとでも言うようにヒースは背を向けて暖炉の前で丸くなってしまった。

 触りたかったが、猫にどのように接していいのか分からない。


「アルベルトお兄様、触ってもいいですか?」

「今はやめておいた方がいいかもしれない。ヒースは引っ掻くんだ」

「そうですか」


 残念だったがわたくしはヒースを撫でることを諦めて、ヒースを観察だけした。

 小さかったヒースが元気に育っているのを見られただけで満足だった。


 夜は客間でラファエルお兄様と同じ部屋で眠った。

 ベッドは別々だったが、ラファエルお兄様は灯りを消すときに、わたくしの額にキスをしてくれた。


「お休み、セラフィナ」

「お休みなさい、お兄様」


 明日には宮殿に帰らなければいけない。

 わたくしは待っているミカのためにも帰りたい気持ちはあったが、もう少しベルンハルト公爵家にいたい気持ちもあった。

読んでいただきありがとうございました。

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